上 下
196 / 209

192 すれ違い

しおりを挟む
 興奮するナナを座らせて話を聞く事にする。

「ええっとですね。昨夜ヒュンケル校長さんが工房に来まして、エルンさんが持っているそのアクセサリ。それと同じものは作れるか? と聞かれまして。
 あの、ディーオ先生からその、アクセサリ……賢者の石ですよね。その事はたとえ王でも秘密にするようにと言われてまして、どうしようか悩んでいたんですけど」
「ふむふむ」
「ヒュンケル校長さんは、別に中身は言わなくてもいい。といいまして……『エルンちゃんに金貨十万枚で売ってくれと言ったら断られのう』と」


 私は直ぐに立ち上がる。


「ガルド! 校長、いや王を探してきてっ!」
「エ、エルンさん!?」
「売るわよ、金貨十万枚? 白金貨で一万枚よね」


 日本円にして十億よ十億!


「あと八十年生きるとして、ええっと……」


 十億÷八十÷事の三六五は約金貨三.四枚


「ノエ!」
「ひゃ、はい!?」
「一日金貨三枚使い続けても八十年は暮らせるのよ! 売ったほうがいいでしょ!」
「ええっと……ディーオ先生から石は秘密だって」
「うっ……そうだった。あっガルドちょっと行くのキャンセルで」


 出発直前のガルドを大声で止めて、ソファーに座り込む。
 まって。って事は私が賢者の石持ってるのを知ってたって事か……相変わらずの狸王め。


「で、ナナはなんて答えたの?」
「はい、いくらお金を積まれましても出来る物と出来ない物がありますと。お断りさせてもらいました」
「先払いで貰って逃げるって手もあったわよね!」


 一瞬ナナが信じられないって顔をして私を見て小さく笑った。
 あ、これ愛想笑いだ。


「エルンさん、あの先払いと言っても金貨を十万枚ですよね。保管場所も困ると思うんですけど」
「はっ! 確かに」
「後やはり、騙すような事は出来ないといいますが」
「じょ、冗談よ。そんなのわかってるじゃない」
「ですよね! 安心しましたっ!」


 キラキラと光る視線がまぶしい、まぶしいわ。


「その後王は?」
「ランバート家のほうに行く約束があると言われて……」


 ランバート……? ああ、リュートの家か。
 たぶん嘘だろうなぁ。
 私は胸元の賢者の石を取りだして見つめてみる。

 ナナが作ってくれた保護ホルダーに入っており隙間から見える色は七色に輝いている。
 これ付けてから調子いいのよね。
 自慢できるほどよい胸のおかけで肩こりが酷かったのも、これをつけて治ったし。


「手詰まりね。何考えているのかしら王は家出までして」
「とても、病気そうには見えなかったんですけど……」
「ああ、ナナも新聞読んだの?」
「いえ、わたしはあの新聞が高いので読まないんですけど、マギカさんが教えてくれまして」


 確かに高いわよねー三ページぐらいしかないのに銀貨五枚もするし。
 主に飲食店が客寄せのアイテムとして取ったりする。


「あの子好きそうだもんね、そういう下らないゴシップ記事」
「………………」
「ナナ?」
「あっいえ、何でもないです!」


 なんだろ? ともあれ私は、なぜかこっちを見ていたナナに昨日学園で聞いた事をかいつまんで話した。
 ナナは腕を組んで考え込んでいる。
 小さい子が大人ぶってるみたいで可愛い姿だ。


「ヘルン王子様が王になるんですか」
「順番にいったらそうなるわね、カインのほうがよかった?」
「いえ、どちらでも構わないんですけど……争いが無いほうがいいかなって。ひゃ」


 思わずナナの頭を撫でる。


「優しいわねぇ。あの兄弟ならないでしょ…………たぶん」
「ですよね!」


 自分で言ってなんだけど、やっぱり、どちらかが悪役になり政権をとる展開は見てみたい。口には出さないけど。


「その、賢者の石ってなんなんでしょう?」
「何って」


 考えを中断させてノエを見ると、凄いまっすぐな目で私を見てくる。
 その真剣な目に思わず言葉が詰まった。


「エルンさんは、その石の事を何所で知ったんですか? わたしミーナさんに聞いたんです。そんな危ないアイテムをエルンさんに何で教えたんですかっ! って。
 ミーナさんは教えてないしエルンちゃんに聞いてね。としか」
「前世で!」


 反射的に答えたらナナの表情が固まった。


「………………帰ります」


 え、ちょっと。
 本当の事言っただけなんだけど、ナナは暗い顔のまま立ち上がった。


「いや、ナナ?」
「いいんです。きっと教えられないんですよね。大丈夫ですナナは信じてます。
 錬金術のレシピは高難易度になるほど他人に教えられないって事を忘れてました。
 大丈夫です、わたしが疎かでした。ごめんなさい」
「信じてないわよね、表情が」


 廊下に出るので私は追いかける。


「大丈夫ですから」
「なんで複数回言うのよ。ねぇナナっ前世っていうか夢っていうかね」


 失礼します。
 と、言うとナナは玄関から帰っていった。
 視線を感じて思わず振り返るとガルドとノエが立っている。


「そうなるだろうな、さっするにレシピを聞かれたんだろ? どこでと聞かれて前世はない」
「ノ、ノエはおじょうさまを信じます!」


 まったく信じてなさそうなノエの言葉が余計につらい。
 本当なのに……でも、ゲームの知識って言うよりはまだいいじゃない?
 ミーナもミーナで、賢者の石の事しってるならちゃんと説明……あれ? ミーナって何で知ってるのかしら?

 ミーナの事考えると、ちょっと片頭痛へんずつうするのよね。
 ともかく錬金術の先輩なんだから説明するのが当たり前じゃないのよ。


「で、言い訳は考え付いたか?」
「ガルドさん! エルンおじょうさまを追い詰めたらダメです!」
「悪いノエ先輩」


 うぐ、ガルドの言葉が突き刺さるし、ノエの優しさもつらい。
 私悪くないのよ? なんだったらこの世界に生んだ神様が悪い、いや前世を思い出させた神様が……でも、思い出さなかったら破滅一直線だったわよね。
 ええっと、あーうーん。


「一日考えて何も思い浮かばなかったら…………明日学園にいく、ディーオに相談してみる……」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

【完結】記憶を失くした貴方には、わたし達家族は要らないようです

たろ
恋愛
騎士であった夫が突然川に落ちて死んだと聞かされたラフェ。 お腹には赤ちゃんがいることが分かったばかりなのに。 これからどうやって暮らしていけばいいのか…… 子供と二人で何とか頑張って暮らし始めたのに…… そして………

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

【完結】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか?

曽根原ツタ
恋愛
「クラウス様、あなたのことがお嫌いなんですって」 エルヴィアナと婚約者クラウスの仲はうまくいっていない。 最近、王女が一緒にいるのをよく見かけるようになったと思えば、とあるパーティーで王女から婚約者の本音を告げ口され、別れを決意する。更に、彼女とクラウスは想い合っているとか。 (王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは身を引くとしましょう。クラウス様) しかし。破局寸前で想定外の事件が起き、エルヴィアナのことが嫌いなはずの彼の態度が豹変して……? 小説家になろう様でも更新中

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

処理中です...