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79 人間とは醜いものである(コテツ談

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 し、死んだかと思った! とはいえ死にそうになっているのを確認できた。
 両腕が千切れそうに痛い。
 足はぶらぶら。
 どうやら地面が崩れたようだ、コテツが穴に落ちそうな私の手を取ってくれて、私はもう片方の手でカトリーヌの服を掴んでいた。

「離すんじゃないぞ!」

 腹ばい、もしくはうつ伏せ? のコテツが必死に叫んできた。

「それはどっちの手かしら……」

 痛い痛い痛い痛い、激痛に耐えながら上品な冗談を言う、もちろん顔には笑みをたやさ……あ、ごめんやっぱ痛い。

 私の手を握っているコテツが、
「下らん冗談はよせ。どっちもだ」
 と言う。

 普通だったら、獣人によって引っ張られているから直ぐに助かると思うじゃない? そう成らないのは、コテツの左手にはミックの上着を掴んでいるからだ。
 どうやらさっきの地震で、上のフロアも崩れたっぽい。
 あの瞬間に同時に手を握ったのだから関心する。

「たたたたすけてくれえええええ」
「俺の腕力じゃ現状維持が背一杯だ」
「あ、亜人の癖に肝心な時にっ! カミュラーヌ家の問題児! お前が落ちればこっちは助かる!」

 酷い事言われているのにコテツは、苦しそうな顔で謝ろうとしている。

「すま――」
「馬鹿! 謝らなくていいわよ。大人二人に子供一人分支えてるだけで凄いんだからっ!
 それに、私は絶対に落ちないわよ。それこそ……落ちろとは言わないけど先に落ちそうなのはあんたじゃない………………デブだし」

 現に赤い顔をして必死にしがみ付いている。

「馬鹿いうな! カミュラーヌ家の問題児め。インフィ家の当主だぞ。
 お前が落ちたら口止め……いや護衛料も払わなくてすむ!」
「当主だったら、ジャン君になってもらえばいいじゃない、彼なら獣人と人上手く付き合えるわよ。カトリーヌとジャン君って両思いで付き合ってるんでしょ?」

 それまで騒いでいたミックの声が止まった。
 あれ? 私何かまずい事言った?

 コテツより上の階にいるジャン君の慌てた声がした。

「エ、エエルンおねーさんっ。僕はまだその付き合うとか好きとか、そ、そうだ人呼んで来ます!」

 小さい足音が遠ざかる。
 急に勝ち誇った声が隣から聞こえた。

「ほ、ほらみろエルン嬢よ。ジャンは別に亜人なんか好きじゃないらしいぞ」
「え、でも。こんな洞窟に二人っきりで遊ぶってそうじゃないの? 町じゃ人目に付くから隠れていたんじゃ?」
「ば、ばか者! そんなわけ、そんなわけが……」
「だから、落ちて。ちょっと両手両足骨折するぐらいよ」

 私は語尾にハートをつけてお願いする。
 なに、下をみればざっと……あ、思ったより高いわね。

「悪魔がお前はっ!」
「友人からは天使のようって言われているわよ!」

 もちろんナナだけである。

「ふ、二人とも元気があるなら俺の腕を伝って登ってくれ」
「「無理」」

 コテツの顔が険しくなっていく、限界が近いのかもしれない。

「そもそも、カトリーヌを支えてるから片腕だし」
「こ、こっちも木登りさえできんのだ!」

 使えない大人だ。

「カミュラーヌ家の問題児よ! お前まさか、このミック・インフィを使えない男と思った顔しなかったかっ!?」
「べつにー」
「だったら、お前はどうなんだ、噂では錬金術師になったんだろ?
 もっとも、金で資格だけ買ったらしいがな」
「まだ、見習いでーすー。金で買えるならもう買ってるわよ!」

 リーヌ……。
 先…………俺も…………。

 ん? ブツブツと何か聞こえてきた。
 ミックも聞こえたのか、口を閉じて声のするほう、すなわち真上を見る。

「腕が限界だ。カトリーヌ、お前だけを先に死なせない。
 この手のどちらも離す事が出来ないなら、俺も一緒に落ちよう」


 ちょ。

「まったまった! そうそうよカトリーヌに起きて貰えばいいのよ!」
「それだ問題児! さっさと亜人の娘を起せ」

 私は必死にカトリーヌをぶらぶらさせる。
 もちろん声かけも欠かさない。
 直ぐに上から諦めの声が聞こえてくる。

「カトリーヌは生き残るために深い眠りについたのだろう、そうすれば水も食料も暫くは要らない」
「冬眠って奴!? でも、そんな悠長な事いってられないわよ。起きて起きなさいっ!
 あんたの好きなジャン君にも会えなくなるわよっ!」

 握っている手から反応が返ってきた。
 とても力強く、ぱちくりとまぶたが開くと私を見ている。

「ジャンくん…………?」
「あ、起きた。じゃなくて、説明は後!
 直ぐに私の体を伝ってコテツの所まで行って!」
「え、あの、はい」

 しつれいしますと小さく言うと、腕から背中に重みが変わっていく、少しだけ軽くなったと思うと、今度はコテツの腕へとよじ登り、見えなくなる。

「どう、これでどっちが引き上げれるんじゃないの!?」
「そ、そうだ軽くなったんだから貴族であるわたしを引き上げろ!」
「そうしたいのだが……両手を使わないと引き上げるのがきつい」

 横でぶら下がっているミックが大きな声をさらに大きくする。

「嫌がらせか! 散々亜人に対して便利をはかってやったのに、まさかわたしを落とすのかっ!」
「どんな便宜?」
「え。いや、そのなんだ…………夜の警備を任せたりだな、ゴミ回収の死後とを斡旋したり……。おお、そうだ! 剣の練習相手にも任せたぞ」

 うわ…………思わずあいた口が閉じないって奴だ。
 どれもこれも、普通の人間がしたくない仕事ばっかりじゃない、最後の剣の練習ってもどうせ亜人からは反撃できないんでしょ。

「コテツ、私が許す。落とそう、ちょっと全身骨折ぐらいよ」
「まて、なんでも、なんでもするから助けてくれ!」
「じゃぁ、少しは亜人に対して良くする事ね」

 上のほうからコテツの、別に待遇改善しなくても助けるつもりだがと、聞こえるけど無視無視。

「わかった、約束するだからな?」

 私の目の前にロープが垂れ下がってきた。
 見ると、ミックのほうにもロープが垂れ下がってきている。

「やっほー、助けにきたにゃー」
「アマンダっ! ナイス」
「拙者が男のほうを救出するだなんて不平でござる、拙者もエルン殿を助けて『きゃーありがとうコタロウ、いつもみたいに、お礼にはいてる下着あげるね』って言われたかったでござる」

 ミックが驚きの声で、いつも? カミュラーヌ家の問題児は変態だったのか……と呟いてるけど、違うから! 変態なのはアイツ、コタロウだけだから!

 何はともあれ、私はロープを掴む。
 今度こそ本当に助かった。
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