上 下
80 / 209

78 闇の中にうごめく赤い目

しおりを挟む
 数体いる土ぽよぽよを木の棒でなぐるジャン君。
 子供の力では核に届いてなくて、その木の棒は跳ね返る。

「ジャン貸しなさいっ!」

 ミックがジャンから木の棒を奪うと槍の様に土ぽよに突き刺した。
 中に見える核が破壊されて一体の土ぽよが液体となり崩れる。

「父上、カトリーヌが!」

 私も、確認できた。
 大量の土ぽよの向こう側に、小さい子がぐったりと壁に寄りかかっている。
 頭の上に大きな獣耳がついているのがみえるので、問題のカトリーヌね。

「くう、数が多い。ジャン、亜人は諦めろ」
「馬鹿、ここまで来て諦めろってトラウマ残るわよ」
「馬鹿とはなんだ馬鹿とは! ろくに戦いもせずに口だけの女がっ!」
「えー、こんな無力な女に戦わせる気!?」

 悪態はついたけど、戦力外なのは自分でも形見が狭い。
 何か武器は無いものか……。

 腰につけている貴重品ポーチには、お金の他には――。

 本物か未定の賢者の石。
 テラボムLV3。
 呪いの藁人形いや、身代わり君。

 うん、どれも使えない。
 こんなんだったらカイン辺りに剣術でも習えばよかった。
 いや、まてよ? 核を壊せばいいんだし、私は辺りを見回して何か無いかを探す。
 
 バールのようなものが落ちていた。

 何故ここにあったのか、なぜバールではなくバールのようなものなのか全部このさいは置いておこう。
 ってか、良く見ると壁際に他にも木箱や工具類が入ったのが見えた。

「おお、庶民の女! いい武器じゃないか。洞窟発掘の時の資材だろう」
「なるほど」

 私はミックの横にいる土ぽよぽよの核目掛けて、バールのようなものをフルスイングする。核が外に飛び出しながら粉々に砕けた。

「庶民の女はやはり教養がないな」

 これでも貴族なんですけどー! と叫びたいけど、面倒になるから辞めておこう。
 別にお知り合いになりたいわけじゃないしー。

「ってか数多くない?」

 三人体制で土ぽよぽよを殲滅しているけど、倒しても倒してもきりがない。

「ダンジョンとはそんなもんだ」
「納得いかないけど、これじゃ、あそこで倒れている子助けれないんだけど」
「ちちうえ! 僕がいきます」

 え、ちょっと待ってと呼び止める前にジャン君が走った。
 土ぽよぽよを、上手くすり抜けて女の子の横にたどり着いた。直ぐに……あっ触ろうか迷って赤い顔で胸を触ったわね。
 呼吸しているのを確認したんだろうけど、その行為を見ていると尊い。
 私にもあんな時期が…………あんな時期が…………。

「おっとっ」

 考えことをしていたら土ぽよぽよが近くに寄ってきてた。
 バールのような物をフルスイングで核を打ち抜く。

 私達に恐れをなくしてか、土ぽよぽよの群れが洞窟の奥へと消えていった。

「終わったのか……?」
「どうかしら。それよりも、二人を安全な場所に」

 ジャン君とカトリーヌに辺りを警戒しながら、かけ寄る。ジャン君は怪我は見当たらないけど、カトリーヌのほうは、衣服が少し解けている。
 頭の先端に大きな獣耳がついているのが可愛らしい。

 私達が一息ついていると、洞窟の奥から何かの音が聞こえてきた。

 ザッ。

 ザッザッ。

 ザッザッザッ。

「ねぇ何か音が早くなっているんだけど」
「やはり、そう思うか……。くっ新たな魔物の可能性が高い逃げるぞ!」

 私は倒れているカトリーヌを背負い、ミックはジャン君を抱きかかえる。
 今来た道を全力で走ると、後ろの音も走る音に切り替わった。
 音の大きさから言って、小さくは無い。

 ロープが垂れ下がっているのが見える、ミックはジャン君を先に登らせ、ジャン君が上の階に着いたのを確認して登り始めた。

「庶民の女! お前も早く登るんだ」
「当然!」

 あれ……ちょっと待て私。
 私の背中には静かな呼吸で瞳を閉じているカトリーヌを背負っている。
 目の前には垂れ下がったロープ。
 手は使えない。

「ちょっと、どうやって登るのよ!」
「ちちうえ、僕がもう一度下に――」
「馬鹿者、魔物に追いつかれ――」

 二人の叫びと同時に私の肩に、手のような感触が置かれた。
 手に持っていたバールのような物を、不安定ながら振り回すと弾き飛ばされた。

 終わった。

 私は目を閉じて黙祷をする。

 私の人生終わったわ、綺麗で上品なエルン・カミュラーヌは、魔物に食われて終わるのね。そうよ、どうせ死ぬならテラボムを爆発させて一矢報いてからってのもあるわね。

「何をそんなに走っているがわからんが、助かった礼を言う。しかし鉄の棒が当たりそうだったで吹き飛ばした、剣術に憧れるのは悪くは無いが、もっと周りを見て振り回したほうがいいだろう」

 はい? 聞きなれた声がして目を開けた。
 獣人のコテツが私をみている。

「魔物は?」
「魔物? 土ぽよぽよと、洞窟こうもり、白オオトカゲなら遭遇したが全て倒したが……。まさか、スケルトン級の魔物が沸いたのか!?」
「いやいや」
「コテツおじさん!」

 上からジャン君が叫ぶと、コテツも上を向いて手を上げた。
 あーそうね、そうなのね。

「別の穴から入り娘を探していたら、突然土ぽよぽよの群れが現れてな。
 それを排除したら、お前達がカトリーヌを背負っているのが遠目に見えて走ってきた」
「ですよねー、たっく声ぐらい出しなさいよ」
「すまなかった、つい嬉しくてな。領主よ!」

 コテツは穴を見上げてミックを見上げると方膝を付いた。

「此度、あれほど依頼しても聞かなかった娘の捜索を、自ら探してくれた事に大変感謝する」
「お、おう。よきにはからえ。庶民の女よ、ジャンの護衛ご苦労であった、後で依頼金を渡そう」

 なるほど。
 ようは、いらん事は金をやるから黙ってろって事ね。

「エルン・カミュラーヌ、しっかりとお請けしましたわ」
「エルン・カミュラーヌ……? カミュラーヌ……まさかっグラン王国のカミュラーヌ家の問題娘か!?」
「問題かどうかしりませんけど、カミュラーヌ家のエルンと申します、挨拶が後れて申し訳ありませんでしたわ、ミック・インフィ様」

 ミックの顔が青ざめているけど、そんなのは知らない。
 ただ、金で解決するつもりならこっちだって名のるわよ。
 貴族の口は高いんだからね。

 何はともあれ無事解決した。
 ホッとした瞬間目眩が襲った、いや、目眩ではなく小さな振動から始まった地震が私達を襲った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

【完結】公爵令嬢はただ静かにお茶が飲みたい

珊瑚
恋愛
穏やかな午後の中庭。 美味しいお茶とお菓子を堪能しながら他の令嬢や夫人たちと談笑していたシルヴィア。 そこに乱入してきたのはーー

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない

おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。 どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに! あれ、でも意外と悪くないかも! 断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。 ※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」    そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。  人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。  正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。  人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。  再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。  デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。  確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。 ––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––  他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。  前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。  彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。  

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)

至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます

下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。

処理中です...