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95 秋イベ開始

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 狭い職員用の個室で、温かい珈琲を飲んでいる男性は、私を見ると細い目になる。

「そのなんだ、なんで君は毎回ボクに報告に来る」

 ディーオが心底不思議そうな顔で尋ねてくるが、こっちにも一応の理由がある。

「だって、報告しないと不機嫌になるじゃない。
 前の大ミツバチの巣見つけた時とか、怒ったじゃないの」
「あれは、君が刺されたのを言わないで放置してるからだ」


 夏前に精霊の森へナナと言った時の話だ。
 ナナの精霊であるくまたんが、大きな蜂の巣を探し当てた。
 中には蜂蜜がたっぷりで、極上の美味さがあった…………うん、話はここで終わらなくて私の精霊であるカー助も大きな蜂の巣を咥えてきた。

 大ミツバチ付きで。

 何とか逃げ出したけど、その時にお腹を刺されていたらしく、翌日に物凄い腫れた。
 ナナが薬の調合を調べるのにディーオに泣き付いて、なぜか私も怒られた。


「じゃぁ、剣拾った時も」
「それは、君達が湖から引っ張ってきた古代剣の事だな。
 魔よけのために宝剣を沈めたという王家の伝承が無事証明されたよ、おかけで剣を戻すのにこっちは徹夜した」
「あの時も言ったけど、別に引き抜いたわけじゃないわよ……浮いていたんだからナナ達と一緒に持って帰っただけよ」
「そのせいなのか、あちこちで夏風邪が流行ったな」


 これも夏に入って直ぐだ。
 腫れから完全復帰した私は、ナナとカインとリュートに誘われて森の湖へと言った。
 なんでも、秘密の避暑地らしく夏だというのに涼しかった。
 さて、晩御飯でも釣りましょうと言った所で、湖に剣が浮いていたのだ。

 ナナは不思議な力を感じますっていうし、カインはなぜか青ざめているし、リュートも腕を組んで考え込んでいた。
 結局、私が見つけたのだから私の物でいいわよねと、言って欲しそうなナナに渡そうとしたんだけど、男性二人に一晩待ってくれと頼まれた。

 で、どういう経由で話が言ったのが謎だけど……いや、謎ではないか。
 リュート・カイン組からヘルン、ヘルンから国王、国王からディーオに話が伝わって、なぜか私が怒られた。
 ナナなんて、その剣を潰してお守り作ろうとしていたし、別に私だけが悪いわけじゃないような気がする。

 とにかく、そんなこんなでこの男、ディーオ・クライマーは何か変わった事があったら報告してくれと、げっそりした顔で言うのだから私も悪いなーと、思って報告に来てるだけである。

 それ以外の何も無い。

 無い!

 無いわよ?

「とにかく……校長から聞いた。亜人問題や他国の女王を護るなど、怪我はあったようだが無事でなによりだ、おかえり」
「っ!」

 この男にしては珍しく、珍しく笑顔を私に向けてきた。
 ぼさぼさに見える髪で、グリーン色の瞳が私を真っ直ぐに見つめてくる。

「どうした、ぼーっとして時差ぼけか」
「ぼ、ぼけるほど離れてませんしー。その……ただ……ただいま」
「っ…………ああ……」


 なぜか、ディーオも押し黙る。

 コンコン。

「ど、どうぞ! 開いている」
「そ、そうよ! 開いてるわよ!」

 私とディーオがほぼ同時喋ると、静に扉が開いた。
 入ってきたのは、ナナである。

「あれ、ナナどうしたの?」
「エルンさん! エルンさんも今度の学園祭の話ですか?」
「学園祭?」
「学園祭とはグラン学園の行事の一つでな一年に一回行われる行事だ。
 個人やグループで模擬店を出したり、クラスや学科で模擬店をだしたりする」
「へぇ……知ってるわよ。いや、学園祭って名前だけは知ってるって意味ね」


 なるほど、もうそんな季節か。
 ゲームでの学園祭。
 主人公であるナナは、ホットドックを【錬金術】で大量に作り大量に売りさばく、お金もうけイベントである。
 はたして、料理ではなく錬金術で作った食べ物は安全なのだろうか? と思いながらもプレイしたものだ。

 それ以外にも、学園祭の終わりにはルートによってはデートイベントなどもあったきがする。

 にしても、イベントが多い学校よね。
 その辺はゲームと同じかぁ。

「で、錬金術科では何かするの?」
「知ってのとおり、錬金術科は人数が少ない」


 本当に少ない。
 元から何十人も居るわけじゃないし、結構辞めていったし普通科に編入した生徒も多い。
 私も数回、ディーオの授業を受けに、不定期で行われる授業にでたけど。
 受ける度に生徒の顔が違うし、何か集まってするようなことも無い。


「思うんだけど少なすぎない?」
「資格だけを買おうとする生徒などは、普通科へ編入させているからな。
 もっとも、人数が多くても、錬金科は問題児や協調性の無い人間もいる」
「なんでこっちを見て言うのかしら?」
「そういう人間も居るという話だ」
「「………………」」

 私とディーオがにらみ合っていると、ナナの困った声が聞こえた。


「あ、あのっ!」
「ああ、すまない。ナナ君のやりたいと言っていた模擬店の申請は下りた。そのエルン君も何かやらかすのか?」
「なんで、ナナはやりたいで、私はやらかす前提なのよ! しないわよ!」
「それは助かる、なんせ君が…………いや君達が問題を起こす度にボクの給料が減るんだ」
「………………それはゴメン」
「ご、ごめんなさい!」
「錬金術師として知識に飢えているのはわかるが…………いや説教をしたいわけじゃない。
 当日の食べ物屋はボクも楽しみにしよう」

 私とナナはディーオが居た部屋から一緒にでる。
 廊下を歩くと、中庭には練習用の剣を振り回し練習に励む生徒も見えた。

「皆熱心ねぇ」
「はい、当日は一般解放もされますので、様々な人が来ます。
 その……他の貴族様や商人の方など」
「あー……なるほどね」


 流石にこの場では口にださないが、そういう事か。
 どういう事かというと、簡単にいえば学園祭というのは、汚い言葉で言えば身売り場だ。
 様々な特技を外の人間にアピールして縁を繋ぐというのかしら。

「ほ、ほかにも卒業生さんなども、そのカップルも多く出来ると聞いています」
「あ、もしかしてナナも恋人作り――」
「違います! 純粋にお金を稼ぎたくて……あの、錬金術の道具って何でも高いんです……」

 確かに。
 いまだ資産がある私なら気にしないけど、ナナだったらそうでしょうね。
 ゲームでも後から出てくる道具がべらぼうな値段に成っていくし。
 

「――――とはいえ、私ももうそろそろ今後の事を考えたほうがいいような……」
「大丈夫です! エルンさんさえ良ければ一緒に工房を立ち上げましょう!」
「はっまた口に。でも、私まだ中和剤しか作れないわよ」
「大丈夫です! エルンさんは何もしなくてもいいんです。わたし頑張ります!」

 共同経営者としてそれはどうなんだろう。
 よし、だったらエルンさんも、ナナに良い所みせないとね。
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