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114 淡い記憶

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「やったか!」

 そう喜んで喋るのはリオで、こういう時のやったかってのは大抵やってないだろうなと思う。案の定、ドラゴンの吐いた炎の中から光の矢が飛んできた。


「ちっ! 二番、三番。ブレスを」


 私が乗っていたミニドラゴンが突如大きな口を開けた。
 リュートのほうも同じらしく、制御が効かない! と叫んだ。

 二つの炎がミーナを襲った。
 いっくよー! と明るい声とともに突風がその炎を吹き飛ばす。
 逆に熱風が私達を襲って、ドラゴンが暴れる。いや暴れないでよ。
 その熱風を回避するのに垂直に夜空へと飛んでいく。


「ちょ、落ちる! 落ちるって」
「エルン!」
「あっ」


 ハンドルから手が離れた。
 現在の体制は垂直だ。
 手を離したら当然に落ちる。
 
 いやいやいやいやいや、死ぬからーーー!
 目を閉じて死ぬまでの事を考える。
 何時かは死ぬんだししょうがないけど、苦しまずに一気にやってほしい。
 いや、まって何達観してるのよエルン・カミュラーヌ! 私は死にたくないから頑張っていたんでしょ! 
 そうよ、もっともっと稼いで、将来は豪遊を尽くして暮らすのよ。



「何でもいいから目を開けろ」
「エルンちゃん重たいー太った?」
「な、だれが太ったっ! ってのよ。この一年間変わってないわよ!
 …………あれ? 浮いてる?」


 いつの間にか万歳三唱のように両手を挙げていた。
 左はホウキに跨ったミーナが掴んでいて、右はドラゴンから身を乗り出したリオが掴んでいる。

「二人ともゆっくり下がってー」


 下を見ると、リュートがミニドラゴンの背の部分を開けてくれている。


「人間よ、巻き添えすまないな」
「エルンちゃん面白い顔ー」
「コイツの連れと知っていたら見殺しにしてたのに、くっ」
「もう、リオちゃんそんな事いって、いっつも優しいよね」
「死ね!」


 私の手を引っ張り合って口論し始める二人。

「あれ、もしかして仲がいい?」
「「仲」」いいよ!」よくない」」


 二人の声が同時に聞こえて混乱する。
 足元にリュートのドラゴンの皮膚の感触があたった。
 リュートの背中に手を回すと、しっかり離さないでくれと返事が返って来る。

 いつの間にか戦闘は終わっており、私みたいなか弱い人間に被害を出さない為にも一度帰るらしい。
 リオがぶつぶつとミーナに文句を言っているのが聞こえる。


「お前用の特殊結界だぞ……よもや全部破られるとは」
「ふっふっふーん。星の涙まで使ったよ」


 星の涙。レア度ハテナ。
 星の雫の上位版でその威力は国家をも潰す。


「って、ちょ。そんなの使ったの!?」
「だってー。二人とも魔界に落としたのに、アタシは入れないんだよ? こまるじゃない。
 人間好きなリオちゃんに会えれば送ってくれるけど、危険は一杯だし、でも結界はってあるしさー。
 酷いと思わない? これがあれば魔界にも入れるよって指輪をくれたのに、締め出すとかさ」
「別に私は悪くない。その指輪は魔界にはこれる、しかし、その指輪の魔力を感知してお前だけを弾き飛ばす結界を作ったのだ、どうだ。凄いだろ!」
「すごーい、リオちゃん錬金術師なれるよ!」
「ならん!」


 子供の喧嘩か……。
 二人ともあーだこーだと空中で言い争うも塔の影が見えて来た。


「まったく、あのまま死んでいればいいのに。来てしまった以上は持て成そう」


 ばっさばっさとミニドラゴンが羽ばたく。
 私を振り落としたミニドラゴンは塔のドラゴン発射場に帰っていた、回りで魔族の人々が色々と世話をしているのが見えた。

 私達を見つけるとほっとしたような顔になり、ミニドラゴンを誘導する。


 改めて助けて貰った事を三人に言って塔へと戻った。
 料理が出来ていますという単眼のメイドに、リオが満足そうに頷く。


「着いて来い」


 先頭がリオ。次に私とミーナで最後がリュートだ。


「あのーなんでミーナの事が死ぬほど嫌いなの?」
「エルン、もう少し包み込んで聞いたがいい」
「アタシはリオちゃんの事大好きだよー」
「私は嫌いだ」


 細い目をさらに細めてミーナをにらむ。
 ミーナが、ぽんと手を叩いて笑顔になった。


「あ、もしかしてヘルンの事?」
「ち、違う! アイツは関係ない」


 トーンが落ちた声と共になにやら寒くなり、ふるえがくる。
 リオの回りから冷気っぽいのが見える、いや冷気よねあれ。床が凍ってきてるし。


「ねぇリュート不味くない?」
「退路を探す……」


 リオが続きをポツリをいいだす。


「別にアイツがその、どうこうとかべ、べつに関係ない。
 お前がアイツを迎えに来たから帰しただけだ」


 何となくだけど、リオが錬金術師が嫌いってのは、ヘルンが錬金術師ミーナを好きだったのが関係あるわよね。
 態度からすると、リオはヘルンの事が好きだったのかしら……。
 結局ヘルンがミーナへと告白したのかしてないのかはわからないけど、そんなヘルンも十二歳ぐらいの異国の姫。シンシアと結婚する事が決まっている。
 ミーナ頼むから余計な事は言わないでよね。


「ええっと、おなか減ったから早く――」
「あ、そういえば。ヘルンこんど結婚するよ。シンシアちゃんって可愛いネコ耳の子。私が紹介したのっ」


 流れを変えようとしたのだけど、止められた。


「まて、何の話だ?」
「何って、そのままの意味。あーそうだ、ヘルンから言われてた。
 魔界に行く事があったらリオに謝って欲しいって後、思い出は忘れないって、伝えてって。
 そういえば、アイツったら年に一回、魔界の花を魔力で咲かすの。
 地上の空気に耐えれないから三日ぐらいで枯れるんだけど……毎年その種が出るからちょーだいっていうと、くれないんだよー。意地悪だよね――――」



 私とリュートは塔の下へと走る。
 ミーナの言葉を最後まで聞きたい気もしたけど、命のほうが大事だ。
 危険を察知した単眼メイドさんがこっちですと、先導してくれる。
 後ろを振り返ると、壁沿いがどんどん凍っていく、その他にもあちらこちらから悲鳴が聞こえ。

 ……。

 ………………。


 今日何度目かの爆音を聞いた気がする。
 あれ、私達って何しに魔界に来たのだっけと、崩れた天井から夜空をみながら思うエルンさんであった。



 ◇◇◇ 114.5 現在より数年前。とある塔の一つの部屋前で。


 誰もいませんが魔族なかまから何をしている? と聞かれるとこう答えるしかないでしょう。
 魔界で暮らす単眼メイドが壁に耳を当てて中の声を盗聴してますけど、何か? と。
 幸い誰もきませんので、この言い訳は使う事は無さそうです。

 中からは男女の声が聞こえてくる、一人は主人であるリオ様。
 もう一人は間抜けな人間の少年。


「け、結婚とやらをして欲しい! 人間の風習でずっと側に居る事が出来ると聞いた。
 なぜ、首を振る……や、やっぱり、あの迎えに来た女が好きなのかっ!」
「ち、ちがうっ!」


 間抜けな少年が否定した後に沈黙が続く。
 主人が防音の結界を張ったのかと周囲を探るが、張られた様子は無い。
 再び耳をつけると、続きが聞こえてきた。


「いや、ごめん。そうかもしれない」
「わかった、あの女を殺してくる。そしたら結婚してくれ」


 主人の声で、単眼メイドもいい考えだと頷く。
 あの間抜けな少年が、よくわからない錬金術師に好意を持っているのは明白だ。
 ならば殺してしまえばいい。


「まった、まったまった。殺した所でボクはリオと結婚はしないよ、それに彼女ともするつもりはない」
「なぜた? 王子なら好きな人間と結婚できるのではないのか?」
「王子ゆえにかな?
 それに、彼女に王妃が勤まると思うかい? ボクを助けるのにこの周囲を地上まで繋げた子だよ、あの子はこの国に捕まえておくには大きすぎるからね」


 本当に迷惑な話だ。
 主人とまぬけな少年の幸せな時間を、あのへんてこな女は予想外の方法で潰してきたのだ。
 おかけで、あの少年が地上に帰れないように、主人にも内緒でこっそり盛った毒も効果が消えた。
 おや、主人が何やら大きな声で喋っている。



「わかった……明日には帰るんだろ。周囲に朝まで解けない防音の結界を張る、お前との思い出が欲しい…………本当に嫌なら、そこの剣で私を刺せ。結界も消える」


 ガチャガチャと武具や衣類が床に落ちる音が聞こえてきました。
 いよいよです。
 まぬけでへたれな少年、逃げたら主人の変わりに私が少年を殺しましょう。


「リオ……」
「もう何もいうな。そんな顔をするお前は嫌いだ。そして大好きだ……ノリス、あの錬金術師の相手をしていろ。そしたら今回の事は不問にする」
「え、誰か聞いて――――」


 単眼メイドの耳に、小さな破裂音が聞こえたのです。
 部屋の音が一切聞こえなくなったのだ。


「やっぱり気づかれてましたかか。
 ええ。わかりましたとも、主人の命令は絶対です。
 回りの魔物を引き連れて暴れましょう。そしたらあの少女もこっちに余裕はなくなるはずです」


 久々に聞く主人の命令。
 嬉しそう限りです、思わず廊下を走ってしまいます。
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