上 下
66 / 209

65 旅は道連れ、その相手

しおりを挟む
 私がナナから説明を受け終わると、待っていたようにガール補佐官が入ってきた。ノックもなしに。

 マナーの一つ無くズンズンと入ってくる姿に、蹴りでも入れたいけど地位も名誉もあちらのほうが上なので一歩引く。
 手には小振りの木箱を持っており中身は見えない。
 私とナナの近くにあるテーブルに置くと、こっちに来い! と呼びつけた。

「これが……銀水晶が入っている箱?」
「もちろんだ!」

 私はその箱を持ち上げる、意外に軽く重さは感じない。

「馬鹿物! 不用意に触るなっ!」
「ひゃ」

 思わず手を離す。
 箱はテーブルに落ちると、反動をつけてテーブルから落ちた。
 ガシャンという嫌な音を響かせ、辺りを静かにさせる。

「おまっおまっ!」
「だ、大丈夫! きっと壊れてないわよ、ないわよね……ナナっ」
「わ、わたしに聞かれても」
「ごめん! 本当にごめん! 壊れていたらカミュラーヌ家で買い取るから。いや買い取らせてください」

 私はガール補佐官様へ手を合わせ許しを請う。
 口をパクパクさせたままのガール補佐官様は、大きく深呼吸をして口を開く。

「まったく本物・・だったら、ソチの首を跳ねても怒りが収まらぬ所だ」
「え、偽物?」
「当たり前だ、家宝の奴をポンポンと持ってこれるかっ! これはダミーだ、本物はあっちの鞄よ」


 先に言え! 心臓が飛び出るかと思ったわよ。
 ガール補佐官が出入り口に向き直ると、小さい旅行鞄を持った老人がいる。
 身なりからして、どこかの執事、この場にいるガール補佐官の執事でしょうね。

「お前は、あれをもってひっそりと国を出ろ。本物に見せかけた偽物は盛大な護衛をつけて運ぶ」
「なるほど…………狙われるのを防止するってわけね」
「中々頭が回るようだな」


 偽物に護衛をつけると、万が一襲われても被害は無い。
 まさか本物は私が持っているとは誰も気づかないだろうし。


「今回の任務は王の計らいだ! いいか、絶対に失くすなよ! あと任務が終わったら帰って来なくてもいい。忌々しい錬金術師どもめ……」
「絶対かえりますのでご安心を」


 執事の横からヘルン王子の顔が出てきた。
 執事は慌てて礼をすると一歩下がる。私もナナも、隣にいるガール補佐官も嫌な顔をしたままであるが頭を下げた。


「僕らに礼儀は今更だ。それよりもエルン、君に話がある」

 ちらっとガール補佐官をみると、手でシッシとしてくる、私は犬じゃないんだけどー。

「今行きますわ、ヘルン王子様」
「うわー…………その態度。まぁそれぐらいで怒る王子じゃないからね。ガール補佐官、手配のほうは頼んだよ。
 あと錬金術師ナナ君、弟が依頼の事で探してた、もう少しここで待っていてくれ」


 それぞれに命令を下すと、私を連れて廊下を歩く。
 私は黙ってその後に続くだけ。
 時おり兵士が緊張した顔でヘルン王子に敬礼をする所をみると……。

「ちゃらんぽらんでもやっぱり王子なのよね」
「エルン君、聞こえているんだけど」
「……………………空耳と思いますわ」
「今更ネコかぶらなくても、熊の手で一緒に飲んだ仲じゃないか、別に普通でいいよ」
「そうはいってもね…………城の中だから雰囲気が違うというか」


 倉庫みたいな部屋に通された。
 そこには先ほどみた旅行鞄がある

「はいこれ」
「これって?」
「銀水晶の偽物が入った鞄」


 あれ、でも私が持っていくのって本物って、あれ??
 本物を私がもって、偽物を護衛。
 それで私が偽物あれれ。


「ああ、補佐官の説明と違うって?」
「そう」
「君に本物を持たせたら……何があるかわからないって保険だよ。万が一落として壊したら大変だ」
「どういう意味かしら」
「顔が怖いって。王は思いました、どうせ君の事だろうから報奨金が金貨十枚とかみみっちいって思ってるんじゃないかって、そこで王が公費で旅でもして貰おうととっさに考えた案だよ」

 え、案外色々考えてくれてたのね。
 確かにみみっちいとは思ったけど、別に顔に出した記憶はないわよ、無いわよね……?
 

「やーねぇ、そんなみみっちい事考えるわけないじゃないっ!」
「補佐官には君が出発した後に、本当の銀水晶は護衛付きのほうだって知らせておくよ。
 今の所知らないのは補佐官本人だけだからね」

 ヘルンが、小さく笑い出す。
 その顔が邪悪の笑みに見えて一歩引いてしまった。

「失礼、権力や賄賂に汚くても、アレは一応補佐官だからね。
 認めたくは無いけど騎士団継続にはまだいて貰わないといけない、たまの嫌がらせぐらい僕もして良いと思うんだ」


 あまり、政治的な事には関わりたくない。
 だって、一歩間違えたら、可憐で美しい私なんかあっというまに捕らえられちゃうし。

「とは言え護衛はつける」

 驚く私に、当然の顔でヘルン王子は言う。

「え。折角の一人旅なのに!?」
「君、仮にも貴族で十六才の女性だよね? 一般庶民や冒険者じゃないんだ護衛もつけないでどうするんだい……」
「十七、十七になったし」
「…………一年しか違わない」
「護衛を連れていたら緊張した仕事になるじゃない」
「一応公務だよ」


 だめだ、ヘルン王子は一歩も譲る気はない。
 羽も何も伸ばせないじゃないの……。

「わかったわよ。護衛の人は誰? これでカインだったら髪の毛引き抜くわよ」

 どうも、おせっかいな王とヘルンは私とカインをくっ付けたいような気がする。
 別に嫌いじゃないけど、無口の弟って感じなのよ。

「女性の長旅に男性を選ぶほど愚かじゃない」
「そう、何かごめん」
「僕のサポートをして貰ってるアマンダだ、君も酒場で見た事はあるだろ?」

 アマンダ、元冒険者で現在は城勤めの女性騎士。ヘルン王子ともども良く熊の手にいるのは知っている。
 けど、特に仲良く話した事はない。

「知ってはいるけどぉ……」
「彼女も中々の酒豪でね、あと、鞄の銀水晶は偽物だけど持って行って貰いたいのはあるから、一応ガーランドの姫に渡して」

 それじゃ話は終わりと、言うとさっさと小部屋から出て行った。
 私は次に指定された待合室にいくと、偽鞄をもってアマンダさんを待つのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

処理中です...