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130 鳳凰の姿焼き

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 すみませんー、そこのアルコール二つとジュース一つ。と、肉の炒め物、魚と。あっそこで食べてる人のも美味しそうなのでそれも追加で!

 私は給仕に適当に頼むとカルロスに向き直った。
 現在の位置は私、その迎えにカルロスで、その隣に心配そうな顔の少女。

「いやーいい所の娘みたいだなって思っていたけど、まさか貴族だったとはな」
「こっちこそ驚きよ、なんでそんな立派な服着てるのよ」
「先生は常に立派だ!」
「はいはい、ほら酒が来たわよ」


 再会を記念して乾杯をとる、なおまだ私はこの女性の名前を聞いていない。
 私が自己紹介すると、この町でいい所育ちのお嬢様。

「ガーラといいます、先生の下で剣を習っています」
「へぇ……もしかしてカルロスって凄い人?」
「いやー俺なんてまだまだよ、ちょっとドラゴンぐらいしか倒せないしなぁ」


 嘘が本当かわからないけど、いつもの調子でおどけ出喋る。
 うん、本物だ。

「そ、そうだぞ! 先生はドラゴンさえも一晩で倒すんだ」
「いやーはっはっは。で、あの錬金術師はどうした? もう山に行って来たんだろ? それとも別れて雪の中にでも埋めて来たか?」
「埋めないわよ!」


 どういう考えしてるんだ。
 隣のガーラだって、まさか……でも先生が言うのであればって。引いてるじゃないのよ。


「山はまだ、ディーオが高熱出しちゃって……」


 私はここ数日のことをカルロスに伝える。

「それは不味いな」
「不味いって、料理が?」
「ちげーよっ、ディーオの症状と鳳凰の事だ」
「先生鳳凰って……って確か」


 カルロスはガーラに人差し指を立てると静かにと合図する。
 顔を近くに寄って来いというと、喋りだした。


「今年は霊山をもう閉めようって話がでてな。
 しかも、ディーオは風邪かぁ。死ななきゃいいけどな」
「いやー死ぬって大げさな、風邪よ……風邪」


 私達三人は黙り込む。
 

「まぁ、アトラスの風邪じゃなきゃ大丈夫だろう」
「なにそれ」
「なにそれって、お前も錬金術師なら……いや、ようはこの地方でよくかかる風邪だな」
「あーだったら治るわよね」
「抗体液があればな」
「ないの!?」
「ない!」


 おまちどう様ーと、私達の座るテーブルに料理が運ばれてくる。
 ガーラが何故かすみませんと謝ってきた。


「なんでガーラが謝るのよ」
「わたしの祖父が関係してまして……」
「コイツの祖父はこの辺じゃ結構な金持ちでな、まぁそれは置いておいてだ。ある不正取引の現場を押さえ込んだ」
「へぇ……で、どう繋がるの?」
「まぁまて。その不正取引ってのがアトラスの特効薬だ。犯人は苦し紛れに商品を破壊してなぁ……俺たちはその補充のために近隣の町に手紙を出して来たところだ」
「と、いうことは治るんじゃない」
「薬がくればな、一ヶ月はかかるぞ……もっとも、そのディーオがそれに掛かったかどうがわからん」


 私は味のしない肉を食べて、お金をテーブルに置いた。
 立ち上がると、カルロスとガーラが驚いてこっちを見ている。


「ありがと、ちょっと見てくるわ。残りは好きに食べて」
「まて」
「ちょっと、離してよっ」
「素人が見ても判断つかんだろ、俺もいく」
「私もついていく!」


 残った料理は後で宿に届けさせる手配をして、直にディーオの所へ戻った。
 熱はあるけど、意識があり、カルロスをみると久しぶりだなと声をかけている。

 お互いに紹介をしあい、カルロスが先ほど私に話した事を、そのまま伝えた。


「ごほっ……そんな気はしてた。これでも体調には気をつけていたからな。しかし、問題は杞憂だ」
「えっと……じゃぁ。無事なの?」
「ボクの目を見ろ」
「あれ、カラコンいれた?」


 いつもはグレーの瞳が少し青くなっている。
 オシャレかしら。


「カラコンの意味がわからないが、青色になっているだろう」
「うんうん」
「アトラスの風邪には目の色が変わる症状はない、なに数日も寝ていれば治る」
「へええ……」
「さて、エルン君この町に売っている鳳凰の姿焼きを食べたい、買ってきてくれるか?」
「は?」


 何を突然言うんだコイツは――――。

「――こんな夜に可愛い女性を買い物にいかせるとか、それに私が作ったすいとんがまだ……って、はっ何時の間に口に!」
「すげえな、アンタの連れ。思ったことを口にだす病気なんじゃねえのか」


 超失礼なんですけど! 


「八割大げさにいうカルロスには言われたくないわよっ!」
「なに、もう慣れた。財布はゴホ、ゴホッ。病人のささやかな願いも聞いて貰えないとはな」


 すっごい、嫌味なんですけどー。

「買ってくればいいのよね、買いますよ」


 私がコートを取ると、カルロスがガーナを連れてけと言ってくれた。
 美少女錬金術師に美少女剣士か、それもいいわね。

「お願いできる?」
「はい、先生の命令なら」
「…………どんだけ、カルロスの事が好きなのよ」
「っ、ベ、別に先生は先生だ! その、好きとか――」
「はいはい、道案内よろしく」


 カルロスは、ディーオの見舞いをするというので、残った。


 ◇◇◇


「さむいわねー」
「そうですね……」

 コートのエリを立てると足早に歩く。
 鳳凰の姿焼き、名前が鳳凰でも、違う鳥だろうなとおもっていたら案の定違った。
 すずめに似た鳥の丸焼きで串に刺さって売っていた。
 見た目がちょっとぐろい。

 死んでいるけど、つぶらな瞳のまま串に刺された小鳥がジュワーと焼かれていく。
 そしてタレに漬け込み、また焼く。
 それを数回繰り返しての出来上がりだ。

 食べると美味しいらしく、酒のつまみに会うらしい。
 興味本位で食べたら、美味しかった。


「あ、あのエルンさん?」
「なーに、ガーラも欲しい?」
「いえ、歩きながら食べるのは、そのみっともないで」


 さらっと、毒を吐かれた。
 ってか、やっぱ良い所のお嬢様なのよね、食べ歩きがみっともないって。以前は私もそう思っていたし。

「で、何?」
「あの、それもう最後の一本なのでは」
「はっ!」

 袋に沢山入っていたはずの鳳凰の姿焼きがなくなっていた。
 代わりに、私が食べた串が入っている。

 仕方が無いからもう一度買いに行った。

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