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129 鬼は撹乱しなかった

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 どうやらたちの悪い風邪を引いたらしい……。


 ディーオが。


 かっこ笑いかっこ閉じる。


「って、なんでディーオが熱だすのよ! 私がうつしたみたいじゃないの!」
「げっほ、げほ。みたいじゃなくて……大声が頭に響くから静にしてくれ」


 観光でアトラスの町に入って、宿に入った所で突然ディーオが倒れたのだ。
 私は高級なベッドで寝ているディーオのおでこを見る。
 冷や水で絞ったおしぼりを取替えの作業へと移った。

 最近ちょっと広くなったんじゃない? って思うおでこを触ると、全然熱が下がった様子はない。

 にしても立派な部屋よね。
 スイートルーム。もしくは松の間って奴? 部屋数は三つに内風呂までついている。
 水は雪解けの天然水が使い放題で、王都と同じスイッチ一つでお湯が出てくるタンクが風呂場と繋がっているとか。

 なぜこんな高価な部屋かというと、ディーオが倒れた時に他の宿泊客にうつったら困るから宿を変えてくれないか? という宿の主人を大金で黙らせたからだ。

 あら残念、一番高い部屋を二週間ほど貸しきろうとしたのに、じゃっ別の宿行くわねって言ったら、足にしがみ付かれた。
 比喩ひゆではなく本当に。


「じゃなくて」
「……どうした……?」
「いや、ちょっとした回想から現実に帰って来ただけ、何か食べたい物とかは? 飲みものいる? ってか、私の心配する前に自分の体の心配しなさいよ」
「返す言葉もげっほげほ、離れていたほうがゴホゴホ」
「暫くは一緒の部屋よ、こっちも風邪気味なのは変わらないし」
「そうか……あとで宿代を」
「はいはい、とりあえず寝てなさい」


 私はディーオをダブルベッドから出たら駄目よと伝えて一階へ降りていく。
 宿の主人が愛想笑い全開で走ってきた。
 なんでも、部屋がご不満でしたでしょうか? と聞いてきた。

「とりあえず、ここに書いた物が欲しいんだけど、手に入る?」

 店主は私の買い物リストを見ると首を捻る。
 手には入りますけど……と怪しげな顔をしている、手に入りさえすればいいのよ。
 宝石を一つ渡すと、すぐにご用意させていただきます。と消えていった。


 夕方には頼んでいた物がだいたい揃った。
 乾燥昆布に、小麦粉と卵、あと貴重品らしい醤油と、ニンジンに大根。
 ついでに鳥肉もそろえて貰った。

 最後は厨房を借りてイザ料理を作る。

 まぁ簡単にいうと、すいとんよね。
 味噌も頼んだけど、味噌は無かったのでいたし方ない。
 練って小練って火をつけて鍋にぶち込んでいく。

 最後に煮詰めれば完成、味はちょっと薄味だけどしょうがない。

 
 三階まで階段で上り部屋へもって行く。
 エレベーターが欲しい……それに変わるものでも何か欲しい。

 苦しそうなディーオの様子をみる、熱を手で確認すると、まだ熱い。
 氷水もらったほうがいいわね。

 体を起して、食べさせる。


「悪いが食欲はあまりない」
「でも、食べなさいよ」
「…………そうだな、助かる」
「………………」
「どうした?」
「いや、言ったら怒りそうだから言わない」
「ここまで、してもらってゴホ。怒るとか……無い」
「ええっと、男の人って高熱が続くと、その……子供が作る能力がなくなるとかって」
「…………寝る」


 ディーオは答えを言わないで布団に入った。
 私のほうは、なんだかんだで忙しく汗をかいたらセキも治まってきた。
 困ったわね……切り傷とかならエリクサーでなんとかなるけど、ナナに手紙を出しておこう。
 もしかしたら薬知ってるかもしれないし……。

 旅先でディーオが倒れた事、風邪っぽい事を書いて封書にいれる。
 あとは、町にある手紙屋へ持っていくだけだ。
 ディーオにちょっと手紙出してくると伝えようと様子をみると、寝ているのでそっとしておく。

 宿の主人に挨拶をして外にでた。
 透き通るような星空が見えて来た、さっさと手紙を出して戻ったほうがいいわね。
 寒いし。


「よう、エルン!」


 突然名前を呼ばれて振り返る。
 暗がりで判断がつきにくいが歳は取ってそうだけど、清潔感あるオジサマが私の顔を見て、久しぶりだなと声をかけてきた。
 その横には若い女性が不安げな顔で、先生、この女性はだれでしょう? と尋ねている。

 はて? 貴族の誰かだろうか、パパの知り合いかもしれない。
 やーねー昔に一回か二回あった事のある人間なんて覚えてないわよ。
 でも、先生と呼ばれているし、こちらも貴族風の挨拶をする。


「お久しぶりですわ」
「あん?」
「いやですわ、いまエルンとお呼びに」
「いや、そうなんだけどよ……一人か?」
「いえ、連れと一緒の来てますの」
「…………」


 なんだろ、清潔感ある先生と呼ばれたオジサマは黙ってしまった。

「一応聞くが、俺が誰かわかるか?」
「もちろんですわ、ええっと……小さい時は良くお世話になりました。所で何の先生でしたっけ? 覚えてますのよ、ただちょっと……」
「かーーーーーっ!」


 突然大声を出すので、こっちも少しびっくりする。


「俺だ。カルロスだっ」
「知ってましたわよ、カルロス先生、いえカルロス様ですよね、ええっと……カルロス、カルロス、カル……ん? ああああああっ! カルロスじゃないの! なんでこの町にってか、髭そったの? 髪も整えてるし。なんでむさいおっさんから、イケメンオジサマになってるのよ!だったら最初から言ってよ。え? 隣の人は娘? もしかしてさらって来たの?」


 おっさんから、オジサマにクラスチェンジしてるだなんて、詐欺よ詐欺。
 声をかける前に言って欲しい。
 こないだまでおっさんだったけど、オジサマにクラスチェンジしたカルロスだ、ようエルン。ぐらい、そしたら私も混乱しなくてすんだ。


「落ち着けっ。その前にも言ったが元々の目的地はここだ。
 こいつは、俺が世話になってる所の娘、俺が小奇麗になったのはコイツが煩いから」
「先生、私は先生のためを思ってですね」
「ええ、カルロスの恋人っ!」
「なっ、私は先生のこ、こ、こい」
「二人とも落ち着け! ああもう、人が見てやがるそこの飯場いくぞ!」


 私と名も知らぬ女性はカルロスに引っ張られて近くの店に入った。
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