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91 罠

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 楽しい楽しいシンシアの誕生会だ。
 なんとまぁ、あちらこちらから人を呼んでの豪勢な誕生日会だ。

 ざっと数百人は入る場所でビュッフェタイプの食事。
 あちらを見てもこちらをみても、人、人の山である。
 亜人もいれば、人間もいる。
 シンシアみたいな亜人と人間の中間っぽい人も何人もいた。

 私もアマンダもドレスを借りての参加である。


「えるんちゃーん、顔が暗いにゃー。楽しみにしてたんでしょ? 食事」
「そりゃ楽しみにしてたわよ、和食が出ると思って……何よこれ」

 テーブルの上には、小振りの砂トカゲが横たわっていた。
 もちろん死んでおり、丸焼きである。
 皮を剥いでその内側にある肉を食べるのが美味とされている…………そうな。

 そりゃ鶏肉みたいで美味しいけどさー、私の求めているのはこんなのじゃない。

 他にも南国から取り寄せたフルーツや、グラン王国から取り寄せたワイン。
 よくわからない鶏がらと思われるスープに、香辛料がたっぷり詰まったパンやカレーっぽいやつ。
 和より洋や中が殆どである。

「そもそもにゃ、東方の料理はこういう場に合わないにゃ」
「うぐ……確かに」

 寿司はまだ、パーティー向きだろう。
 でも、近くに海が無いこの場所で寿司は危険だ。
 何ていってもなま物。握って保管は効かないはず、あと醤油やワサビもあるか不明。

 そうなると、焼き魚や、後なんだろう……オニギリ? 確か海苔も傷みやすいわよね。
 それも排除するとなると、懐石料理という奴かしら。
 食べた事がないけど、あれって量が少ないらしいし、何百人も来るパーティーには向かない。

 悶々としていると、背後から、
「失礼、お一人ですか?」
 と、男性の声がかかった。

 またか……美人で綺麗な私はこう立っているだけで声がかかる、それ自体は別にいい、もててる証拠だしー。
 振り返り笑顔で応対する。

「ええ。エルンと申しますわ、今回はシンシア姫様の誕生会にお呼ばれされてまして」
「そ、そうでしたか……おっとわたくしとした事が、手ぶらで声をかけてしまいました。貴女に似合う物を探してきますので、直ぐに戻ってきますので失礼を」
「いえいえみなさん・・・・そう言ってお戻りになりませんの、気にしなくて結構ですわ」

 私に声をかけてきた男性は、愛想笑いをして視界から消えていく。
 そして空気を読めない男がドスドスと走ってきた。

 
「ぐふふふ、エルン殿また振られてたでござるか?」
「何が言いたいのよ……」
「エルン殿に声をかけた下心ある男は、エルン殿の顔を見て逃げていくでござる。くっくっく」
「そういうコタロウはどうなのよ、さっきから人ごみに消えては戻ってくるけど」
「拙者でござるか? 拙者の事は気にしなくて大丈夫でござるよ、それよりアレが、ロリコン王子でござるか?」

 ん?

 コタロウが指を差したほうに、見慣れた男性がいた。
 その手にはシンシアが両手を使って引っ張っている。
 あ、こっちに気づいた。

 いや、露骨に顔を逸らした。

 シンシアが私に手を振ると、嫌がるロリコン王子を引っ張って歩いてきた。

「エルンさま、楽しんでますか? シンシアは普通です!」
「そこそこ楽しいわよ。で?」
「はい、シンシアのだんな様でヘルン様です」
「…………久しぶりね。で、何で会いたくなかったって顔するのよ」
「とっくにグランに帰ってもいい時期だろうに、こっちが驚いた。君がいると悪い騒動に巻き込まれそうで、今回も色々在ったらしいじゃないか……」
「私が悪いんじゃないですけどー」

 まったくもって心外である。

「でも、色々とありがとう。正直色々な話を聞いた時は心臓が飛び出るかと思った。
 グラン王国はまだ外見に惑わされる人間が多い、シンシアの喜び具合をみると、裏があるにしろ君を使者に頼んで正解だったよ」
「裏?」
「っと、なんでもない」

 私が詰め寄ろうとすると、ヘルンのほうが先に話し出した。

「シンシアの誕生日会だ。知っている人はもう知ってはいるが、僕が婚約者という事をこっちの国でも知らせるために来た」
「なるほどー」
「まぁ君には縁もない話と思うが、結婚ってのは中々大変なんだよ」
「へー……ってなんで関係ないのよっ!」
「だって、する気は一切ないだろ」

 うぐ……。
 別にしたい訳じゃない、そもそも結婚する前に付き合いってのがあって、そりゃ私も一応は貴族だしー、付き合う以前に家のために全部飛ばしてお見合い結婚って話もあるわよ?
 でも、――――。

「パパは自由にしなさいって言うし。
 なんだったらエルンの代で潰してもいいぞと怖い事を進めてくる。
 潰すのはさすがに、それだったら養子を迎えてとは伝えてある、そして私は後継人として左団扇で暮らすのだ」

 うん、完璧!

「何が完璧なんだ……」
「は! 心の声が」
「だた漏れすぎて怖い、錬金術師になる人間はこうなのか……思えばミーナも変わっていたな……」
「エルンさま、ミーナさまも錬金術師でシンシアのお友達なのです」
「へー」


 私達が話をしていると、正装の男性が何人も寄ってきた。
 ヘルンやシンシアに耳打ちをして帰っていく。

「どうやら、式典の準備が終わったらしい。
 あっちの台の上でやる事になる」

 私がみると、数段の階段がありその上が綺麗な床になっていた。
 なるほど、あそこで見せ付けるのか。

「エルンさま! ぜひぜひ一番前でシンシアの可愛い姿を見てください」
「ぐふふ、シンシア姫は何所で見ても可愛いでござる」


 コタロウの褒め言葉に、シンシアがありがとうと笑顔で言ったり、それをみたヘルンが露骨に嫌な顔をしたり、こんな王子でも嫉妬はするのよねと思ったり。

 なんだかんだで時間が押しているらしく、二回目に係員が来た所で私達は別れた。
 一番前に来てねといわれたので、前の席を陣取る。

 自然に私の周りに空間が出来たけど、なんだったら快適で良いわね。

「エルン殿強がりでござるな、っと見てる、皆みてるでござるから殴るのは駄目でござるよ!」


 ◇◇◇

 音楽が鳴った。
 パトラ女王が一段高い場所に立つと、本日集まって貰ったお礼を会場に言う。
 次にシンシアがぴょこぴょこと歩いてくる。
 その後ろにはガルドが腰に剣をつけ騎士の格好で歩いてくる。

 その姿は堂々としており、まさに守護者。
 なんだったら、ひょろひょろしたヘルンよりかっこいい。
 
 男性が歩いてきてシンシアに大きな箱を二つ渡す。
 パトラ女王が父と姉からと、誕生会にこれなくてごめんなさいという手紙が来てますと手紙を渡した。
 次に、第二女王からもプレゼントが来ています、と、いうと一部がざわつく。

「マーズ姫からの贈り物は、大きすぎてお部屋のほうへ置いておきますね」
「わかりました、おかあ……パトラ女王様」
「はい、良く出来ました。続いてシンシア姫の婚姻の――」


 いまだ、シンシアよやれ。

 私の耳に何か聞こえた気がした。
 思わず振り向く、中年でいかにも弱そうな男性が何かを振りまいた。
 悪臭で鼻が曲がりそうになる。
 周りの人間も突然の悪臭に場を離れたり固まったりしている、その中年の男性はまっすぐに台座を見ていた。

 ふいにシンシアを見ると、焦点の合わない目でアイスピック見たいのを持っている。
 パトラ女王は、こちら側の男を見ていた。

 シンシアのアイスピックがパトラ女王の喉に向けて……。 
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