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82 婚約相手の王女様とお知り合いになりました

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 御顔を上げてください。
 そう言われたのは、王宮について謁見の間での事。
 
 王宮につくなり謁見の間に連れて行かれて女王と顔合わせなんて聞いていない。
 せめて、お色直しぐらいさせてよ、ここまで連れて来たガルドに申し込むも、鼻で笑われた。

 解せぬ。

「もう一度お願いします。御顔を上げてください」
「は、はいっ!」

 考え事をしていて、反応が遅れた。
 白い肌がまぶしい妙齢の女性が台座の上から微笑んでいる。
 年齢は三十中盤にみえるけど、そんなわけはないわね。

「パトラと申します」
「…………エ、エルン・カミュラーヌと申します。此度グラン国のヘルン王子から預かり品を運んできました」
「はい、聞き及んでます。娘のために申し訳ありませんね」
「い、いえ!」

 バン!

 と、背後の扉が開く音が聞こえた。
 本来、女王様と会話中に後ろを振り向く事は許されないけど、隣にいるコタロウが亜人でござるよ! と言うので思わず振り向いてしまった。

 頭に小さな猫耳をつけた少女が私たちをみている。
 子供?

「貴女がヘルンさまから贈り物を届けてくれた人よね! ありがとう!」
「はぁ……」

 私の横にまで走ってくると、ねーねーその贈り物ってどこにあるの? と聞いてくる。

「どこって」

 私は手荷物のトランクを見せる。
 早く早くっ! とせかんで来るけど話が見えないし、勝手には渡せない。

「ええっと……」

 困っているとパトラ女王の声が聞こえた。
 
「娘のシンシアです。これシンシア……」
「だってー、ヘルンさまが贈ってくれた物を早くみたいー」

 え、娘って亜人? 耳があるし。
 私が耳に注目をしていると、小さなふんぞりをして嬉しそうな顔を向けてくる。

「えへん! 凄いでしょ。せんぞ返りって言うんだって。ヘルンさまは私の姿を見ても可愛いって言ってくれるんだよ」
「確かに可愛いかも」
「本当!?」

 隣から、王子の婚約者とはこんな小さい子でござるか、外道でロリコン……許すまじと、呪詛のような呟きが聞こえるけど無視。
 私は頼まれていた小さな箱を取り出す。

「どうぞ」
「ありがとう! ええっと…………ごめんなさい、お名前聞いてなかった」
「エルン・カミュラーヌですわ」
「あ、おねーさんがエルンさま!? それじゃ、こっちの騎士の人がアマンダさま。シンシアって言うのよろしくね。お母様、開けていい? 開けていい?」

 嬉しそうな声が聞こえて私も思わずうれしくなる。

「部屋に戻ってからにしなさい、まずはエルンさんたちにお礼を」
「エルンさま、アマンダさま、ありがとう! ええっと……」

 お礼を言われた私とアマンダは小さく微笑む。
 唯一名前を知らないコタロウを見てシンシアが困った顔になってきた。

「コタロウでござる。エルン殿がどうしても、どうしてもと言うから着いてきたでござるよ」
「わー優しいんだね、ありがとうコタロウさん」


 叩きたい。
 何だったら殴りたい。

 パトラ女王が微笑むと、私たち案内してくれたガルドが女王! と叫んだ。

「これでグラン国のヘルン王子の個人的な贈り物の義を終えたい、よろしいか?」
「はい、よしなに」

 何か少し悲しげな声だ。

「では、祝義会を終わる。女王の計らいにより城での宿泊を許可する」


 最後まで偉そうな人ね。
 私達三人は、ガルドにつれられて謁見の間を後にする。
 城から一度出て中庭を抜けた先にある別邸につれられた。

 二階建ての建物で丁度私の家と同じぐらいの大きさだろうか。

「各要人が泊まるゲストルームだ」
「立派な建物ねー。で、何日いていいの?」
「好きなだけいろ、グラン王国に戻って、この国ではゲストを追い出すと言われたら適わないからな」
「そんな事言わないんですけどー!」


 そもそも、なんだこの偉そうな男は、女王に対してもそうだけど、こっちは客人よ。

「随分と口の聞き方が横暴じゃないですかねー、そういえば私が町に来たのよくわかったわね」
「当たり前だ、門兵からグラン王国からの使者が来たと伝えが走った。その使者は真っ直ぐ城に来るかと思えば飲食店に入ったまでな。
 ガーランド国を馬鹿にしている使者の顔を見に行ったら直ぐわかった。
 噂通りの悪人顔をしているからな」


 ……………………。

 ななななな、酷くない! 別に悪人面に好きで生まれた、もとい転生したわけじゃないし。これでも美人系の顔よ! この顔に誇りすらあるんだから。

「あなたこそ、親衛隊隊長だかなんだか知らないけど随分とえら――――」
「ガルドお兄さまー!」

 シンシアが走ってくるのが見えた。
 ぴょこぴょこと走ってくるのが、猫のようで可愛い。
 あ、転んだ。

 立ち上がった! お、おう、泣くのを我慢してる。
 走ってきた。

「まったく…………シンシア様。何度も言うがここでは兄ではなくガルド隊長と」
「え!? 兄なの? ってことは王子……これは大変失礼しました」

 他国とは言え王子だったら口の聞き方も気をつけなればならない。
 ガルドがギロと私を睨む。

「元第二夫人の子だ、王位継承権は既に無い。いまさら取りつくろうな、気持ち悪い」
「気持ち悪いって……酷いんですけどー!」

 えるんちゃんは、素が面白いにゃとアマンダの声が聞こえてくる。
 嬉しいんだけど、複雑な気分。
 
 にしても第二夫人とか、王位継承権が無いとか色々複雑な事情があるんだろう。
 そういうのは、聞かないほうが一番よ。

「エルンさま、午後はお暇ですか? ご予定がなければヘルンさまのお話を聞かせてほしいんです!」
「シンシア様、他国の客人に迷惑をかけるような事――」
「何も迷惑じゃないわよー。ってもそんなに知っている話ないけどいい? あっアマンダのほうが知ってるかも知れない」

 私が振り向くと、アマンダは腕を組んで考え出している。

「にゃー……とは言ってもねぇ」
「そうだ、エレンさまとヘルンさまの出会い聞いてみたいです!」
「私?」
「はい、顔は怖く成績も良くないけど面白いれんきんじゅつしがいるって聞いたんです。
 会って見たいといった所、今度あわせてあげようって。
 かのじょなら、シンシアの姿を見ても驚きはしても、嫌な顔はしないだろうって、ヘルンさまの言ったとおりでした!」

 なんだろ、所々ひっかかる紹介の仕方だ。

「シンシア姫は、その姿亜人なため人の気持ちに敏感だ。
 俺以外のいい人間と悪い人間を見分ける」
「ガルトお兄さまは口でシンシアを嫌ってますけど、大事にしてくれます!」
「本心から嫌っている!」

 ガルドの顔は不機嫌になっているが、シンシア姫はガルドのお腹に手を回してくっついている。
 跳ね除けないし、何だったらシンシアの背中を優しく包み込んでる。
 超照れ隠しよねこれ。

「へぇ…………嫌っているんだ」
「何が言いたそうだなエレン・カミュラーヌ」
「別にー」 


 
 ガルドお兄さまの匂いすきーとシンシアは嬉しそうだ。
 ん? 私の斜め後ろにいるコタロウよ、手を広げてハグを待っているけど彼方……臭いでしょうに。
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