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66 ビックマザー

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 にゃははーと、猫みたいな語尾をつけるのはアマンダさん。
 年齢は前作組の人なので三十ちょい手前ぐらい。
 褐色肌かっしょくはだで癖っけの銀髪、黙っていれば綺麗な人なんだけど……。

 実際、謁見の儀式の時に見た姿は格好良かった。
 でも、今横に歩き私の腕を組んでくるのは、想像も出来ない姿である。


「えるんちゃーん。もう一本なくなっちゃったーにゃはは」
「アマンダさん、それ何本目!」

 空になった酒瓶を背中の鞄へ押し込むと、新しい酒瓶のフタを開け始めた。

「あまんだでいいわよおー。っていうか、貴族でもないしー。オフの時はこんなものよー」

 ようは貴族じゃないから無礼講で結構って意味だ。

「でも、ヘルン王子の側近なんですよね? それにその言葉、最初はもっとリンとした声だったはずなに……」
「にゃはーこっちが素うですぅ……出そうと思えば出せるけどぉ。ですます調になるしー疲れちゃう」


 私も腕を組んで考えた。
 護衛騎士として、ですます口調でこられても、こっちも疲れるわよね。
 それにしても、それでよく王の謁見のなどで命令だせたわよね。

「わかりました。素でいいです。私も楽しい旅にしたいし」
「にゃはは一応公務」
「…………楽しい旅にしたいですし」
「じゃ、呼び捨てで。それよりえるんちゃん! あの子振ってる子いるよ」

 私の腕を強引に引っ張る。
 顔を向けると、馬車屋の前にナナとノエが手を振って待っている。
 ノエは呼んだんだけど、ナナも見送りに来てくれたのね。嬉しい限りだ。
 私も大きく手を振ると、アマンダがなぜかニヤ付いた顔で私を見る。

「何か?」
「ううん、錬金術師ナナには、目つきの悪いお母さんがいるって噂知ってる?」

 だれだろ? ナナの両親は居ないって言っていたし……。

「じゃぁ馬車の手続きするから、いってらっしゃいお母さん・・・・


 背中をバンと叩かれて一歩よろめく。
 え、お母さんって私の事!? まだ十七なんですけどっ!
 ナナが走ってくると、頬を膨らせて不機嫌だ。
 あ、もしかして私だけが旅行いくので拗ねてるのかしら?

「ちゃんとお土産買うからそんな顔しないのっ」
「お土産ですか……? 別にエルンさんが無事に帰ってくれれば……あっもしかして、拗ねてると思ってました!?」
「え、違うのっ!?」
「ちがいます、その、あの人がエルンさんが転ぶほど叩いたのでつい」


 あの人とはアマンダの事ね。
 背後で馬車店の人と何かを話している。酒を飲みながら……。


「転んではいないし、いい人よ……たぶん。で、わざわざ見送りに来てくれたの?」
「もちろんです、これを」


 ナナは小さい藁人形を取り出した。
 これから呪いにでも行くのだろうか、いや違うわよね。

「身代わり君です! 身につけていると、持っている人が物理的に死にそうになると一度だけ助けてくれます!」
「えっ。これって凄いアイテムなんじゃないの!?」

 噂には聞いていたアイテムだ。
 世界中の金持ちが欲しがってやまないアイテムがここにある。
 だって物理限定であるらしいけど死にそうになったら、身代わりになるのよ。
 でも、この手のアイテムって持っている本人が頭潰されたらどうなるんだろう……いや、深くは考えないほうがいいわね。

「あ、いえ試作段階でして。多分完成してるとは思うですけど、誰も実験に参加してくれなくて……」

 しゅんとしたナナを慰める。
 実験。
 そうね、これをもっていれば死にそうになっても大丈夫だから、死にそうになってねって言われても、誰でも断る。
 腕ぐらいならまだいい。私が思ったみたいに、じゃぁ頭潰れるけど復活するから大丈夫! と言われても怖すぎる。

「じゃぁ、私が実験体って事で」

 軽くからかうと、ナナは慌てはじめる。
 素直な子よねぇ本当。

「あ、あのですね。エルンさんに実験をとかではなく。純粋に心配で。
 お守り代わりに。あとテラボムレベル3と…………」
「まったまったまった、ただの旅みたいなものなんだし爆弾はいらないわよ」


 また物凄い物が出てきたって、間違えて爆発したら困る。
 それに爆弾の名前が物騒すぎる、間違えてなければテラ系ボムって一個あれば地形が変わるほどの爆発って本で見たような?
 それゆえに、製作は禁止されている。うん、聞かなかったことしよう。

「で、でもっ」
「護衛もいるし大丈夫」
「じゃぁこれを…………」
「何個出すきなのよ。あとノエもお疲れ様」


 ナナの鞄からは、あれやこれやと出てくる、これじゃ母親っていうよりは、私のほうが子供である。
 私は会話に入ってこれないノエに顔をむける。


「おじょう様! 持って来ました!」

 小さなバスケットで、中にはお金が入ってる。
 城から直行するにしても、お金は持っておかないとと思い、城に居る間に連絡をしたのだ。

「いつも悪いわね……」
「いいえ、ノエはメイドですから! おじょう様のメイドにほこりをごもごも」
「大きい声を出さない」
「ご、ごめんなさいー」

 何人かの人がこちらを見ては、さっと顔を背ける。

「毎回お留守番を頼む形になるけど、後の事はお願いね。
 お給金は何時もどおり届くから、そこから門番とノエの分を……あとは困ったらナナやディ……ブルックスにでも相談して」


 ノエはまかされました! と鼻息を荒くする。
 
「えるんちゃーん、馬車の用意できたわよー」
「さて、あっちも準備できたみたいだし行くわね」
「ぜったああいいいに帰って来てくださいね!」


 変なフラグを立てられ困惑する、そういわれると私がもう帰ってこないみたいで怖い。
 ともあれ、心配そうなナナとノエの頭を軽くなで、私は馬車に乗り込んだ。
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