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107 ギルドマスター(仮)になりました

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「で、なんでコタロウがここにいるのよ」

 場所はちょっと変わって、私の家の客間である。
 汗を拭きながらグラスにある飲み物を一気に飲んでいるコタロウへ問いかける。


「ふー、ノエ殿、おかわり!」
「ちょっと、氷だってダタじゃないんだから話聞いてる?」
「エルン殿の家を考えればタダみたいな物でござるよ。そうそう、で何所まで話したでござる?」
「何も聞いてないし!」


 思わずテーブルを叩くと、ノエがビクっとする。
 ご、ごめんね。別に怖がらせるつもりは無いのよ。


「ふーエルン殿は相変わらず物覚えが悪いでござるね」
「よし、ガルド叩き出して」
「了解した」


 ガルドがコタロウの腕を掴むと、コタロウが暴れだす。
 私はその姿を、自分の前に出された飲み物を飲みながらゆっくりと眺める作業へ移動する。
 さて、午後はどうしようかしら。
 森にいって錬金術の素材も集めたいけど地味なのよね、近所の子を『また』お小遣いだして取って来て貰おうかしら。


「ま、まつでござる。悪かったでござるよ! 手紙と儲け話もござっ! シスコン元王子いや、ガルド殿痛い、本気と書いてマジでいたっ」
「はー……手紙あるなら早くいいなさいよ……ガルド」


 ガルドが手を離すと四つん這いでソファーへと戻ってきた。
 もう絶対ソファーから離れないぞと、手すりを掴んでいる。

 黙って手を差し出すと、胸元から手紙を出して来た。
 湿ってる……最低。


「ええっと……拝啓エルン様。手紙って何書いていいかこまっちゃう。シンシアのためにコタロウ様がガーランドに亜人のギルドを作るんだって。
 これで、シンシアも安心です!
 ガルドお兄さま異国での生活はどうでしょうか? シンシアも直ぐにいきますね。
 また、一緒にお風呂に入りましょう」


 ゴッホゴホ。
 珍しくガルドが咳き込んだ。
 私とコタロウの視線を受けて、姿勢を正す。


「風呂といっても男女別だし、俺は護衛で外にいる。勘違いするな」
「へー……でも、シンシアの事だからガルドが入浴中に乱入しそうね」
「…………それより、手紙はそれだけか?」


 おっと、話がそれたわ。
 ん?
 何かはぐらかされたような気もする。


「で、これと私が何関係あるのよ」
「もう一通あるでござるよ」


 コタロウはもう一通を出してきた。やっぱり手紙は湿ってる。
 達筆な文字で今度は心の中で読む事にする。

 指田任はパトラ女王とヘルン王子の二名の署名が入っていた。
 グラン王国で冒険者の斡旋所を作る案が書かれていた。
 だったら別に私に言わないで作ればいいのに、国が行き成り作ると色々と問題が出て来るそうな。

 特に亜人など。

 そりゃそうだろう、グラン王国では……いや、隣のガーランドでもあまり良く思われない人種を全面的に支援するとなると、反感もあるだろう。

 で、民間企業を入れる予定で、その白羽の矢に選ばれたのがコタロウで、コタロウは私に話を持って来た。


「コタロウが代表じゃだめなの?」
「…………面白い事をいうでござるな。拙者こうみえても信用が無いでござる」
「堂々と言うわね」
「あれは、エルン殿と別れて――」


 なんでも、ガーランドでギルドを作るにあたって、ギルドメンバーである証の物を作ろうとしたそうな。
 私も小説で読んだのは魔法のプレートや会員証。
 現代でも、そういうのはカードが一般的だし、軍人さんはネームタグとかだ。



「で、何を作ったの、カードとか?」
「拙者張りきって作ったのがあるでござる。
 冒険者の証として用意したのがコレでこざる」


 コタロウはテーブルに下着を出した。
 女性用の下着で、男性の下着はない。
 ノエのあわわわという小さい悲鳴と、ガルドの溜め息が聞こえて、私は自身満々のコタロウへ向き直った。


「これは?」
「だから、冒険者の証でござる。これを履いている女性は皆冒険者としての優遇を。確認するには履いているのを見なくてはならなく、あー大変でござる」
「却下!」


 私が大声を上げると、意外にも、そうでござる。と、返される。
 ソファーから床へとダイブした。


「エルン殿おおおおお、お金が無いでござる! 冒険者の証を却下されて、もう別の証を作るお金がないでござるううう。
 返品した商品も叩き買われて運営するお金が殆どないでござるよおおおお」
「無いって……いくつ作ったのよ」
「女性用の下着だけで二千枚作ったら、もう運営するお金もないでござる!」
「まぁ綺麗な土下座。
 って、本気で下着を冒険者用の証にするつもりだったのね……ノエ、昨日の売り上げ持ってきて」


 は、はい! と驚くノエは慌てて走っていく。
 ガルドが目でいいのか? と訴えてくるけど仕方が無い。
 そう、金は天下の回り物っていうじゃない。


 残ったお金をテーブルに出す。
 白金貨二十枚ほどだ。


「いい? 白金貨二十枚。これを資金に当てる。
 で、借金はしない事。するとしたら必ず相談する事。
 こんな所かしら」
「おい、エルン様。コイツを首にするか、セクハラしないとかは約束しなくていいのか?」


 ガルドがもっともな事を言う。
 私だって出来ればそうしたい。


「いや、駄目ってもコタロウはするだろうし。大きな問題にならなければ、まぁいいかなって、それに私一人じゃ何していいかわからないし……変な所で憎しみもてない奴なのよねー」
「さすがエルン殿わかっているでござる!」


 出資金として白金貨の借用書を書いた。
 あと経営者として私の名前を書く。

 コタロウに言わせれば、これで亜人が稼げば稼ぐほど私にもお金が入ってくるらしい。
 左団扇計画に一歩進んだ。
 それじゃ、拙者は忙しいのでとさっさっと出て行った。


 コタロウが出て行くと、ノエがオヤツを用意し始める。
 嬉しそうに踊っていて、こっちも楽しくなる。


「おじょうさま凄いです! 錬金術師だけじゃなくて冒険者ギルドって言うのですか? そこのマスターになるんですよね!」
「いやー、まだマスターってわけじゃ……でも、ギルドマスターかぁ響きがいいわね。
 ガルドも喜びなさいよ」
「エルン様、喜んでいいのか? 俺にはていよく問題が起きた時に、ギロチン台に上る役割を押し付けられた用に見えるけどな」
 

 ……。

 …………はい?

 ええええええええ、いや! まって!
 そりゃ、責任が付くのはわかるけど、ギロチンってそんな一気には……?


「考えても見ろ、この国では亜人は魔物の一種と恐れられたんだろ?
 万が一亜人が暴れたらどうなる、その責任は何所に行く? 国はギルドの許可は出したが、運営はしない。
 となると、この場合エルン様だろうな」
「いやなんですけどおーー! ガルド、直にコタロウを探しに行って! お金は出すけど私の名前を消して貰うのよ!」
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