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90 見た目は異常ナシ!

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 シンシアが目覚めた。
 そう聞いたのは、救出してから四日目の朝だった。

「え。本当!?」
「ほんとうにゃ、今はかかり付けの医者に見て貰ってるにゃ」
「そう、良かった…………」


 私も心配だったけど、それよりも先に目を覚ましたガルドのほうも、日に日に顔色が悪くなって行っていたし。
 食事ぐらい取りなさいって怒ったけど、まともに取った様子も無かったものね。


「後は、第二王女とええっと、錬金術師ハゲットだっけ?」
「マーズ姫とパペットにゃ」
「……毛生え薬って話だったからまざったわ、アマンダも探しに行ったんでしょ?」
「どっちの足取りもまだにゃー、発見した場所とがるどっちの話にあった館行ったんだけどねー」
「暫くは様子見か、解決したって事でいいのかしらね?」


 私が言うと、食器棚が動き始めた。
 隠し階段だ。

 と、いう事はパトラ女王だろう、私は姿勢を正す。
 背の低い女性がぴょこぴょこと顔を見せた。

「シンシア! …………姫」
「はい、おひさしぶりですっ。元気いっぱいのシンシアですっ姫はつけなくても大丈夫っ!」
「そ、そう? ええっと……その、元気ね」

 元気すぎるという奴だ。
 昨日まで寝たきりで意識も無かった子とは思えない。
 誰か糸でも釣って操っているのかしら? 念のためシンシアの頭上をみるが糸もなければサミダレも居ない。

 彼女ならワンチャン、糸でも使って操っていても不思議じゃないのに。

「もう、ガルドお兄さまーったら酷いんです! こんなに元気なのに、もっと寝ていろとか、すまなかったとか、ガルドお兄さまのほうが顔色が悪いのに、だから、お母様の部屋に行くからって言って、逃げちゃいました」

 シンシアは小さく舌をだす、それと同時に耳がぴこぴこと動く、可愛い。

「ましたって」
「でね。お母様がそんなに元気なら、エルンさまに元気な姿を見せてあげなさいって言うんです」

 ピコピコ。

「でもでも、お母様の部屋からゲストルームまでは距離がありますっ! ってこうぎしたんです。じゃないとガルドお兄さまに捕まってしまうもの」

 ピココ。

「そしたら何とですね。
 ここから行けるわよって隠し階段を出してくれたのっ」
「そ、そう」

 さっきから頭の獣耳に目がいく、こないだより元気に動くものね。

「で、でね。ヘルンさまからのお手紙でも、エルンさまは笑顔でダブルクマベアーの腹をかっさばく顔だけど、根はいい子だから遊び相手になってくれって。
 シンシアかっさばくって解からないですけど、お腹を切るって事で良いんですよねっ。
 あとあと、手紙にはエルンさんは男嫌いだから恋人の話は聞いちゃだめだよって書いてあっ……ごめモギュモギュ」

 気づくと私はシンシアのホッペを手でモギュと潰していた。
 なんでモギュモギュするの? という子リスのような輝く瞳で私を見上げている。

「少しは静かに、まったく病み上がりなんだから、それと男嫌いじゃなくて死にたくないから振ったのよ」

 シンシアのほっぺから手を離す。

「そうなんです! 病み上がりなんです、三日も寝ていたらしいんです。
 その間誰とも喋れませんよね、もったい無いです。
 でも、まわりの人は、誘拐された時の話しか聞いて来ないんです、シンシア悲しいです! 寝ている間に苦いお薬も飲まされたようです。
 もっと悲しいです、お薬はもっと飲みやすくするべきです」
「飲みやすかったら、沢山飲むでしょ? 薬って飲みすぎると毒なのよ」

 私の突っ込みに、シンシアの目が見開いた。

「エルンさまは頭いいんですね! あっ……褒め言葉じゃないって教わったのでした。ごめんなさい」

 ペターン。
 獣耳が髪の毛にくっついた。
 怒られると思っているのか……可愛い、可愛すぎて怒れないわよ!
 ただ、変な事を吹き込んだヘルン王子には、戻った時に嫌味の一つでも送ってあげましょう。

「そんな小さい事で怒らないわよー」
「本当ですか? エルンさまって優しいですね」
「別に優しくないわよ」
「わかるんです。シンシアが半亜人だからシンシアの事が嫌いな人が……でも、ヘルンさまも、ガルドお兄さまも、お母様もエルンさまも、エルンさまもアマンダさ――――」

 次々に名前を言い出していく。
 私の知っている人の名前から知らない名前まで、最後には大好きです! と閉め終った。

 そういわれると、亜人というよりは、猫耳の生えた人間に近い。
 完全に獣人とは違うのよね。

 それからは、私の普段の生活を教えて欲しいといわれ、面白くも無いわよと話をする。
 私の一日。

 
 ノエに起して貰う。

 ノエに食事を作って貰う、もしくは頼んで貰ったのを届けて貰う。

 昼まで読書。

 昼も朝と同様。

 午後はナナが遊びに来る。三日に一回はカー助を捕まえて風呂に入れる。
 三才から始める錬金術師という本を見ながら中和剤を作り、ナナに教わる。
 
 夜はナナと一緒か、居ない時はノエの作ってくれたものを一人で食べる。

 適当に寝る。

 これぐらいだ。
 一度別の場所で、エルン君は何時も暇そうだなと、言われて、むかついたので、その足でリュートとカインに尋ねた所、別に貴族だからといって仕事が無いわけじゃ無いよと教えて貰った。
 記憶が戻る前も似た様な過ごし方をしていたので、考えた事なんて無かったわ。


 ◇◇◇


 やっぱりというか、当たり前というか、夕方になるとゲストルームにガルドがシンシアを迎にきて帰っていった。
 まぁ帰ってこなかったら心配になるわよね。
 今度は襲われないようにねと言うと、とても暗い顔をしていた。

 うん。言い過ぎたごめん。
 護衛にアマンダをつけるから許して。
 あ、一人でいいの? 気をつけて。
 ん? 何故驚いた顔をする、私だって心配はするわよ。

 入れ違いにコタロウも戻ってきた。

「かーーー! シンシア姫が来ていたでござるかっ! こんな事なら捜索隊に加わらなかったでござるのに!」
「今朝、怪しい屋敷の捜索隊に加われば、わんちゃん、兵士の目を盗んでこっそりマーズ姫の下着とかも手に入るかもって、喜んで行ったわよね?」
「あれは冗談でござるよ。拙者そんな事は絶対にしないでござる。そんな事より純粋無垢な少女を見ていたほうが和むでござる」

 私はコタロウの不自然に盛り上がったポケットから視線を外す。
 たぶん、触れてはいけない奴だ。だって、ブラ紐みたいのみえてるし。

「それよりも、シンシア姫の一三才の誕生日は予定通り来週に行うって。
 こっちも夕食にするから、着替えてきたら?」
「了解でござる」

 なので来週までは私達もこの王宮にいる事になる。
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