グラン王国の錬金術師 if 悪役錬金術師に転生してました!

えん水無月

文字の大きさ
上 下
81 / 209

78.5 同時刻グラン王国での先生と生徒

しおりを挟む
 ボクは自然と溜め息をついており、頭を振った。

 外は既に暗く、ボク自身もあとは点検をして帰るだけ、最終確認で何時もの教員専用の小部屋に居た。

 もう一度溜め息をつく。
 先ほどまで一般科の授業に借り出されて一仕事終えてきたばかりだ。
 にしてもだ。
 若いというのは素晴らしいが、いささか疲れるのはある。

 授業が終わった後に、突然一般科の生徒に囲まれた。

 ディーオ先生ありがとうございましたーや、先生ー恋人いるんですか? しまいには錬金術って儲かるんですか? カミュラーヌ家の御令嬢と付き合ってるって本当ですか? そりゃそうだろう、婚前旅行したって聞いたぜ。騎士科のカインさんが可愛そう……、馬鹿リュートさんのほうだろ、などの質問攻めを追えやっと解放されたのだ。

 代理で入った授業だ、ボクが無闇に怒鳴る事もあるまいと我慢はしていたが、いささか疲れた。


「『何がディーオ君、君の授業は素晴らしいと評判だ。実は一般科の先生が有給でな、代わりにでてくれないか、普通の先生には頼まないが天才である君なら』と上手く校長に騙された気分だな、まぁこれで先日の村での借りを返したと思えば」

 自傷気味にわらうと、コーヒーの用意をする。
 先日、エルン君から手紙とともに贈られた来たカップ、どこにでも売っているようなカップで、ボクとしては使い勝手が良い。

 ドリップ式で湯を入れて待つ。この時間がなんともいえない高揚した気分になる。

「エルン・カミュラーヌか……」

 先日の事件で、ボクとエルン君は結果的には助かった。
 ナナ君が突っ込んで、寄生虫に操られたボクを打ちのめしてくれたからだ。

 ボクが彼女に寄生虫をうつそうとした時、彼女は勘違いから夜這いと思っていたな、それも、拒否することなく。
 まったく若い子の貞操概念は…………。

「いや、ディーオ・クライマー。
 お前もわかっているはずだ、彼女はそんな軽い女性ではないと、では何故。
 ふ、とうとう天才であるボクも馬鹿な事を考え出したか、今は彼女はガーランドへ行った所か、騒がしいのが居なくて清々するな」


 出来立てのコーヒーを一口飲む。
 自然にでた息とともにカップを置くと、同時に扉がノックされた。

 珍しい事もあるものだ、この部屋に来る人間はノックもしないで突撃してくる人間ばっかりであるが、どれ一般科の生徒だろうか。

「開いている、どうぞ」
「失礼します」

 顔をあげて声の主を見た。

「珍しいな、ナナ君か」

 肩には黒いカラスを乗せて、どこぞの錬金術師見習いを思い出す。
 ボクの視線に気づいたカラスがカァーと大きく鳴く。

「可愛いですよね! エルンさんからの預かり精霊ちゃんでして、カー助君って言うんですよ」
「知っ――」
「あんまり構うと、家でのくまたんの機嫌が悪くなんですけど……。
 一日交代でエルンさんの家と、今はエルンさんが居ないのでナナさんが住んでいるんですけど、とにかく私の家とエルンさんの家をカー助君は行き来きしてるんですよ」
「ほう、で何の――」
「もうエルンさんは新しい大陸に言ったでしょうか……、そう先日手紙が来たんですよ!
 小さい箱もあって何が入っていたと思います?」
「別に他人の手紙に興味はな――」
「小さな石けんで、とてもいい匂いがするんですよ。勿体無くて使えないですけど、エルンさんが同じ石けんを使ったすれば、これってもう私も使えばエルンさんと繋がったって良いんですかね、エルンさ――」
「少しはおち――」

 ――。

 ――――――。

「――――ルンさんって何時帰ってくるんでしょうか? 今度は私も行きたいんです……」

 ボクは手を二回ほど叩く。
 それまでエルン、エルンと喋っていたナナ君がびっくりして口元に手をあてた。

「す、すみません煩かったですよね」

 やっと喋り終わったか……。
 よくもまぁここまで彼女の事を話せるものだ。

「心配なのはわかるが、別の用件があるのだろう。なんだ」
「はい、実は魔物と動物の違いってなんなんでしょうか?」

 ほう、面白い。
 以前、食べ物が無くなれば魔物を食べればいいじゃないと突然言い出した知人を思い出す。

「外見的でいえば差はないのが多いな」

 ダブルベアーも頭が二つあるだけの熊。
 二つの兎も角の生えただけの兎だ。

「もちろん例外もあるが、基本は核だな。
 核には魔力がこめられており、その生物の力以上の物が出るのが多い。
 時には魔法も使い、我々人間を翻弄する。
 グラン王国では、数はすくないが亜人と呼ばれる種族が恐れられているのは、そういう傾向もある。
 彼らは核はないが人並み以上の力を持つものが多いからな、例外に当たるのではと畏怖されているが、ボクが出会った亜人は姿が少し違うが人とかわらんよ。
 その肩に乗っている精霊も、精霊という核があるだろう、大きく別ければ魔物という事だ」

 もう一つ、魔物の発生源も不透明なのは、まだ黙っておこう。
 あまり情報量を伝えても混乱する。

「え、それじゃ幽霊とかにもあるんですかっ!」
「人間の眼には見得ないが、あるとは言われている」
「ありがとうございます。これでまた、よりいい錬金術師になります!」

 成れるようにがんばります! ではなく、なります! と言うのがナナ君らしい。
 その心意気だと、褒めようか迷っていると、突然ピシッと音がなった。
 エルン君から貰った安そうなカップが二つに割れた。

 カァーと、カー助という黒カラスの精霊が一際大きな声で鳴く。

「ディーオ先生っ、カップが突然」

 ナナ君は慌てて掃除するものを探している、自然に割れた? それにしては綺麗に二つだ。
 不吉な事を思ってしまったが、一度首を振る、直ぐにナナ君へと顔を向けることにした。

「温度差がありすぎたのだろう、さて掃除は自分でする。
 夜も遅い、念のため気をつけて帰りなさい」
「はぁ……」

 納得行かない顔のナナ君を追い出し、ボクは割れたカップを布に包んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一番悪いのは誰

jun
恋愛
結婚式翌日から屋敷に帰れなかったファビオ。 ようやく帰れたのは三か月後。 愛する妻のローラにやっと会えると早る気持ちを抑えて家路を急いだ。 出迎えないローラを探そうとすると、執事が言った、 「ローラ様は先日亡くなられました」と。 何故ローラは死んだのは、帰れなかったファビオのせいなのか、それとも・・・

働かなくていいなんて最高!貴族夫人の自由気ままな生活

ゆる
恋愛
前世では、仕事に追われる日々を送り、恋愛とは無縁のまま亡くなった私。 「今度こそ、のんびり優雅に暮らしたい!」 そう願って転生した先は、なんと貴族令嬢! そして迎えた結婚式――そこで前世の記憶が蘇る。 「ちょっと待って、前世で恋人もできなかった私が結婚!?!??」 しかも相手は名門貴族の旦那様。 「君は何もしなくていい。すべて自由に過ごせばいい」と言われ、夢の“働かなくていい貴族夫人ライフ”を満喫するつもりだったのに――。 ◆メイドの待遇改善を提案したら、旦那様が即採用! ◆夫の仕事を手伝ったら、持ち前の簿記と珠算スキルで屋敷の経理が超効率化! ◆商人たちに簿記を教えていたら、商業界で話題になりギルドの顧問に!? 「あれ? なんで私、働いてるの!?!??」 そんな中、旦那様から突然の告白―― 「実は、君を妻にしたのは政略結婚のためではない。ずっと、君を想い続けていた」 えっ、旦那様、まさかの溺愛系でした!? 「自由を与えることでそばにいてもらう」つもりだった旦那様と、 「働かない貴族夫人」になりたかったはずの私。 お互いの本当の気持ちに気づいたとき、 気づけば 最強夫婦 になっていました――! のんびり暮らすつもりが、商業界のキーパーソンになってしまった貴族夫人の、成長と溺愛の物語!

冤罪から逃れるために全てを捨てた。

四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

アイアイ
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

処理中です...