上 下
97 / 209

93 また増えた……

しおりを挟む
 港町ミンファ。
 私がガーランドの国に降り立った最初の港町である、近くの飲食店ではこれから別れる人や再会を喜ぶ人などが多数見受けられた。

 で、人目を避けるように私は端の席について、これまた人目を避けるように座っている男へと尋ねる。


「ええっと……言ったのは私だけど本当にいいの?」
「むろんだ、エルン様には何度も助けて貰った。
 これからは召使い、いや、召使いは居るのだったな……馬番でもなんでも使ってくれ」


 いや、馬なんて面倒な動物、飼ってないけど……。
 そう思いながらも、なんでこんな状態になったのか考える。

 私の怪我が治り、いよいよ帰ると伝えたのは数日前。
 私は松葉杖を振りかざし、お茶会にいるメンバーに伝えた。
 お茶会のメンバーは、私、アマンダ、コタロウ、パトラ女王、シンシア姫、ヘルン王子、ガルド元隊長だったはず。

 ◇◇◇

「と、いうわけで松葉杖も要らないし、明日辺りにはお暇使用かと」
「「「えええええええ」」」
「シンシアとパトラ女王はわかるとして、なんでコタロウまで驚くのよ」
「エルン殿が居ないと、王宮にいる理由がなくなるでござる」
「コタロウさま。ご友人のパスを出しておきますので何時でも遊びに来てください。いいえ、良ければ毎週決まった日にお茶をしましょう。お城も寂しくなりますし。
 でも、メイドの部屋に足が滑ったと入るのは『もう』駄目ですよ」
「さすが、パトラ女王さまでござる。さ、エルン殿さっさと帰っても大丈夫でござる」

 私は無言で松葉杖を掴むと、コタロウが射程範囲から逃げていく。
 まったく…………まぁ、寂しくは無いといえば嘘になるけど、コタロウとはここでお別れだ。
 なんでもいつの間にか亜人の組合の係員になったらしく結構忙しくなるそうだ。
 シンシアの誕生日会の時に伝手を大量に作ったらしい。

「じゃ、アマンダ帰りもよろしく」
「あーエルンちゃん帰りは無理にゃ」

 アマンダに拒絶され、ヘルンが横から喋りだす。

「アマンダはこちらに譲ってもらいたい。
 錬金術師を…………捕まえ、第二王女も保護はしたが、今だ何があるかわからない。
 シンシアをグラン王国につれていく時に腕の立つ人間がいる」
「なるほど、じゃぁしょうがないわね。じゃぁ適当に一人で帰るわよ」
「それも困る」
「はい?」

 理由を聞くと一応使者である私を、ひょいひょいと一人で帰らせるのは不都合があるらしい。
 わからなくもないけど、こういう所って貴族は面倒よね。

「君、いま面倒な顔をしただろう。不都合なのは表向きの理由で、君が歩くとちょいちょい問題が起きる」
「なっ! 人を厄病神みたいに言わないでくださる!?」

 私は直ぐに抗議したけど、なぜか周りの人間数名が納得した顔をしていた。
 解せぬ。

「で、じゃぁ誰と帰ればいいのよ。一応はその人の都合もあるでしょう」
「おや、話が早くて助かる、パトラ女王どうぞ」
「はいはい、続けさせて貰いますわ。
 エルンさま、よければガルドを雇って欲しいのです」
「私が!?」

 私はパトラ女王とシンシアの後ろで直立不動で立っているガルドを交互に見る。

「はい。ガルドさんは隊長の座を降りて現在は任が何もありません。それに…………」

 パトラ女王はガルドのほうをみる、釣られてみるとガルドは口を開けた。

「自分で話そう。過程はどうあれ俺はパトラ女王に剣を向けた、証人も沢山あり城の外部では一級犯罪者と言う者もいる当然だ。
 打ち首はもちろん受け入れよう。だが、暫くの間国外追放という甘い寛大な処分を受けた」
「なるほど」

 何がなるほどなのか解からないけど、何となく解かった。
 つまり雇用主を探しているわけね。

「別にいいけど……本当にいいの?」
「構わない」
「ガルドお兄さまの新しい仕事場がエルンさまの所なんですね、素晴らしいです!」
「いや、シンシア。ガルド君はきっと逃げ出すだろう、なんせエルン君の下だ、激務と理不尽で三日も持たない……なに、その後は冒険者にでもなるといい紹介状を書いておこう」
「どういう意味よ!」
「大丈夫だ、無能すぎて首と言われるまで仕える」
「人をどこぞの親玉みたいに言わないでくださる!? 心外なんですけどー! これでも最近は門兵にも評判はいいのよ」
「ぐふふ最近でござるか?」


 ◇◇◇

「で、何の話だっけ。コタロウを的にしてダーツをした話だっけ?」
「あれで喜んでいたのはエルン様だけだな……周りはドン引きしていた」
「そうかな、シンシア辺りは喜んでいたし、なんだったらコタロウも、絶対に股間に当てたら駄目でござるよ? とパトラ女王のにフリを振っていたけど。パトラ女王もあらあらと笑顔だったけど」
「あれは…………その返答に困る。
 何度でも言う、エルン様に忠誠を誓おう、先に渡した書類通り俺の命はエルン様にゆだねる。
 不都合があれば城や王宮にだしてほしい両国で俺の首を何時切り落として書類だったはずだ」

 ガルドのの両腕はを見る。
 包帯で巻かれており、出発前には本当に腕が生えてきた。
 ただ、筋肉は完全に戻っていないらしく今は敏腕の兵士から、そこそこの兵士の力しかないと真顔で教えて貰った。
 冒険者に転進したとしても、そんなに強くは無いだろう。

「だから、私に忠誠を誓ってもらってもね……シンシアはどうするのよ。好きだったんでしょ?」

 そう、ガルドは極度のシスコンだ。
 なんでも、先祖返りしたシンシアの性格に惚れ、シンシアの守護騎士まで上り詰めた元王子だ。

「シンシアが幸せなら、ヘルンに譲ってもいいと思っている。ましてや俺はシンシアの兄でありながら、シンシアには何も贈る事が出来なかった。
 伴侶はシンシアが決めた事、俺が口に出す事ではない。それにエルン様よ」
「何?」
「仮に俺がヘルン王子を認めなく、シンシアにアタックをかけたとしよう」
「うんうん」
「その後に待っているのは、泣き出すシンシアと混沌しか見得ない」

 確かに。
 シンシアはガルドの事を兄として好きみたいだし、意味がわかってるか謎だけど伴侶としてはヘルン王子を慕ってる。

「まぁしょうがない。馬は居ないけど……召使いとして雇うわ。
 直ぐに首にすると色々と面倒そうだし」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻
恋愛
 ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。 「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」  呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。  王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。  その意味することとは?  慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?  なぜこのような状況になったのだろうか?  ご指摘いただき一部変更いたしました。  みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。 今後ともよろしくお願いします。 たくさんのお気に入り嬉しいです! 大変励みになります。 ありがとうございます。 おかげさまで160万pt達成! ↓これよりネタバレあらすじ 第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。 親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。 ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

「白い契約書:愛なき結婚に花を」

ゆる
恋愛
公爵家の若き夫人となったクラリティは、形式的な結婚に縛られながらも、公爵ガルフストリームと共に領地の危機に立ち向かう。次第に信頼を築き、本物の夫婦として歩み始める二人。困難を乗り越えた先に待つのは、公爵領の未来と二人の絆を結ぶ新たな始まりだった。

あなたの妻はもう辞めます

hana
恋愛
感情希薄な公爵令嬢レイは、同じ公爵家であるアーサーと結婚をした。しかしアーサーは男爵令嬢ロザーナを家に連れ込み、堂々と不倫をする。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

処理中です...