上 下
93 / 209

89 目覚めた元王子さま

しおりを挟む
 玩具箱をひっくり返したような、あれ? 宝石箱だったかしら? 例え違ったかもしれない。まぁとにかく、大変だった。

 ガルドもシンシアも意識が無く、幸い息はしているけど放置なんて出来ないし、運が悪い事に私達を監視する兵士も居ないし、まったく緊急性に困るんだから見張りぐらい付けときなさいよ! 

 そう、怒った所で、さっきまで開放的っていったにゃよね? と、アマンダの突っ込みが入ったりと……。
 とにかく私がシンシアをおぶり、アマンダがガルドをおぶって城まで走ったのだ。
 だってガルド重いんだもん、いくら私が高身長だからって男性運べるほど体力ないわよ。
 もちろん、なるべく人目に付かないようになので途中で金に物を言わせてホロ馬車を使った。

 で、今はゲストハウスで私達は待機中である。


「こう、探し物は見つかったら見つかったで大変だってのが、わかったわ……」
「にゃはー……同感ー」
「ってか、笛吹けばよかったのよね」
「にゃのよねー」

 気が動転して、サミダレを呼ぶのを忘れており、城に戻ってから気がついた。
 笛を吹くとサミダレが飛んで来て、いや、飛んでくるのは嬉しいんだけど、なんで背後から来るのか、そして、何故耳元で、……ご用件でしょうか? と、呟くのか。

 なんだかんだと色々と手配をしてくれたのは嬉しいんだけど、解せぬ。

 私とアマンダが……いや、主に私がぐったりしてると扉がノックされる。
 事前に足音でわかったけど。

「お疲れ様でござるよ」

 私が、お疲れ様ーと返事をすると、コタロウは黙って私を見ている。

「何?」
「とても貴族に見えない体勢でござる」

 ふむ、私の今の体勢は、ソファーに横になり、反対側の手すり部分に両足を小さく空けて足をかけている。

「別にいいじゃないの、細かい事はいいのよ、ズボンだってはいているんだし」

 私は自慢・・・の長い足を天井に向けてみせる。
 ぐふふふと聞こえてきたので、コタロウへと、ガルドの事を聞いてみた。

「で、容態は?」
「シンシア姫のほうは、まだ眠っているでござる。もう一人のほうは意識が戻りリハビリ中でござる」
「了解」
「今はアジトっぽい所何箇所かに向けて何人かの兵士が向かってるでござるよ」
「まったく、シンシアちゃんを助けたのはいいけど、自分も捕まるとか馬鹿じゃないの?
 目つき悪いし口も悪いし、オマケにシスコンってヘルン王子も、あれを兄って呼ぶのかしら、大変よねー」

 私は自分の爪を見ながら返事する。
 コタロウのグフフと笑い声が聞こえたかと思うと、
「馬鹿ですまない、迷惑をかけた」
 と、別の声が聞こえ来た。

 …………。

 ……………………。

 私は起き上がると、コタロウの後ろにいる人に話しかけた。


「ええっと、馬鹿だけと純粋な熱い男よねって言いたかったのよ。ガルド王子・・・・・ってか、居るなら居るっていいなさいよコタロウ!」
「拙者はリハビリ中と伝えたでござる、ぐっふっふ」
「少し体を動かそうと思ってな、何から何まで世話になったと礼をいいに来たのだが、それと王位継承権は無い、呼び捨てで結構だ」

 とりあえず、ガルドをソファーへ座らせた。

「煎茶でいい? 昨日の残りがまだあったはず」
「えるんちゃん、うちがやるにゃー?」
「座っていて良いわよ」

 私は手早く、煎茶を入れる。
 パトラ女王が昨日持って来たのは粉茶になっており、お湯に溶かせば直ぐ飲める奴だ。
 専用のコップですわと、置いていってくれた湯飲み三つにお茶を入れ私とアマンダ、そしてガルドの前に置く。

 コタロウが何が言いたそうな顔で見ているけど、気にしない。
 ガルドが自らの湯のみをコタロウへと移動させようとしたので、顔を向けると止まった。

「ぐふふ、大丈夫でござるよ。エレン殿のささやかな悪戯は、拙者の事が好きだから――――」
「一ミリも無い! ただの嫌がらせでーすー! たっく、なんでコタロウの事が好きなのよ!」
「じゃぁ、えるんちゃん、好きな人はだーれー?」


 お茶を飲んで一息ついたアマンダが話を振って来る。

 ………………。

「まぁとりあえず、その話は置いておいて」
「おや、エルン殿――」
「その話戻したら、今度は本気でキレるわよ」

 見得ない箱を、横に置いたのに、それを手で戻しそうになったコタロウは、私の一言で動きを止めた。

「で、これで私達も自由に帰っていいのよね?」
「…………」
「聞いているんだけど? ガルド、ガルド王子ー? おーい」
「し、失礼した。その俺の知っている貴族の集まりとは全然違っていて、驚いてしまったようだ。グラン王国の貴族とはこういう物なのだろうか?」

 あーえー……確かに貴族らしくはないわね。
 小さい頃誕生パーティーなどしてもらったけど、もっと殺伐としてたし。
 ある年から、同年代の子供が一切来なくなった……あ、一人だけリュートが毎年着てたわね。

 今年の誕生日は誰にも知らせなかったのに、相変わらずリュートだけはお酒を送ってくれたわ。
 ナナにその事を伝えたら、何で誕生日なのを教えてくれなかったんですか! と久々に怒られた。
 
「っと、違うと思うわよ。なんていうか自分で言うのもなんだけど、私が変わってるのかもしれない」
「「変わり者」よね」でござる」

 旅の仲間に肯定される。
 私から見たら、アマンダもコタロウも変わり者すぎるし、なんだったら私のほうがまともなんですけどー。

 腕を組んで難しい顔をしてるガルドは、なるほどなと呟くと顔を上げてきた。

「いや、シンシア姫が目覚めた時に話し相手が居ないと寂しがる。
 それに、もう直ぐシンシア姫の誕生日が近いんだ、珍しい料理もでると聞く。
 もう少し居てくれないか?」

 珍しい料理!?
 この場合って珍しいイコール和食よね! 食べたい、食べたい、食べたい、食べたい……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。

しげむろ ゆうき
恋愛
 男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない  そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった 全五話 ※ホラー無し

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

【完結】公爵令嬢はただ静かにお茶が飲みたい

珊瑚
恋愛
穏やかな午後の中庭。 美味しいお茶とお菓子を堪能しながら他の令嬢や夫人たちと談笑していたシルヴィア。 そこに乱入してきたのはーー

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない

おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。 どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに! あれ、でも意外と悪くないかも! 断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。 ※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)

至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます

下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

処理中です...