95 / 209
91 罠
しおりを挟む
楽しい楽しいシンシアの誕生会だ。
なんとまぁ、あちらこちらから人を呼んでの豪勢な誕生日会だ。
ざっと数百人は入る場所でビュッフェタイプの食事。
あちらを見てもこちらをみても、人、人の山である。
亜人もいれば、人間もいる。
シンシアみたいな亜人と人間の中間っぽい人も何人もいた。
私もアマンダもドレスを借りての参加である。
「えるんちゃーん、顔が暗いにゃー。楽しみにしてたんでしょ? 食事」
「そりゃ楽しみにしてたわよ、和食が出ると思って……何よこれ」
テーブルの上には、小振りの砂トカゲが横たわっていた。
もちろん死んでおり、丸焼きである。
皮を剥いでその内側にある肉を食べるのが美味とされている…………そうな。
そりゃ鶏肉みたいで美味しいけどさー、私の求めているのはこんなのじゃない。
他にも南国から取り寄せたフルーツや、グラン王国から取り寄せたワイン。
よくわからない鶏がらと思われるスープに、香辛料がたっぷり詰まったパンやカレーっぽいやつ。
和より洋や中が殆どである。
「そもそもにゃ、東方の料理はこういう場に合わないにゃ」
「うぐ……確かに」
寿司はまだ、パーティー向きだろう。
でも、近くに海が無いこの場所で寿司は危険だ。
何ていってもなま物。握って保管は効かないはず、あと醤油やワサビもあるか不明。
そうなると、焼き魚や、後なんだろう……オニギリ? 確か海苔も傷みやすいわよね。
それも排除するとなると、懐石料理という奴かしら。
食べた事がないけど、あれって量が少ないらしいし、何百人も来るパーティーには向かない。
悶々としていると、背後から、
「失礼、お一人ですか?」
と、男性の声がかかった。
またか……美人で綺麗な私はこう立っているだけで声がかかる、それ自体は別にいい、もててる証拠だしー。
振り返り笑顔で応対する。
「ええ。エルンと申しますわ、今回はシンシア姫様の誕生会にお呼ばれされてまして」
「そ、そうでしたか……おっとわたくしとした事が、手ぶらで声をかけてしまいました。貴女に似合う物を探してきますので、直ぐに戻ってきますので失礼を」
「いえいえみなさんそう言ってお戻りになりませんの、気にしなくて結構ですわ」
私に声をかけてきた男性は、愛想笑いをして視界から消えていく。
そして空気を読めない男がドスドスと走ってきた。
「ぐふふふ、エルン殿また振られてたでござるか?」
「何が言いたいのよ……」
「エルン殿に声をかけた下心ある男は、エルン殿の顔を見て逃げていくでござる。くっくっく」
「そういうコタロウはどうなのよ、さっきから人ごみに消えては戻ってくるけど」
「拙者でござるか? 拙者の事は気にしなくて大丈夫でござるよ、それよりアレが、ロリコン王子でござるか?」
ん?
コタロウが指を差したほうに、見慣れた男性がいた。
その手にはシンシアが両手を使って引っ張っている。
あ、こっちに気づいた。
いや、露骨に顔を逸らした。
シンシアが私に手を振ると、嫌がるロリコン王子を引っ張って歩いてきた。
「エルンさま、楽しんでますか? シンシアは普通です!」
「そこそこ楽しいわよ。で?」
「はい、シンシアのだんな様でヘルン様です」
「…………久しぶりね。で、何で会いたくなかったって顔するのよ」
「とっくにグランに帰ってもいい時期だろうに、こっちが驚いた。君がいると悪い騒動に巻き込まれそうで、今回も色々在ったらしいじゃないか……」
「私が悪いんじゃないですけどー」
まったくもって心外である。
「でも、色々とありがとう。正直色々な話を聞いた時は心臓が飛び出るかと思った。
グラン王国はまだ外見に惑わされる人間が多い、シンシアの喜び具合をみると、裏があるにしろ君を使者に頼んで正解だったよ」
「裏?」
「っと、なんでもない」
私が詰め寄ろうとすると、ヘルンのほうが先に話し出した。
「シンシアの誕生日会だ。知っている人はもう知ってはいるが、僕が婚約者という事をこっちの国でも知らせるために来た」
「なるほどー」
「まぁ君には縁もない話と思うが、結婚ってのは中々大変なんだよ」
「へー……ってなんで関係ないのよっ!」
「だって、する気は一切ないだろ」
うぐ……。
別にしたい訳じゃない、そもそも結婚する前に付き合いってのがあって、そりゃ私も一応は貴族だしー、付き合う以前に家のために全部飛ばしてお見合い結婚って話もあるわよ?
でも、――――。
「パパは自由にしなさいって言うし。
なんだったらエルンの代で潰してもいいぞと怖い事を進めてくる。
潰すのはさすがに、それだったら養子を迎えてとは伝えてある、そして私は後継人として左団扇で暮らすのだ」
うん、完璧!
「何が完璧なんだ……」
「は! 心の声が」
「だた漏れすぎて怖い、錬金術師になる人間はこうなのか……思えばミーナも変わっていたな……」
「エルンさま、ミーナさまも錬金術師でシンシアのお友達なのです」
「へー」
私達が話をしていると、正装の男性が何人も寄ってきた。
ヘルンやシンシアに耳打ちをして帰っていく。
「どうやら、式典の準備が終わったらしい。
あっちの台の上でやる事になる」
私がみると、数段の階段がありその上が綺麗な床になっていた。
なるほど、あそこで見せ付けるのか。
「エルンさま! ぜひぜひ一番前でシンシアの可愛い姿を見てください」
「ぐふふ、シンシア姫は何所で見ても可愛いでござる」
コタロウの褒め言葉に、シンシアがありがとうと笑顔で言ったり、それをみたヘルンが露骨に嫌な顔をしたり、こんな王子でも嫉妬はするのよねと思ったり。
なんだかんだで時間が押しているらしく、二回目に係員が来た所で私達は別れた。
一番前に来てねといわれたので、前の席を陣取る。
自然に私の周りに空間が出来たけど、なんだったら快適で良いわね。
「エルン殿強がりでござるな、っと見てる、皆みてるでござるから殴るのは駄目でござるよ!」
◇◇◇
音楽が鳴った。
パトラ女王が一段高い場所に立つと、本日集まって貰ったお礼を会場に言う。
次にシンシアがぴょこぴょこと歩いてくる。
その後ろにはガルドが腰に剣をつけ騎士の格好で歩いてくる。
その姿は堂々としており、まさに守護者。
なんだったら、ひょろひょろしたヘルンよりかっこいい。
男性が歩いてきてシンシアに大きな箱を二つ渡す。
パトラ女王が父と姉からと、誕生会にこれなくてごめんなさいという手紙が来てますと手紙を渡した。
次に、第二女王からもプレゼントが来ています、と、いうと一部がざわつく。
「マーズ姫からの贈り物は、大きすぎてお部屋のほうへ置いておきますね」
「わかりました、おかあ……パトラ女王様」
「はい、良く出来ました。続いてシンシア姫の婚姻の――」
いまだ、シンシアよやれ。
私の耳に何か聞こえた気がした。
思わず振り向く、中年でいかにも弱そうな男性が何かを振りまいた。
悪臭で鼻が曲がりそうになる。
周りの人間も突然の悪臭に場を離れたり固まったりしている、その中年の男性はまっすぐに台座を見ていた。
ふいにシンシアを見ると、焦点の合わない目でアイスピック見たいのを持っている。
パトラ女王は、こちら側の男を見ていた。
シンシアのアイスピックがパトラ女王の喉に向けて……。
なんとまぁ、あちらこちらから人を呼んでの豪勢な誕生日会だ。
ざっと数百人は入る場所でビュッフェタイプの食事。
あちらを見てもこちらをみても、人、人の山である。
亜人もいれば、人間もいる。
シンシアみたいな亜人と人間の中間っぽい人も何人もいた。
私もアマンダもドレスを借りての参加である。
「えるんちゃーん、顔が暗いにゃー。楽しみにしてたんでしょ? 食事」
「そりゃ楽しみにしてたわよ、和食が出ると思って……何よこれ」
テーブルの上には、小振りの砂トカゲが横たわっていた。
もちろん死んでおり、丸焼きである。
皮を剥いでその内側にある肉を食べるのが美味とされている…………そうな。
そりゃ鶏肉みたいで美味しいけどさー、私の求めているのはこんなのじゃない。
他にも南国から取り寄せたフルーツや、グラン王国から取り寄せたワイン。
よくわからない鶏がらと思われるスープに、香辛料がたっぷり詰まったパンやカレーっぽいやつ。
和より洋や中が殆どである。
「そもそもにゃ、東方の料理はこういう場に合わないにゃ」
「うぐ……確かに」
寿司はまだ、パーティー向きだろう。
でも、近くに海が無いこの場所で寿司は危険だ。
何ていってもなま物。握って保管は効かないはず、あと醤油やワサビもあるか不明。
そうなると、焼き魚や、後なんだろう……オニギリ? 確か海苔も傷みやすいわよね。
それも排除するとなると、懐石料理という奴かしら。
食べた事がないけど、あれって量が少ないらしいし、何百人も来るパーティーには向かない。
悶々としていると、背後から、
「失礼、お一人ですか?」
と、男性の声がかかった。
またか……美人で綺麗な私はこう立っているだけで声がかかる、それ自体は別にいい、もててる証拠だしー。
振り返り笑顔で応対する。
「ええ。エルンと申しますわ、今回はシンシア姫様の誕生会にお呼ばれされてまして」
「そ、そうでしたか……おっとわたくしとした事が、手ぶらで声をかけてしまいました。貴女に似合う物を探してきますので、直ぐに戻ってきますので失礼を」
「いえいえみなさんそう言ってお戻りになりませんの、気にしなくて結構ですわ」
私に声をかけてきた男性は、愛想笑いをして視界から消えていく。
そして空気を読めない男がドスドスと走ってきた。
「ぐふふふ、エルン殿また振られてたでござるか?」
「何が言いたいのよ……」
「エルン殿に声をかけた下心ある男は、エルン殿の顔を見て逃げていくでござる。くっくっく」
「そういうコタロウはどうなのよ、さっきから人ごみに消えては戻ってくるけど」
「拙者でござるか? 拙者の事は気にしなくて大丈夫でござるよ、それよりアレが、ロリコン王子でござるか?」
ん?
コタロウが指を差したほうに、見慣れた男性がいた。
その手にはシンシアが両手を使って引っ張っている。
あ、こっちに気づいた。
いや、露骨に顔を逸らした。
シンシアが私に手を振ると、嫌がるロリコン王子を引っ張って歩いてきた。
「エルンさま、楽しんでますか? シンシアは普通です!」
「そこそこ楽しいわよ。で?」
「はい、シンシアのだんな様でヘルン様です」
「…………久しぶりね。で、何で会いたくなかったって顔するのよ」
「とっくにグランに帰ってもいい時期だろうに、こっちが驚いた。君がいると悪い騒動に巻き込まれそうで、今回も色々在ったらしいじゃないか……」
「私が悪いんじゃないですけどー」
まったくもって心外である。
「でも、色々とありがとう。正直色々な話を聞いた時は心臓が飛び出るかと思った。
グラン王国はまだ外見に惑わされる人間が多い、シンシアの喜び具合をみると、裏があるにしろ君を使者に頼んで正解だったよ」
「裏?」
「っと、なんでもない」
私が詰め寄ろうとすると、ヘルンのほうが先に話し出した。
「シンシアの誕生日会だ。知っている人はもう知ってはいるが、僕が婚約者という事をこっちの国でも知らせるために来た」
「なるほどー」
「まぁ君には縁もない話と思うが、結婚ってのは中々大変なんだよ」
「へー……ってなんで関係ないのよっ!」
「だって、する気は一切ないだろ」
うぐ……。
別にしたい訳じゃない、そもそも結婚する前に付き合いってのがあって、そりゃ私も一応は貴族だしー、付き合う以前に家のために全部飛ばしてお見合い結婚って話もあるわよ?
でも、――――。
「パパは自由にしなさいって言うし。
なんだったらエルンの代で潰してもいいぞと怖い事を進めてくる。
潰すのはさすがに、それだったら養子を迎えてとは伝えてある、そして私は後継人として左団扇で暮らすのだ」
うん、完璧!
「何が完璧なんだ……」
「は! 心の声が」
「だた漏れすぎて怖い、錬金術師になる人間はこうなのか……思えばミーナも変わっていたな……」
「エルンさま、ミーナさまも錬金術師でシンシアのお友達なのです」
「へー」
私達が話をしていると、正装の男性が何人も寄ってきた。
ヘルンやシンシアに耳打ちをして帰っていく。
「どうやら、式典の準備が終わったらしい。
あっちの台の上でやる事になる」
私がみると、数段の階段がありその上が綺麗な床になっていた。
なるほど、あそこで見せ付けるのか。
「エルンさま! ぜひぜひ一番前でシンシアの可愛い姿を見てください」
「ぐふふ、シンシア姫は何所で見ても可愛いでござる」
コタロウの褒め言葉に、シンシアがありがとうと笑顔で言ったり、それをみたヘルンが露骨に嫌な顔をしたり、こんな王子でも嫉妬はするのよねと思ったり。
なんだかんだで時間が押しているらしく、二回目に係員が来た所で私達は別れた。
一番前に来てねといわれたので、前の席を陣取る。
自然に私の周りに空間が出来たけど、なんだったら快適で良いわね。
「エルン殿強がりでござるな、っと見てる、皆みてるでござるから殴るのは駄目でござるよ!」
◇◇◇
音楽が鳴った。
パトラ女王が一段高い場所に立つと、本日集まって貰ったお礼を会場に言う。
次にシンシアがぴょこぴょこと歩いてくる。
その後ろにはガルドが腰に剣をつけ騎士の格好で歩いてくる。
その姿は堂々としており、まさに守護者。
なんだったら、ひょろひょろしたヘルンよりかっこいい。
男性が歩いてきてシンシアに大きな箱を二つ渡す。
パトラ女王が父と姉からと、誕生会にこれなくてごめんなさいという手紙が来てますと手紙を渡した。
次に、第二女王からもプレゼントが来ています、と、いうと一部がざわつく。
「マーズ姫からの贈り物は、大きすぎてお部屋のほうへ置いておきますね」
「わかりました、おかあ……パトラ女王様」
「はい、良く出来ました。続いてシンシア姫の婚姻の――」
いまだ、シンシアよやれ。
私の耳に何か聞こえた気がした。
思わず振り向く、中年でいかにも弱そうな男性が何かを振りまいた。
悪臭で鼻が曲がりそうになる。
周りの人間も突然の悪臭に場を離れたり固まったりしている、その中年の男性はまっすぐに台座を見ていた。
ふいにシンシアを見ると、焦点の合わない目でアイスピック見たいのを持っている。
パトラ女王は、こちら側の男を見ていた。
シンシアのアイスピックがパトラ女王の喉に向けて……。
0
お気に入りに追加
69
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない
おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。
どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに!
あれ、でも意外と悪くないかも!
断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。
※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。
【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
優しく微笑んでくれる婚約者を手放した後悔
しゃーりん
恋愛
エルネストは12歳の時、2歳年下のオリビアと婚約した。
彼女は大人しく、エルネストの話をニコニコと聞いて相槌をうってくれる優しい子だった。
そんな彼女との穏やかな時間が好きだった。
なのに、学園に入ってからの俺は周りに影響されてしまったり、令嬢と親しくなってしまった。
その令嬢と結婚するためにオリビアとの婚約を解消してしまったことを後悔する男のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる