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186 女性達の厨房

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「エルン先生の三分クッキング」

 私がそう言うと、ナナとノエは拍手をしてくれる。
 場所は私の家の厨房、一人で入ると、おじょうさまが一人で火を使うなど危ないです! とノエが悲しむから今日は一緒にいる。

 話の流れでなぜかディーオにチョコを渡す事になった。
 市販品でいいじゃないって言ったら、手作りのほうがいいです! 私が食べたいんです。 と、ナナがぶっちゃけた本音を言ったので作る事になった。

 ナナは元から作らせるつもりだったのか、ミーティアから形の不ぞろいな板チョコを持ち込んでいたのだ。


「さて……まずはチョコを砕きます」


 私は適当にチョコを棒で砕く。砕く。砕く。
 憎い人間の顔を思い浮かべて……んー最近はやっぱりコタロウよね。

 死ね!

 いっぺん死ね!!

 こないだも結局三日ぐらいで牢から出てきたし、なんで手際がいいのよ!!!


「あの、エルンさんもう少し力を抜いては……」
「はっ! そ、そうね。適当で三分で作るんだから、この辺でいいわよね」
「エルンおじょうさま、お菓子作りで三分は難しいかと……」


 次にバター、卵、小麦粉、砂糖をこれも適当にボールに入れる。

 近くにあった木製のヘラで目一杯混ぜる。
 その間にオーブンに火をいれ…………ようとしたらノエに怒られた。


「エルンおじょうさま! 火の扱いならノエが致します!」
「そ、そう? じゃぁ適当に暖めておいて」


 出来た種を適当な形にそろえて最後にチップをふりかけオーブンへ突っ込んだ。


「ナナ開始からの時間はっ!?」
「ええっと……十五分は立っていると思います……あの生地の寝かせとかは?」


 忘れてた。
 本来は生地を寝かせる工程があったかもしれない。


「胃の中に入れば同じ同じ」


 さすがにレンジのようにチンという音で知らせる機能はない。
 様子を見ながら頃合と思った所でオーブンからチョコクッキーを取り出した。
 後は粗熱を取って終わり。

 まだほんのりと暖かいチョコクッキーをナナとノエの前に披露した。


「と、言うわけで試食をどうぞ」
「えっノエも貰っていいんですか!?」
「試作品とはいえエルンさんの手作りハァハァ」


 一人ちょっと怪しい感じするわね。
 ノエなんて一生大事にします! っていや食べ物だから食べてよ。
 私も一枚出来上がりを食べてみる、うん。不味くは無い。



「美味しい……」
「はむ。おいしいです、エルンおじょうさま!」
「本当? でも、ノエが作るほうが美味しいわよ」



 私が感想をいうと、ナナが真剣な顔で三枚目のチョコクッキーを食べている、不味かったかしら? でも複数枚食べてるし何か、味を確認してるようなしぐさ。


「ごめんねナナ。私よりノエの作ったほうがやっぱいいわよね」
「ふえ? ち、違うんです!」
「いいのよ。おせいじなんて」
「本当に違うんです。なんでお菓子作りは美味しいのに錬金術となると失敗するんだろうと思いまして。はっ! ご、ごめんなさい、ごめんなさい! パリポリポリ」


 …………ナナも結構ズバっと言うのよね。
 仕方が無い理由を言うか。


「錬金術合成ってレシピ通りに作らないとだめじゃない」


 私は近くにあった軽量カップを軽く持ちナナに見せる。


「そうですね」
「それが面倒なのよね……一定の速さで右回りに四十回練るとか、水はコップ五分の一を二回に別けていれろとか」
「そうしないと、物によっては半属性の物ができますのでポリポリポリ」


 上級アイテムになればなるほど分量と手順が細かいのだ。
 それでいて、私が読んだ本の説明は細かい所は大雑把という。
 コップでもどれ位の大きさのコップとか書いてないし、水は何ccとも書いてない。
 だからと言って目分量で入れると失敗する。
 ディーオに言わせると、それこそが錬金術師だからだ。と、よく解らない事いうし。


 その点料理なら多少間違っていてもそれなりに美味しく出来る。
 毎回味がちょっと違うってのが欠点があるけど。


「と、言うわけ」
「なるほど…………ポリポリポリ」
「エルンおじょうさま、こんなに美味しいクッキーを作れるのにサクサクサク」
「どうでもいいけど、ディーオにでも持って行ったらっていうから作ったクッキー、二人が食べてもう無いんだけど」


 良い事を思いついた。
 私は手を叩いて二人の顔を見る。


「と、いうわけで材料がなくなったのでバレンタインは中止ー。さて午後はショッピングでも――」
「ノエ! お給金とって来ます!」
「わたし、材料すぐに買ってくるのでっ!」


 二人はすぐに厨房から出ていった。
 そんな重要な事じゃないし……ってか買うなら市販品の渡せばよくない?
 別にもう一度手作りにこだわらなくてもさー……。

 玄関の扉が慌てて閉まる音が聞こえた。
 文句を言う前に誰もいなくなってしまった。もっとも、可愛い二人に文句も無いけど、あるとすればチョコを贈らないといけないディーオね。

 そもそもアイツがモテないのが駄目なのよ。
 ナナ曰く、義理とはいえチョコ待ってるんじゃないですかー? とか言うから……。

 直ぐに大きな扉の開け閉めの音が聞こえ二人が厨房に戻ってくる。


「はやっ! 早すぎ!」
「は、はい。禁止されているホウキ使いました!」
「の、乗りました」


 興奮しているのか赤い顔のナナと、蒼白のノエ。
 ノエはニケツしたのかな?
 ともあれ材料費は後で返したほうがいいわね、あと気になる事は。


「え、禁止って?」
「飛んでるホウキです! 警備などの目的から緊急時意外は使わないようにと言われてまして……」
「なるほど……」


 確かにホウキのった集団がボム投げたら地獄絵ね。
 もちろん、あの王様だって馬鹿じゃないんだろうし対抗策はあるでしょうけど。
 私が黙っていると、ナナとノエがドサドサ材料を広げていく。
 これ出来上がる量を考えたら数十人分だ。


「いや、多くない?」
「多くありません! 余った分はわたし達が食べるので!」
「食べます!」


 まぁいいんだけど・・・仕方が無い作るか。
 二人とも食べ過ぎてお相撲さんにならないようにねぇ。
 お相撲さんという職業がこの世界にいるか謎なので口には出さない。

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