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173 ハゲチャピン散る

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 捕らわれ生活一日目夜。
 よくある……げっへっへと男が寄ってくる! って事はなく、普通に食事をくれた。
 なんだったらトイレ休憩もちゃんとある。

 もちろん逃げないように、私とニシエにながーーいロープをつけられて、どっちかが逃げると反対が酷い事されるって脅されたけど、いたって安心だ。


 捕らわれ生活二日目。
 朝の食事もくれた。あれ、これって案外平和なのでは? とはいえ、このまま次の町まで行くと、どこかのお店に売られてしまう。
 その昔、鉄格子に味噌汁をたらして脱獄した人の話を聞いた事あるけど、味噌汁がでない。
 ガサコソと馬車の中に外の光が入ってきた。


「おーい、お二人さん。昼食だぞ」
「あっハゲチャピン」
「誰がハゲチャピンだ!」


 ハゲチャピンというのは、昨日の夜も食事を持ってきてくれた、つるっぱけの人。


「ハゲチャピン……おでこが広いからハゲチャピン。ハゲチャピン! エルンちゃん、イイネーミングじゃない!」
「でしょ?」


 ニシエがお腹を押さえて笑い出す。
 ハゲチャピンは、顔を赤くして鼻を鳴らしてくる。


「別に俺のはハゲじゃない。剃ってるだけだ! で何のようだ?」
「とりあえず、何所に向かって、私たちをどうするのよ? 殺すの?」
「あのなぁ……そんな事言うと思うか?」
「教えてくれたら乳を揉ませるわよ…………ニシエが」


 すぐにハゲチャピンが突っ込んできた。


「お前じゃないんかい!」
「やだ、私にも揉ませる権利ってのがあるんですけどー」
「たっく、お頭もこんな二人放置しておけばいいのに…………殺しはしねえよ。
 うちの団の掟で極力殺しはしないって方針なんだ」
「へえーなんで?」
「しら……」


 ハゲチャピンが喋ろうとすると、偽ディーオが横から顔を出してきた。ハゲチャピンの顔が青くなる。


「殺すと遺恨が多く残るからな、とはいえ最悪な場合には殺す。ハゲチャピンも無駄口を叩くな」
「お、お頭まで! 俺は剃ってるだけだって!」
「文句あるのか?」
「ちきしょーこんな団抜けてやる!」
「そっちに行くなら見張りよろしくな」


 ハゲチャピンは、走りながら任せて下さい。と走っていった。
 何この漫才。

「協力者のほうは、約束どおり大人しくしていれば次の町で開放する。お前は身元を洗ってからだな」


 私の隣でニシエがマジで? やるぅーと喜んでいる。


「はぁ? 私は何で開放されないのよ」
「俺の調べではディーオ・クライマーに妹はいない」
「いるわよ。知らないの? ディーネ・クライマーよ」


 私の嘘に、眉をひそめだす偽ディーオ。
 調査不足だったか? と呟きだしてる。


「そうよ! 調査不足よ。だから――」

 開放しなさい! といおうとしたら偽ディーオが喋りだしてきた。


「だったら、ディーオ・クライマーへ身代金を要求できる。やはり開放は無理だな」


 は! しまった。その考えは無かった!
 ディーネちゃん、どんまい! とニシエの声が聞こえてくる。
 自分だけ解放されるからって明るく言ってぐぬぬぬ……まあでもチャンスでもある。

 口が軽そうなニシエには言ってないけど、ミニボムがいくつかある。
 こないだの爆発事件はもちろんナナの耳にも入り、殺傷能力が低いのも貰った。
 ここぞという時に使って逃げる。
 一人のほうが楽に逃げれそうだし。


 捕らわれ生活三日目。
 天気は曇り空だ。ハゲチャピンが雨が降りそうだなってご飯を持ってきてくれた。
 ってか、この牢屋。
 私達を逃がさない目的もあるけど、男達に教われないようしてるのもあると、ハゲチャピンから教えてもらった。

 偽ディーオは中々のイケメンである。
 本物もこれぐらい気配りが出きればいい奴なのに残念だ。
 
 馬車の中にいた私達にも雨粒の音が聞こえてきた。
 心なしが馬車のスピードが緩やかになる。外から偽ディーオの怒鳴る声が聞こえてくる。


「あら。何か怒ってるわね」
「命令してるんじゃないかな」


 私とニシエがお互いに話していると、直ぐに馬車の中に光が差し込む。
 ハゲチャピンだ。


「何かあったの?」
「ああ、この先の道が土砂崩れでふさがってる。少し戻って野営をするからそのつもりで、しかし参ったな……」
「なにが? 数日遅れるとやっぱ追ってが迫って捕まるから?」
「お頭の前でそれは言わないほうがいいぞ……いや、この山は人食い山って言われて行方不明者が多い――――だああああああああ」


 私とニシエが見ている前でハゲチャピンの体が消えた。
 一瞬の事で最初は声が出なかった。


「ニシエちょっと下がって」


 私は牢屋の鍵の部分にミニボムを押し込み、ミニボムのピンを抜く。
 毛布を使って牢の隅にいるニシエに覆いかぶさると、小さい爆発音が耳に届いた。
 牢の鍵の部分が壊れて、ゆっくりと動くのを確認して外に出た。

 雨が強く、私の顔や両肩をぬらしていく。
 すぐに偽ディーオが私のほうに声をかけてきた。


「お、おい……お前どうやって外に」
「静かに! 今の今までここにいたハゲチャピンが消えたのよ!」
「なっ」

 馬車のしたに向かって、地面がえぐれている。
 思わず下を覗き込むと馬車の下に空いていた穴がふさがっていくのが見えた。


「ちっ……アーススパイダーか」


 偽ディーオの声が頭上から聞こえた。


「スパイダーって蜘蛛?」
「ああ、大型の蜘蛛だ、地面の中に巣を作る特殊な奴だな。撤退だ」
「撤退ってハゲチャピンはどうするのよ!」
「どうするも何も、被害が増える前に仲間を下がらせる。お前も馬車に乗れ」
「嫌よ! 今助けに行けば間に合うでしょ」


 私は仁王立ちで偽ディーオに抗議を言う。
 偽ディーオは黙って私の腰を行き成り触ると持ち上げた。


「ちょ、どこ触るのよ!」
「牢から出たのはほめてやる、馬車に乗れ。ハゲチャピンも素人じゃない」


 牢のある馬車に投げ飛ばされ、私の体は牢の中にいるニシエが受け止めてくれた。
 
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