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12 裸の付き合い

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 男湯である。
 いや、男湯だったはずだ。
 白い裸体がまぶしいミントが、僕に石けんを手渡してくる。
 全く隠そうとしないミントは僕の一部分を見ていた。

「ヴェルにいについてるの。
 弟達とぜんぜんちがうのだ」

 っ!。
 手に持っていた桶をミントの顔面へと被せた。
 前がみえないなのだっ! と、喋っているが無視。
 急いで脱衣所へもどる。
 石けんとともに持ち忘れたタオルをつかんで、腰にへとつけた。
 腕の黒篭手をみる、どうせミントは見ているだろう。

「おけが取れたのだ」

 ミントが、小走りに走ってくる。
 もちろん、まったくと言うほど、隠していない。
 なるべく顔のほうだけを見るようにする。

「あの、ここ男湯だよね?」
「ミント、反対から入ったなのだ」

 …………。
 よーく目を凝らすと、僕のいる反対方向には脱衣所らしき扉が見える。
 
「ヴェルにいが、石けん探しているみたいなので届けたのだ……」
「ああ、いや。
 別に怒っているわけじゃなくて」

 僕が強く言ったのか、ミントはしゅんとしている。
 お互いに、混浴と気付かなかったのが悪い。
 とはいえ、出たほうがいいだろう。

「ヴェルにい、一緒に入るのだ」
「え、いや」

 ミントが、黒篭手のつけている右手を引っ張る。
 力は強く振りほどけない。
 僕が、思わず力をいれるとミントの動きが止まる。
 不思議な顔で僕を見た後、僕を強引に湯のほうへ放り投げた。

 目をつぶり、頭から全身で湯船に沈む。
 顔を上げると、ミントが満足した顔でウンウンと頷いている。
 
「あーもう、どうでもいいや……」

 両手で髪を整える。
 ミントはまだ子供だし、相手が気にしていない以上、僕が気にしすぎても、しょうがない。 
 幸いというか、やはり僕はズレていると自覚している。
 子供の時は周りの盗賊が、そういう事をしていたのは見ていた。
 だからフローレンスお嬢様の下着を見てもなにも思わなかったわけで。
 ミントは洗い場で、体を洗い出した。
 本当は湯船に入る前に洗うのがルールであるが、もう突き落とされたのでそのまま入る。
 お湯が気持ちよく、眠ってしまいそうになっていく。

「あらあら、お隣よろしいですかえ」

 聞いた事の無い声で、慌てて横を向く。
 大きな胸をタオルで隠した女性が僕の隣に入ってくる。

「え、あの……。
 混浴なんですけど」
「ええ、しってますえ」
「そ、そうですか」

 紫の髪を一つにまとめ。流し目をして僕を見ている。
 混浴だと知っているのに、こう隣に来られるの、変な気分だ。

「どちらから、きましたんえ?」
「僕ですよね、フェイシモ村です」
「フェイシモ村ですかえ、あの村は何やら惨事に巻き込まれたとか……。
 すまんえ、いやな事を思い出せてしまったかえ」
「大丈夫です」

 女性は僕の腕を取ると、湯船の中でゆっくりと触ってくる。
 慰めているのか、誘ってきてるのか。
 手は腕と胸を触ってきている。
 なるほど、旅行できて普段とは違う場所で異性と仲良くなる。
 温泉があるタチアナでは珍しくも無いのだろう。 

「申し訳ないですが、僕はそういうのではありませんので。
 ご期待に添えなくて申し訳ありません」
「いけずやわー」

 太ももを触っていた女性の手が、僕の右腕をしっかりと掴むと離さない。
 思わず女性を見ると、妖しい笑みを浮かべ、赤い唇から舌を一舐めして戻す。

「意地悪なぼうや、この腕千切って持っていく事にすわえ」

 篭手狙いっ。
 油断していた、ここは貸切と言っていた。
 聖騎士以外の人間は僕しか入れないはずなんだ。
 僕がそう思った時には既に遅い。
 左肩も抑えられ湯から出る事すら出来ない、それ所が左肩を強引に外された。
 痛みに思わず瞳を閉じうなり声を上げた。

「おばちゃん何してるのだ?」

 場違いな声が聞こえたかと、痛みをこらえ目をあける。
 体を洗い終わり、全身何もきていないミントが湯船の近くでしゃがんでいる。
 僕は位置的に目線を外す。
 僕と女性を交互にみて、腕を組んで考え始めるミント。

「おじょうちゃん。
 おねーさんは忙しいからあっち」

 おねーさんの部分を強調して喋る女性。
 腕を組んだミントが組んだ腕を解いたかと思うと、予備動作も無くとび蹴りを仕掛けてきた。
 女性はその蹴りが当たる前に一回転をし洗い場へと立つ、相変わらずタオルで体の前側をタオルで隠している。

「これだから、話を聞かないおこちゃまは、こまったさんえ……」
「ヴェルにいだいじょうぶなのだ。
 いたいがまんしてなのだ」

 僕の肩に手を置くと肉体にゴリっとした鈍い音と痛みが走る。
 肩を入れてくれたミントに小さく、ありがとうと、伝える。
 僕を見て八重歯を光らせ笑ってくれた。
 直ぐに、うしろに下がってっなのだと、僕の体を女性から遠ざけた。

「あらあら、ウチと戦うきかえ」

 女性がミントをみて微笑んでいるのがみえる。
 しかし、その笑みは嬉しいという笑みよりも獲物を駆る表情にも見えた。
 ミントが口を開き短い気合を出す。
  
「はああっ」

 その様子をみて女性がげんなりとした声を出し始めた。

「はー、田舎娘は直ぐ暴力に頼りよる。
 ねー、ぼうやも、そうおもわんかえ?」

 僕を見て答えを求めるが、僕が答える前にミントがお湯から飛び出しだ。
 体を回転させ蹴りを女性へと攻撃した。

 一撃目、二撃目、三撃目。
 どれも当たれば強力な攻撃であるだろうが、タオルで前を隠している女性は全てを余裕で避ける。
 胸の谷間から石鹸を取り出すとミントの足元へ転がした。
 石鹸を踏んですべるミントはそのまま木の壁へと突進していった。
 大きな音が響いたと思うと、顔面を打ち付けたのが見て解る。

「ウチは平和的にきただけですのにねー。
 こうやって裸の付き合いをしてるだけですのに」

 じりじりと寄ってくる女性。

「貴方の狙いがコレなのは何となくわかるんですけど。
 先約がいるので帰るって選択肢はないですか?」

 僕は腕の篭手を見せつけながら一歩引く。
 唇に人差し指をあて数秒考える様子をみせる女性、もちろん首を横に振る。
 女性の背後から、桶をもったミントがジャンプしながら攻撃を仕掛けるのが見えた。
 うしろに目でもあるのか女性は脚を背後に開脚して蹴りをいれる。ミントが僕の横に水、いやお湯飛沫を立てながら突っ込んでくる。

「ぷわっ」

 直ぐに頭を出して女性をみるミント、その鼻からは鼻血が垂れている。
 その顔を見て女性が挑発をする。

「あらあら。
 血なんかでちゃって、今夜はお祝いからしらねぇ、でも……」

 一度言葉をとめる女性。

「うるさいから、殺しちゃいましょうかね」

 隠していたタオルから剣を取り出す。
 刀身は細く刃の厚みも紙のように薄い。
 一歩踏み込む女性が剣をミントへと突き刺す。
 横に避けるミントの姿を確認した所で女性が笑うのが見えた。
 剣が横に曲がりミントの体を突き刺した。

 女性が腕を引き抜くと、ミントの体からも剣ぬが抜き出る。体から血がドクドクと溢れ湯を赤く染める。

「聖騎士様は死ににくいえ、何回で死ぬかねえ」

 再び剣を走らせる女性。
 苦痛に顔をゆがませるミントを抱き守る。

「ヴェルにいっ! だめなのだっ!」

 僕の体に剣が当たり剣先が曲がる。
 抱いて守っているミントの背中に剣が突き刺さる。
 ヘビの様な攻撃がかわしきれない。
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