82 / 209
79 人間とは醜いものである(コテツ談
しおりを挟む
し、死んだかと思った! とはいえ死にそうになっているのを確認できた。
両腕が千切れそうに痛い。
足はぶらぶら。
どうやら地面が崩れたようだ、コテツが穴に落ちそうな私の手を取ってくれて、私はもう片方の手でカトリーヌの服を掴んでいた。
「離すんじゃないぞ!」
腹ばい、もしくはうつ伏せ? のコテツが必死に叫んできた。
「それはどっちの手かしら……」
痛い痛い痛い痛い、激痛に耐えながら上品な冗談を言う、もちろん顔には笑みをたやさ……あ、ごめんやっぱ痛い。
私の手を握っているコテツが、
「下らん冗談はよせ。どっちもだ」
と言う。
普通だったら、獣人によって引っ張られているから直ぐに助かると思うじゃない? そう成らないのは、コテツの左手にはミックの上着を掴んでいるからだ。
どうやらさっきの地震で、上のフロアも崩れたっぽい。
あの瞬間に同時に手を握ったのだから関心する。
「たたたたすけてくれえええええ」
「俺の腕力じゃ現状維持が背一杯だ」
「あ、亜人の癖に肝心な時にっ! カミュラーヌ家の問題児! お前が落ちればこっちは助かる!」
酷い事言われているのにコテツは、苦しそうな顔で謝ろうとしている。
「すま――」
「馬鹿! 謝らなくていいわよ。大人二人に子供一人分支えてるだけで凄いんだからっ!
それに、私は絶対に落ちないわよ。それこそ……落ちろとは言わないけど先に落ちそうなのはあんたじゃない………………デブだし」
現に赤い顔をして必死にしがみ付いている。
「馬鹿いうな! カミュラーヌ家の問題児め。インフィ家の当主だぞ。
お前が落ちたら口止め……いや護衛料も払わなくてすむ!」
「当主だったら、ジャン君になってもらえばいいじゃない、彼なら獣人と人上手く付き合えるわよ。カトリーヌとジャン君って両思いで付き合ってるんでしょ?」
それまで騒いでいたミックの声が止まった。
あれ? 私何かまずい事言った?
コテツより上の階にいるジャン君の慌てた声がした。
「エ、エエルンおねーさんっ。僕はまだその付き合うとか好きとか、そ、そうだ人呼んで来ます!」
小さい足音が遠ざかる。
急に勝ち誇った声が隣から聞こえた。
「ほ、ほらみろエルン嬢よ。ジャンは別に亜人なんか好きじゃないらしいぞ」
「え、でも。こんな洞窟に二人っきりで遊ぶってそうじゃないの? 町じゃ人目に付くから隠れていたんじゃ?」
「ば、ばか者! そんなわけ、そんなわけが……」
「だから、落ちて。ちょっと両手両足骨折するぐらいよ」
私は語尾にハートをつけてお願いする。
なに、下をみればざっと……あ、思ったより高いわね。
「悪魔がお前はっ!」
「友人からは天使のようって言われているわよ!」
もちろんナナだけである。
「ふ、二人とも元気があるなら俺の腕を伝って登ってくれ」
「「無理」」
コテツの顔が険しくなっていく、限界が近いのかもしれない。
「そもそも、カトリーヌを支えてるから片腕だし」
「こ、こっちも木登りさえできんのだ!」
使えない大人だ。
「カミュラーヌ家の問題児よ! お前まさか、このミック・インフィを使えない男と思った顔しなかったかっ!?」
「べつにー」
「だったら、お前はどうなんだ、噂では錬金術師になったんだろ?
もっとも、金で資格だけ買ったらしいがな」
「まだ、見習いでーすー。金で買えるならもう買ってるわよ!」
リーヌ……。
先…………俺も…………。
ん? ブツブツと何か聞こえてきた。
ミックも聞こえたのか、口を閉じて声のするほう、すなわち真上を見る。
「腕が限界だ。カトリーヌ、お前だけを先に死なせない。
この手のどちらも離す事が出来ないなら、俺も一緒に落ちよう」
ちょ。
「まったまった! そうそうよカトリーヌに起きて貰えばいいのよ!」
「それだ問題児! さっさと亜人の娘を起せ」
私は必死にカトリーヌをぶらぶらさせる。
もちろん声かけも欠かさない。
直ぐに上から諦めの声が聞こえてくる。
「カトリーヌは生き残るために深い眠りについたのだろう、そうすれば水も食料も暫くは要らない」
「冬眠って奴!? でも、そんな悠長な事いってられないわよ。起きて起きなさいっ!
あんたの好きなジャン君にも会えなくなるわよっ!」
握っている手から反応が返ってきた。
とても力強く、ぱちくりとまぶたが開くと私を見ている。
「ジャンくん…………?」
「あ、起きた。じゃなくて、説明は後!
直ぐに私の体を伝ってコテツの所まで行って!」
「え、あの、はい」
しつれいしますと小さく言うと、腕から背中に重みが変わっていく、少しだけ軽くなったと思うと、今度はコテツの腕へとよじ登り、見えなくなる。
「どう、これでどっちが引き上げれるんじゃないの!?」
「そ、そうだ軽くなったんだから貴族であるわたしを引き上げろ!」
「そうしたいのだが……両手を使わないと引き上げるのがきつい」
横でぶら下がっているミックが大きな声をさらに大きくする。
「嫌がらせか! 散々亜人に対して便利をはかってやったのに、まさかわたしを落とすのかっ!」
「どんな便宜?」
「え。いや、そのなんだ…………夜の警備を任せたりだな、ゴミ回収の死後とを斡旋したり……。おお、そうだ! 剣の練習相手にも任せたぞ」
うわ…………思わずあいた口が閉じないって奴だ。
どれもこれも、普通の人間がしたくない仕事ばっかりじゃない、最後の剣の練習ってもどうせ亜人からは反撃できないんでしょ。
「コテツ、私が許す。落とそう、ちょっと全身骨折ぐらいよ」
「まて、なんでも、なんでもするから助けてくれ!」
「じゃぁ、少しは亜人に対して良くする事ね」
上のほうからコテツの、別に待遇改善しなくても助けるつもりだがと、聞こえるけど無視無視。
「わかった、約束するだからな?」
私の目の前にロープが垂れ下がってきた。
見ると、ミックのほうにもロープが垂れ下がってきている。
「やっほー、助けにきたにゃー」
「アマンダっ! ナイス」
「拙者が男のほうを救出するだなんて不平でござる、拙者もエルン殿を助けて『きゃーありがとうコタロウ、いつもみたいに、お礼にはいてる下着あげるね』って言われたかったでござる」
ミックが驚きの声で、いつも? カミュラーヌ家の問題児は変態だったのか……と呟いてるけど、違うから! 変態なのはアイツ、コタロウだけだから!
何はともあれ、私はロープを掴む。
今度こそ本当に助かった。
両腕が千切れそうに痛い。
足はぶらぶら。
どうやら地面が崩れたようだ、コテツが穴に落ちそうな私の手を取ってくれて、私はもう片方の手でカトリーヌの服を掴んでいた。
「離すんじゃないぞ!」
腹ばい、もしくはうつ伏せ? のコテツが必死に叫んできた。
「それはどっちの手かしら……」
痛い痛い痛い痛い、激痛に耐えながら上品な冗談を言う、もちろん顔には笑みをたやさ……あ、ごめんやっぱ痛い。
私の手を握っているコテツが、
「下らん冗談はよせ。どっちもだ」
と言う。
普通だったら、獣人によって引っ張られているから直ぐに助かると思うじゃない? そう成らないのは、コテツの左手にはミックの上着を掴んでいるからだ。
どうやらさっきの地震で、上のフロアも崩れたっぽい。
あの瞬間に同時に手を握ったのだから関心する。
「たたたたすけてくれえええええ」
「俺の腕力じゃ現状維持が背一杯だ」
「あ、亜人の癖に肝心な時にっ! カミュラーヌ家の問題児! お前が落ちればこっちは助かる!」
酷い事言われているのにコテツは、苦しそうな顔で謝ろうとしている。
「すま――」
「馬鹿! 謝らなくていいわよ。大人二人に子供一人分支えてるだけで凄いんだからっ!
それに、私は絶対に落ちないわよ。それこそ……落ちろとは言わないけど先に落ちそうなのはあんたじゃない………………デブだし」
現に赤い顔をして必死にしがみ付いている。
「馬鹿いうな! カミュラーヌ家の問題児め。インフィ家の当主だぞ。
お前が落ちたら口止め……いや護衛料も払わなくてすむ!」
「当主だったら、ジャン君になってもらえばいいじゃない、彼なら獣人と人上手く付き合えるわよ。カトリーヌとジャン君って両思いで付き合ってるんでしょ?」
それまで騒いでいたミックの声が止まった。
あれ? 私何かまずい事言った?
コテツより上の階にいるジャン君の慌てた声がした。
「エ、エエルンおねーさんっ。僕はまだその付き合うとか好きとか、そ、そうだ人呼んで来ます!」
小さい足音が遠ざかる。
急に勝ち誇った声が隣から聞こえた。
「ほ、ほらみろエルン嬢よ。ジャンは別に亜人なんか好きじゃないらしいぞ」
「え、でも。こんな洞窟に二人っきりで遊ぶってそうじゃないの? 町じゃ人目に付くから隠れていたんじゃ?」
「ば、ばか者! そんなわけ、そんなわけが……」
「だから、落ちて。ちょっと両手両足骨折するぐらいよ」
私は語尾にハートをつけてお願いする。
なに、下をみればざっと……あ、思ったより高いわね。
「悪魔がお前はっ!」
「友人からは天使のようって言われているわよ!」
もちろんナナだけである。
「ふ、二人とも元気があるなら俺の腕を伝って登ってくれ」
「「無理」」
コテツの顔が険しくなっていく、限界が近いのかもしれない。
「そもそも、カトリーヌを支えてるから片腕だし」
「こ、こっちも木登りさえできんのだ!」
使えない大人だ。
「カミュラーヌ家の問題児よ! お前まさか、このミック・インフィを使えない男と思った顔しなかったかっ!?」
「べつにー」
「だったら、お前はどうなんだ、噂では錬金術師になったんだろ?
もっとも、金で資格だけ買ったらしいがな」
「まだ、見習いでーすー。金で買えるならもう買ってるわよ!」
リーヌ……。
先…………俺も…………。
ん? ブツブツと何か聞こえてきた。
ミックも聞こえたのか、口を閉じて声のするほう、すなわち真上を見る。
「腕が限界だ。カトリーヌ、お前だけを先に死なせない。
この手のどちらも離す事が出来ないなら、俺も一緒に落ちよう」
ちょ。
「まったまった! そうそうよカトリーヌに起きて貰えばいいのよ!」
「それだ問題児! さっさと亜人の娘を起せ」
私は必死にカトリーヌをぶらぶらさせる。
もちろん声かけも欠かさない。
直ぐに上から諦めの声が聞こえてくる。
「カトリーヌは生き残るために深い眠りについたのだろう、そうすれば水も食料も暫くは要らない」
「冬眠って奴!? でも、そんな悠長な事いってられないわよ。起きて起きなさいっ!
あんたの好きなジャン君にも会えなくなるわよっ!」
握っている手から反応が返ってきた。
とても力強く、ぱちくりとまぶたが開くと私を見ている。
「ジャンくん…………?」
「あ、起きた。じゃなくて、説明は後!
直ぐに私の体を伝ってコテツの所まで行って!」
「え、あの、はい」
しつれいしますと小さく言うと、腕から背中に重みが変わっていく、少しだけ軽くなったと思うと、今度はコテツの腕へとよじ登り、見えなくなる。
「どう、これでどっちが引き上げれるんじゃないの!?」
「そ、そうだ軽くなったんだから貴族であるわたしを引き上げろ!」
「そうしたいのだが……両手を使わないと引き上げるのがきつい」
横でぶら下がっているミックが大きな声をさらに大きくする。
「嫌がらせか! 散々亜人に対して便利をはかってやったのに、まさかわたしを落とすのかっ!」
「どんな便宜?」
「え。いや、そのなんだ…………夜の警備を任せたりだな、ゴミ回収の死後とを斡旋したり……。おお、そうだ! 剣の練習相手にも任せたぞ」
うわ…………思わずあいた口が閉じないって奴だ。
どれもこれも、普通の人間がしたくない仕事ばっかりじゃない、最後の剣の練習ってもどうせ亜人からは反撃できないんでしょ。
「コテツ、私が許す。落とそう、ちょっと全身骨折ぐらいよ」
「まて、なんでも、なんでもするから助けてくれ!」
「じゃぁ、少しは亜人に対して良くする事ね」
上のほうからコテツの、別に待遇改善しなくても助けるつもりだがと、聞こえるけど無視無視。
「わかった、約束するだからな?」
私の目の前にロープが垂れ下がってきた。
見ると、ミックのほうにもロープが垂れ下がってきている。
「やっほー、助けにきたにゃー」
「アマンダっ! ナイス」
「拙者が男のほうを救出するだなんて不平でござる、拙者もエルン殿を助けて『きゃーありがとうコタロウ、いつもみたいに、お礼にはいてる下着あげるね』って言われたかったでござる」
ミックが驚きの声で、いつも? カミュラーヌ家の問題児は変態だったのか……と呟いてるけど、違うから! 変態なのはアイツ、コタロウだけだから!
何はともあれ、私はロープを掴む。
今度こそ本当に助かった。
0
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
旦那様は離縁をお望みでしょうか
村上かおり
恋愛
ルーベンス子爵家の三女、バーバラはアルトワイス伯爵家の次男であるリカルドと22歳の時に結婚した。
けれど最初の顔合わせの時から、リカルドは不機嫌丸出しで、王都に来てもバーバラを家に一人残して帰ってくる事もなかった。
バーバラは行き遅れと言われていた自分との政略結婚が気に入らないだろうと思いつつも、いずれはリカルドともいい関係を築けるのではないかと待ち続けていたが。
政略結婚で結ばれた夫がメイドばかり優先するので、全部捨てさせてもらいます。
hana
恋愛
政略結婚で結ばれた夫は、いつも私ではなくメイドの彼女を優先する。
明らかに関係を持っているのに「彼女とは何もない」と言い張る夫。
メイドの方は私に「彼と別れて」と言いにくる始末。
もうこんな日々にはうんざりです、全部捨てさせてもらいます。
完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
王妃さまは断罪劇に異議を唱える
土岐ゆうば(金湯叶)
恋愛
パーティー会場の中心で王太子クロードが婚約者のセリーヌに婚約破棄を突きつける。彼の側には愛らしい娘のアンナがいた。
そんな茶番劇のような場面を見て、王妃クラウディアは待ったをかける。
彼女が反対するのは、セリーヌとの婚約破棄ではなく、アンナとの再婚約だったーー。
王族の結婚とは。
王妃と国王の思いや、国王の愛妾や婚外子など。
王宮をとりまく複雑な関係が繰り広げられる。
ある者にとってはゲームの世界、ある者にとっては現実のお話。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様
オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる