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27 青い篭手の第三部隊
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朝の運動を始める。
昨夜は賊のアジト跡で一夜を過ごした。
僕はといえば少し寝不足だ。
マリエルの真面目なお願い、あの言葉が気になったと言えば気になったからだ。
欠伸をしながら回りを見る。
今は、聖騎士達が囲っていた塀を壊しては燃やしていた。
井戸や建物は昨日のうちに破壊し終わっている。
僕は、縛られているジャッカルの見張り。
元盗賊が盗賊を見張るという、なんとも奇妙な……。
「俺達よりも盗賊らしい動きだな」
「達っていうのは、僕も含まれているんですかね」
ジャッカルの問いに僕は反応する。
「当たり前だろ。
なぁ、逃がしてくれよ。
俺様のお宝を渡すからよ」
「どうせ今持ってませんよね」
僕はジャッカルの方を向かないで喋ると、ジャッカルも当然な答えが返って来る。
「良くわかったな」
「ええまぁ、そうだろうなと」
「ったく、昔からそういう奴だったよお前は。
冷酷というか人を信じない目というか」
「昔は覚えていませんが、信じる相手ぐらいは見極めているので」
「だったら、俺の事は信じられる相手って事だな」
ああ言えば、こういう……。
ジャッカルと会話が終わる頃には、マリエル達のアジト解体も全て終わっていた。
敵が二度とここに戻って来れないように徹底的に。
「おまたせー。
じゃ、いきましょうか」
僕らはカーヴェへいく近道という道を歩く事にした。
暫く歩いた所で全員が暗い顔になる。
道のあちこちで賊が死んでいるからだ。
それだけならまだしも、全身に矢を受けて死んでいる者や、落とし穴に落ちて死んだ人間もいる。
「ちょっと、どういう事よ……」
マリエルが、縛られているジャッカルへと詰め寄る。
「俺に言われてもな……。
だからいったろ?
嫌な予感がするから俺はアジトに隠れていたって」
ふざけた喋りではなく、真面目な喋りだ。
ファーが死体を調べて戻ってきた。
「おそらく毒ですね。
他は罠でしょうか。
昼間ならまだしも、夜であれば見えません」
「同情はしないけど、酷いわね。
ジャッカル、心当たりは?」
「姐さん方、その情報が欲しいなら手を自由にさせてくれよ。
おちおち、股間に付いている息子の位置すら直せないって、男にとってはつらいんだ。
なぁヴェルっ」
突然変な事を振らないで欲しい。
「えっ!!。
ヴェ、ヴェル、男性ってそうなの……?」
他の女性隊員も少し赤面してる人と、頷く隊員がいる。
「その質問には黙秘します」
「かー……、ヴェルを引き合いにしたら、俺の待遇もよくなるとおもったんだけどなぁー」
ジャッカルは全く悪びれない。
「ま、まぁいいわ。
手ぐらいなら、その代わり腰紐はつけたままだし、逃げると斬るわよ」
「かまわねえよ」
ファーが、手を縛っている縄を切る。
ジャッカルはズボンの中に手を突っ込んで、もぞもぞしながら話し出す。
だから、いちいち僕を見ないでくれ……。
周りの視線が変な事に。
「ふう、ほっとしたぜ。
で、昨日も言ったけど、この道は緊急時のみ使えと命令受けていてな。
普段は、昨夜話した副官が鍵を持っている。
途中には休憩所が二つあり食料と水、当座の金も用意されている手はずだ。
まぁ、この状況を見ると罠だったんだろうな」
情報をもらさないために、徹底した配置だ。
さらに進むと、小屋が見えた。
ジャッカルの言うとおり小屋の中には食料や水、貴金属が置いてあった。
さすがに誰も触ろうとしない。
そんな中、ジャッカルがひょいひょいと、顔をだす。
「姐さん方どうする? 俺なら毒付きの金属ぐらいなら見分けつくぞ。
どうせ警備隊にまかせるんだろ?。
このままだったら警備隊にも死人がでるぞ?。
確かに、食料は全部毒が入っていると伝えればいいが、貴金属はそうもいかない。
後から来た者が着服し、死に至る場合もある。
「はー……、今度は何が望みよ」
「おっと、姐さん。
少しは人を信じたほうがいいぜ、命を助けてもらった礼だっちゅうに」
「アナタ以外の人間なら信じるわよっ!」
小休憩となった。
マリエル達は穴を掘り、毒の入った食料を集めては処理をする。
ジャッカルは少ないが、貴金属の品定めをしている。
隊員達に毒付きと大丈夫なのを別けて指示しているが、毒がついていると、言ったはずの貴金属を何個か隠しもったのを僕は見た。
本当は毒がない奴を着服してるのだろう。
僕の視線に気づいたのだろう、にやっとするだけで平気な顔である。
反射的にマリエルの顔を見た。
小さく手をパタパタとふり、ため息を付く。
なるほど、マリエルもジャッカルの行動を確認したのだろう。
しかし、さわぐ事はしなかったので、僕も特に騒がない事にした。
カーヴェの町のほうから、皮鎧を着た人間が何人も走ってくる。
僕らを見ると驚き、剣を構えようとし始めた。
「だ、だれだ」
マリエルは赤い模様のはいった篭手を見せ付ける。
「聖騎士団第七部隊隊長、マリエル。
あとは、第七部隊の隊員と、極秘任務で護衛中の男性。
さらに、盗賊一名確保をカーヴェの町へ移動中。
さて、こっちは名乗ったわよ」
一人の男性が驚き、敬礼する。
「申し訳ありませんっ! 警備兵のロランともうします。
昨夜から森のほうから異臭があり、それを調べろと命令が」
「なるほどね。
じゃ、その話もしたいから、詰め所へ案内してほしいんだけど」
小休止も終了だ。
若い警備兵達に連れられて、町入り口の詰め所へと入った。
これまでの事を話してジャッカルを詰め所へと預ける。
「じゃぁな、姐さん方。
縁があったらまた合おう」
「盗賊となんて縁は要らないわよっ!」
マリエルは小さく舌をだして別れを言う。
捕まっているのに、妙にのん気なジャッカルと別れた。
森の処理はあとは警備隊に任せる手はずとなった。
後はもうこのカーヴェの町には用はない、僕は外からその塀を見上げた。
今まで見たどの町よりも大きな石塀。
どこまでも伸びており、中の町の大きさがわかる。
「大きいですね町ですね」
「宿も食べ物も何もかも大きいわよ。
もうすぐ年に一回収穫祭があるんだけど、その時の食べ物がまた美味しいのよ。
別名帝国際」
「帝国際って……」
帝国とは隣の国だ。
ファーが大きく咳をする。
話したらまずい事なんだろう。
「ま、ヴェルには関係ないか、ごめんごめん」
「いえ、大丈夫です」
「じゃ、こわーい副隊長が見てるから休憩後出発しましょうか」
再びファーが咳払いをしてマリエルを睨む。
マリエルの提案で、それぞれが休憩に入る。
もちろんカーヴェの町には入らないで、外だ。
休憩していると、大きな集団が遠くから来るのが見えた。
馬に乗った人、さらには馬車が見えた。
「荷馬車にも見えないし、馬車って珍しいですね」
町から町を移動する馬車は、当然ある。
しかし、よっぽどじゃない限り普通の馬車は町の外にはいかない。
道が悪いからだ。
徒歩や馬のほうが小回りがきく。
「どこかの貴族でも乗って……。
やばっ! ヴェルは木の影へ隠れてっ、早くっ。
全員起きて整列」
言われるままに、慌てて隠れる。
隠れてはいるが、声と姿は確認できた。
マリエルの声が響くと、それまで自由にしていた隊員が二列に並ぶ。
馬上の人間がマリエル達をみると、片手を上げて合図をしてきた。
白髪が混じった短い髪の男性を中心にした数十名の集団。
馬車を守るようにゆっくりと動いている。
皮鎧を着ており、その腕には青い細工が入った篭手が見えた。
白い歯を見せ、穏やかな目をしながら、マリエル達の前で馬を止まらせた。
マリエルが腕の篭手を見せ敬礼する。
白髪の男性も篭手を見せる。
その後に、豪華な装飾が施された馬車が止まる。
馬車を操縦していた若い男性が、慌てて扉を開けた。
中からは、小太りした青年が降りてきた。
外見は顔はボツボツがあり病気かと思ってしまった青年。
太ったお腹に、これまた装飾が光る短剣を腰につけている、アンバランスな格好だ。
それよりも、この青年も腕には青い篭手をしているのが見えた。
にやけた顔のままマリエルの前に立つ。
その匂いを嗅いでいるのか鼻の穴が大きくなったり小さくなったりしている。
「マリエルにファーよ、ずいぶんと久しいざんすね」
「マキシム第三部隊隊長も、お元気そうでなりよりです」
「つれないのう、昔みたいにマキシムと、呼んではくれないざんすか?」
マリエルの変わりに今度はファーが一歩前と出る。
「お言葉ですが、現在は職務中でありますので」
マリエル達は嫌悪感を出しながら話している。
気に食わないのだろう、マキシムと呼ばれた男が、マリエルの後ろにいる女性達を、舐め回すようにみている。
「ふーん……。
どうざんす? 俺様が訓練をつけてやるから、何人か俺様の所へこさせないざんすか?
そのほうが、女だけの使えない第七部隊の評判も上がると思うんざんす」
訓練と言っているが、その喋り方から普通の訓練ではないのが感じ取られた。
「女だけの使えない隊でありますが、隊長である以上途中で放棄しないように頑張りたいと思います。
その結果がどうあれ、着いて来てくれてる隊員の為でありますから」
「ふんっ、その言葉後悔するなざんす。
おい、馬をだせざんす」
強引に馬車の扉を閉めると、馬車がカーヴェの町へ入っていった。
白髪の男性だけが、その場に残る。
「いやーすまんな、本当はマキシム隊長以下数名で来る予定だったんだが。
ちょっと胸騒ぎがしてのワシが勝手について来た」
「あんな奴に隊長とか、プッケル隊長は……」
「はっはっは、ワシは元だ、元。
いまはマキシム殿の隊にいる一兵のプッケルに過ぎない」
「しかし……」
「で、例の少年はどこかな?
報告書にあった彼だ」
「あの、第三部隊が知ってるはず無い情報なんですけど……」
「はっはっは、こっそりな。
何、あのマキシム隊長はしらんよ。
せっかくなら会って行きたい」
プッケルという男性が、僕を探しているらしい。
出て行っていいのだろうか?。
マリエルを見ると、手招きしていた。
僕は、プッケルの前へでる。
馬上からじゃ失礼だったなと、わざわざ馬を降り僕に握手を求めてきた。
硬くて暖かい手だ。
「ふむ、少しかげがみえるが純粋そうな少年じゃないか」
「ありがとうございます」
褒められているのかわからないけど、お礼を言っておく。
「しかし、お前達ももう少し遅くか、早くかしていれば……」
「不都合が?」
「ああ、この付近にいる第七部隊を見つけた場合は今回の作戦に組み込まれている。
会ったからには、カーヴェの町へ待機だろう。
今すぐにここをでても、あの隊長が使いをよこす」
青い筒を二本、マリエルへ手渡した。
マリエルはそのまま、ファーへと手渡す。
ファーは片方を筒の先を剣で切ると中に入っている紙を黙読する、そしてもう一つを読むと笑顔で微笑んだ。
読み終わった後に、プックルへと話しかけた。
「ずいぶんと凄い話ですね」
「ああ、一応な。
では、ワシにも雑務があるのでな、後で宿を教えてくれ相談したい事がある」
プックルは馬に乗りカーヴェへと入っていく。
マリエルとファーの間に重苦しい空気が広がる。
「ごめん、特務が入ったわ。
作戦内容は夜にでも、それまではカーヴェに待機して各自休憩。
宿は、カサブランカ。
あそこなら私達に都合がいいわ」
「マリエルたいちょー、ヴェルにいはどうするのだ?」
ミントの問いに、マリエルは親指をくわえる。
「ごめんヴェル。
この町でお別れね」
昨夜は賊のアジト跡で一夜を過ごした。
僕はといえば少し寝不足だ。
マリエルの真面目なお願い、あの言葉が気になったと言えば気になったからだ。
欠伸をしながら回りを見る。
今は、聖騎士達が囲っていた塀を壊しては燃やしていた。
井戸や建物は昨日のうちに破壊し終わっている。
僕は、縛られているジャッカルの見張り。
元盗賊が盗賊を見張るという、なんとも奇妙な……。
「俺達よりも盗賊らしい動きだな」
「達っていうのは、僕も含まれているんですかね」
ジャッカルの問いに僕は反応する。
「当たり前だろ。
なぁ、逃がしてくれよ。
俺様のお宝を渡すからよ」
「どうせ今持ってませんよね」
僕はジャッカルの方を向かないで喋ると、ジャッカルも当然な答えが返って来る。
「良くわかったな」
「ええまぁ、そうだろうなと」
「ったく、昔からそういう奴だったよお前は。
冷酷というか人を信じない目というか」
「昔は覚えていませんが、信じる相手ぐらいは見極めているので」
「だったら、俺の事は信じられる相手って事だな」
ああ言えば、こういう……。
ジャッカルと会話が終わる頃には、マリエル達のアジト解体も全て終わっていた。
敵が二度とここに戻って来れないように徹底的に。
「おまたせー。
じゃ、いきましょうか」
僕らはカーヴェへいく近道という道を歩く事にした。
暫く歩いた所で全員が暗い顔になる。
道のあちこちで賊が死んでいるからだ。
それだけならまだしも、全身に矢を受けて死んでいる者や、落とし穴に落ちて死んだ人間もいる。
「ちょっと、どういう事よ……」
マリエルが、縛られているジャッカルへと詰め寄る。
「俺に言われてもな……。
だからいったろ?
嫌な予感がするから俺はアジトに隠れていたって」
ふざけた喋りではなく、真面目な喋りだ。
ファーが死体を調べて戻ってきた。
「おそらく毒ですね。
他は罠でしょうか。
昼間ならまだしも、夜であれば見えません」
「同情はしないけど、酷いわね。
ジャッカル、心当たりは?」
「姐さん方、その情報が欲しいなら手を自由にさせてくれよ。
おちおち、股間に付いている息子の位置すら直せないって、男にとってはつらいんだ。
なぁヴェルっ」
突然変な事を振らないで欲しい。
「えっ!!。
ヴェ、ヴェル、男性ってそうなの……?」
他の女性隊員も少し赤面してる人と、頷く隊員がいる。
「その質問には黙秘します」
「かー……、ヴェルを引き合いにしたら、俺の待遇もよくなるとおもったんだけどなぁー」
ジャッカルは全く悪びれない。
「ま、まぁいいわ。
手ぐらいなら、その代わり腰紐はつけたままだし、逃げると斬るわよ」
「かまわねえよ」
ファーが、手を縛っている縄を切る。
ジャッカルはズボンの中に手を突っ込んで、もぞもぞしながら話し出す。
だから、いちいち僕を見ないでくれ……。
周りの視線が変な事に。
「ふう、ほっとしたぜ。
で、昨日も言ったけど、この道は緊急時のみ使えと命令受けていてな。
普段は、昨夜話した副官が鍵を持っている。
途中には休憩所が二つあり食料と水、当座の金も用意されている手はずだ。
まぁ、この状況を見ると罠だったんだろうな」
情報をもらさないために、徹底した配置だ。
さらに進むと、小屋が見えた。
ジャッカルの言うとおり小屋の中には食料や水、貴金属が置いてあった。
さすがに誰も触ろうとしない。
そんな中、ジャッカルがひょいひょいと、顔をだす。
「姐さん方どうする? 俺なら毒付きの金属ぐらいなら見分けつくぞ。
どうせ警備隊にまかせるんだろ?。
このままだったら警備隊にも死人がでるぞ?。
確かに、食料は全部毒が入っていると伝えればいいが、貴金属はそうもいかない。
後から来た者が着服し、死に至る場合もある。
「はー……、今度は何が望みよ」
「おっと、姐さん。
少しは人を信じたほうがいいぜ、命を助けてもらった礼だっちゅうに」
「アナタ以外の人間なら信じるわよっ!」
小休憩となった。
マリエル達は穴を掘り、毒の入った食料を集めては処理をする。
ジャッカルは少ないが、貴金属の品定めをしている。
隊員達に毒付きと大丈夫なのを別けて指示しているが、毒がついていると、言ったはずの貴金属を何個か隠しもったのを僕は見た。
本当は毒がない奴を着服してるのだろう。
僕の視線に気づいたのだろう、にやっとするだけで平気な顔である。
反射的にマリエルの顔を見た。
小さく手をパタパタとふり、ため息を付く。
なるほど、マリエルもジャッカルの行動を確認したのだろう。
しかし、さわぐ事はしなかったので、僕も特に騒がない事にした。
カーヴェの町のほうから、皮鎧を着た人間が何人も走ってくる。
僕らを見ると驚き、剣を構えようとし始めた。
「だ、だれだ」
マリエルは赤い模様のはいった篭手を見せ付ける。
「聖騎士団第七部隊隊長、マリエル。
あとは、第七部隊の隊員と、極秘任務で護衛中の男性。
さらに、盗賊一名確保をカーヴェの町へ移動中。
さて、こっちは名乗ったわよ」
一人の男性が驚き、敬礼する。
「申し訳ありませんっ! 警備兵のロランともうします。
昨夜から森のほうから異臭があり、それを調べろと命令が」
「なるほどね。
じゃ、その話もしたいから、詰め所へ案内してほしいんだけど」
小休止も終了だ。
若い警備兵達に連れられて、町入り口の詰め所へと入った。
これまでの事を話してジャッカルを詰め所へと預ける。
「じゃぁな、姐さん方。
縁があったらまた合おう」
「盗賊となんて縁は要らないわよっ!」
マリエルは小さく舌をだして別れを言う。
捕まっているのに、妙にのん気なジャッカルと別れた。
森の処理はあとは警備隊に任せる手はずとなった。
後はもうこのカーヴェの町には用はない、僕は外からその塀を見上げた。
今まで見たどの町よりも大きな石塀。
どこまでも伸びており、中の町の大きさがわかる。
「大きいですね町ですね」
「宿も食べ物も何もかも大きいわよ。
もうすぐ年に一回収穫祭があるんだけど、その時の食べ物がまた美味しいのよ。
別名帝国際」
「帝国際って……」
帝国とは隣の国だ。
ファーが大きく咳をする。
話したらまずい事なんだろう。
「ま、ヴェルには関係ないか、ごめんごめん」
「いえ、大丈夫です」
「じゃ、こわーい副隊長が見てるから休憩後出発しましょうか」
再びファーが咳払いをしてマリエルを睨む。
マリエルの提案で、それぞれが休憩に入る。
もちろんカーヴェの町には入らないで、外だ。
休憩していると、大きな集団が遠くから来るのが見えた。
馬に乗った人、さらには馬車が見えた。
「荷馬車にも見えないし、馬車って珍しいですね」
町から町を移動する馬車は、当然ある。
しかし、よっぽどじゃない限り普通の馬車は町の外にはいかない。
道が悪いからだ。
徒歩や馬のほうが小回りがきく。
「どこかの貴族でも乗って……。
やばっ! ヴェルは木の影へ隠れてっ、早くっ。
全員起きて整列」
言われるままに、慌てて隠れる。
隠れてはいるが、声と姿は確認できた。
マリエルの声が響くと、それまで自由にしていた隊員が二列に並ぶ。
馬上の人間がマリエル達をみると、片手を上げて合図をしてきた。
白髪が混じった短い髪の男性を中心にした数十名の集団。
馬車を守るようにゆっくりと動いている。
皮鎧を着ており、その腕には青い細工が入った篭手が見えた。
白い歯を見せ、穏やかな目をしながら、マリエル達の前で馬を止まらせた。
マリエルが腕の篭手を見せ敬礼する。
白髪の男性も篭手を見せる。
その後に、豪華な装飾が施された馬車が止まる。
馬車を操縦していた若い男性が、慌てて扉を開けた。
中からは、小太りした青年が降りてきた。
外見は顔はボツボツがあり病気かと思ってしまった青年。
太ったお腹に、これまた装飾が光る短剣を腰につけている、アンバランスな格好だ。
それよりも、この青年も腕には青い篭手をしているのが見えた。
にやけた顔のままマリエルの前に立つ。
その匂いを嗅いでいるのか鼻の穴が大きくなったり小さくなったりしている。
「マリエルにファーよ、ずいぶんと久しいざんすね」
「マキシム第三部隊隊長も、お元気そうでなりよりです」
「つれないのう、昔みたいにマキシムと、呼んではくれないざんすか?」
マリエルの変わりに今度はファーが一歩前と出る。
「お言葉ですが、現在は職務中でありますので」
マリエル達は嫌悪感を出しながら話している。
気に食わないのだろう、マキシムと呼ばれた男が、マリエルの後ろにいる女性達を、舐め回すようにみている。
「ふーん……。
どうざんす? 俺様が訓練をつけてやるから、何人か俺様の所へこさせないざんすか?
そのほうが、女だけの使えない第七部隊の評判も上がると思うんざんす」
訓練と言っているが、その喋り方から普通の訓練ではないのが感じ取られた。
「女だけの使えない隊でありますが、隊長である以上途中で放棄しないように頑張りたいと思います。
その結果がどうあれ、着いて来てくれてる隊員の為でありますから」
「ふんっ、その言葉後悔するなざんす。
おい、馬をだせざんす」
強引に馬車の扉を閉めると、馬車がカーヴェの町へ入っていった。
白髪の男性だけが、その場に残る。
「いやーすまんな、本当はマキシム隊長以下数名で来る予定だったんだが。
ちょっと胸騒ぎがしてのワシが勝手について来た」
「あんな奴に隊長とか、プッケル隊長は……」
「はっはっは、ワシは元だ、元。
いまはマキシム殿の隊にいる一兵のプッケルに過ぎない」
「しかし……」
「で、例の少年はどこかな?
報告書にあった彼だ」
「あの、第三部隊が知ってるはず無い情報なんですけど……」
「はっはっは、こっそりな。
何、あのマキシム隊長はしらんよ。
せっかくなら会って行きたい」
プッケルという男性が、僕を探しているらしい。
出て行っていいのだろうか?。
マリエルを見ると、手招きしていた。
僕は、プッケルの前へでる。
馬上からじゃ失礼だったなと、わざわざ馬を降り僕に握手を求めてきた。
硬くて暖かい手だ。
「ふむ、少しかげがみえるが純粋そうな少年じゃないか」
「ありがとうございます」
褒められているのかわからないけど、お礼を言っておく。
「しかし、お前達ももう少し遅くか、早くかしていれば……」
「不都合が?」
「ああ、この付近にいる第七部隊を見つけた場合は今回の作戦に組み込まれている。
会ったからには、カーヴェの町へ待機だろう。
今すぐにここをでても、あの隊長が使いをよこす」
青い筒を二本、マリエルへ手渡した。
マリエルはそのまま、ファーへと手渡す。
ファーは片方を筒の先を剣で切ると中に入っている紙を黙読する、そしてもう一つを読むと笑顔で微笑んだ。
読み終わった後に、プックルへと話しかけた。
「ずいぶんと凄い話ですね」
「ああ、一応な。
では、ワシにも雑務があるのでな、後で宿を教えてくれ相談したい事がある」
プックルは馬に乗りカーヴェへと入っていく。
マリエルとファーの間に重苦しい空気が広がる。
「ごめん、特務が入ったわ。
作戦内容は夜にでも、それまではカーヴェに待機して各自休憩。
宿は、カサブランカ。
あそこなら私達に都合がいいわ」
「マリエルたいちょー、ヴェルにいはどうするのだ?」
ミントの問いに、マリエルは親指をくわえる。
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