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103 最近男運ないなーと思うエルンさん

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 鍵は掛けられていない武具予備室の扉が大きく開かれた。
 武具予備室と言うのは、その名の通り練習用の剣や盾や槍、または役に立つのかわからないマットや雑貨。
 平たく言えば用具室のさらに予備、物置みたいな部屋だ。

 私が部屋内・・・から廊下を見ると、ディーオが息を切らしてこちらを見ている。

 私と目が合うと、静に吐いて、なんと!
 にらみ付けてきた。


「………………何をしてるんだ?」


 声がちょっと怒気を含んでいる。ようなきがする。


「こっちが聞きたいわよ…………どうみえる?」
「見たままを説明しよう。錬金科のエルン君がチアガールの衣装を着て、騎士科のジャンベル君に向けてムチを振ってるようにしか見えないな。
 そして、ジャンベル君は半裸になって四つん這いになっているようにしか見えない」
「もっとだー! エルン女王様! この哀れなオークに褒美を振るってくれ! 喋る、全て喋るからムチをもっとー!」


 私の近くで四つん這いになったオークもとい、騎士科のジャンベルという生徒が媚を振って来る。
 その背中には私が振るったムチの痕があり、ちょっと痛々しい。


「見たままを説明したぞ、今度はエルン君の番だ」
「ええっと、この人に試合が見えるいい場所があるって言われて、この部屋に通されて」


 そう、近道だからと武具予備室へと通された。
 流石に直ぐ逃げれるように、していたんだけど。
 入った瞬間この大男は脱ぎだした。
 さっとムチを取り出すと、突然一度だけでいいんだとムチを振るってくれと土下座までされてお願いされた。

 なんでも、私のような美人…………自称だけど。
 その美人な女性に痛めつけられるのが趣味だとかなんとか。


「なんでも喋るって言うからさー……」

 
 私が試しに、さっきライデイと交換して物は何? って聞いたら。
 ご褒美をくれたら話すから! と土下座したまま言われたのだ。

 一度だけ振ったら、もっともっとと言われて。
 数回振り続け、さぁ喋りなさい、このオーク! と叫ぼうとした所で扉が開いたのだ。

 何でこうなったのかしら?


「喋る! ライデイの秘密を。あの剣技は偽物だってのも喋るから褒美をくれー!」
「なに!」


 ディーオが大きな声を出すと、突然亀のようになるオーク……じゃないええっと。


「名を思い出そうとしてるなエルン君、彼の名はジャンベルだ」
「そうポンポン覚えきれないわよ。こんなモブ」
「で、その話は本当なのか、ジャンベル君!」
「……………………」


 亀のような体勢からディーオの顔をちらっとみて私を見る。
 そしてまた亀のように頭を隠すと無言のアピールを始めた。


「エルン君、その……叩いてやってくれ」
「やっぱそうなるでしょ? だから突然私に怒られてもー、こっちも仕方がなくムチ打ってるのよ?」
「君の事情は大体わかった」


 ディーオ公認で叩く事を許可された。
 

「ほら! もっと鳴きなさい。何を隠しているのっ!」
「エルン女王さま。四角い小物は雷撃の小箱ですうー!」
「なんだと……」


 手もとい、ムチを止めてディーオに顔を向ける。


「雷撃の箱は対大型魔物へ電撃を飛ばす大型道具だ、そんな小箱とか聞いた事は……誰から手に入れた!」
「………………」


 ディーオが言うと、ジャンベルは私をチラっとみてくる。


「エルン君……頼む」
「はいはい。醜い亀ね! 次はどんな情報を教えてくれるのかしら?」


 バシイッ!


「はいいいいい…………先日見かけた赤毛の錬金術師から買いましたあああ」
「「……………………」」


 私もディーオも無言になる。


「ねぇディーオ?」
「いや、まて! まだ誰とは言っていないし! ボクは無関係だ!」


 やっぱり、思い浮かべたのは錬金術師ミーナよね。


「他は?」
「他か……ライデイが戦闘スタイルを見直したいと嘘をつきに遠見の水晶を買ったぐらです。さぁこのオークめにご褒美を!」

 ビシッ!

 あふんっ!

 バシッ!

 もっとだー!


 数回続けも新しい情報は出てこない。

「エルンさん!!」
「エルン様……どこをほっつき歩いて――――」
「何をしてるのでしょうか?」
「ナナにガルド……何してるように見える?」


 出入り口の前で固まる二人に私は問いかける。


「ええっと、エルンさんが上半身裸の人にムチを振って、ディーオ先生が頷いているようにしか……」
「じゃぁそうなのね」
「待て! ボクは関係ない!」


 あ、ずるい! ディーオが逃げに入った。
 ガルドが、
「関係ないなら、なんでここにいるんだ?」
 と、凄くまともな突っ込みをする。


「そ、それはだな…………」
「あれ、ナナそれは?」


 私はナナの手に持っている物に注目した。
 白い野球ボールを両手に持っているからだ。合わせて二球でも何故野球? ボールを。

「これですか、ベトベト君です、相手にぶつけると衝撃で発動し相手の体を絡み取る糸がでるアイテムなんですけど……念のために二つ」


 防犯用のカラーボールとトリモチが融合したようなアイテムって事かしら。


「まぁまぁまぁ。そんな事より、はいこれ」


 ナナの持っているベトベト君を強制的に受け取り、ポケット……がないから胸の谷間に二つ入れた。
 代わりに私が使っていたムチを手渡す。


「え?? 何所に……いや、あのエルンさん!?」
「いい、ムチを振るときは腕でじゃなくて手首を利かせるのよ」
「わ、私そんな事を教えて貰い――――」
「ロリ女王様! 快楽に負けて秘密を喋るオークへご褒美をっ」
「きゃ、近よらないでくださいー!」


 バシ!


「じゃ、そういう事で。ディーオ行きましょう」
「は?」


 私は小声で、この場から逃げ出すなら今がチャンスよとささやく。
 ディーオの顔が一瞬引きつったあとに、真面目な顔になった。


「…………そうだな。緊急な用事が出来た、後で職員を向かわせる」


 ディーオと共に、早急に離れる。
 背後でナナの叫び声と、変態の声と、変態からナナを守るガルドの声が重なっているようだ。
 ナナ、立派な女王様になってね。



 ◇◇◇


 廊下から試合会場へと出る。
 既に試合が始まっていた。私達の居る場所は注意されなければ二階席からは見えない位置にあった。
 何人かの教師や職員、騎士科の生徒が私達をみるけど、直ぐに興味をなくし試合のほうへ集中する。


 ライデイの雷の攻撃がリュートを襲っている。
 リュートはその攻撃をかわしながら間合いを取っている、でも、その顔は何時もより苦しそうだ。

 先ほどまでいた二階にある観客席へ目を移すと、いつの間にか来ていたマギカ隣に居るエレファントさんへ何かを言っているのがみえる。
 表情が暗く見えるのは、リュートが負けそうだからだろう。



「まずいな…………もう試合が始まっていたか」
「え、じゃぁどうするのよ!」
「試合が終われば拘束も出来よう。しかし試合中であるし、たとえ不正で勝ったとしてもシラを切られるだろう、恐らくは身体検査の係員も買収されて、証拠も無いだろう。
 このままリュートが勝てば、また付け入る事も……まて、天才であるボクが今考える」


 ディーオは腕を組んでは、試合を止めるべきか、いや、試合後に拘束をしたほうが、とかブツブツと呟いては別な事を呟きだす。

 その間にも、ライデイがリュートを追い込んでいく。
 あ、ライデイの腕がお尻へと動く、とたんに弱くなった雷が強くなったようなきがする。


「なるほど……あそこに何か隠してるのね。
 ようはあれよね? 証拠を掴めばいいのよね。リュート! 反対側に逃げて!」


 私が叫ぶと、リュートがこっちを向く、信じられないという顔をしていた。


「何でここに!」
「説明は後!」
「くっ! 昨日の女かっ! 神聖な試合に口を出すな!」


 ライデイも叫ぶけど、それも無視。その神聖な試合とやらにインチキして出るとは何事よ。

 リュートは私の言うとおりに反対側へ雷を避けつつ移動する。
 雷が弱くなっていき、ライデイはまたお尻と手を動かした、とたんに雷の威力が強くなる。

 私はベトベト君を軽く握ると、足を高く上げた。
 一瞬ネックレスにした賢者の石が光ったような気がしたけど、気のせいね。

 そんな事よりもエルンピッチャー第一球を投げました!!
 心で叫ぶと、一気にベトベト君を投げた。
 
 丁度雷を打つタイミングだったのだろう、ベトベト君はライデイの背中に当たった。
 瞬時に白い糸が爆発的に増えライデイの体を拘束し始めた。
 リュートへ行くはずの雷が、なぜかライデイの全身を襲いその場に倒れる。


 エルンピッチャー第二球も投げました!


 突然の事で、呆然としているリュートに、私の投げたベトベト君を回避しきれなくリュートもその場に倒れた。
 隣で見ていたディーオが私へと振り向く。

「エルン! きみは何をっ!?」
「いや、だって……証拠証拠って言うから……アイツがお尻触るたびに雷強くなってるし、証拠は多分そこよ。無効試合にしたら解決じゃないの?」


 あれ? 私変な事したかしら? 一番いい解決方法と思ったんだけど……。
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