上 下
65 / 209

64 銀水晶の乙女

しおりを挟む
 私は今頭を下げて片方の膝を立て、目線は下にある赤い絨毯じゅうたんを見ている。
 もし私が突然変な動きをすれば、直ぐに捕らえられるだろう。

「面をあげよ」

 校長、いや今の立場は王が命令をする。

 私は顔をあげ、王の顔を見つめた。
 隣に居るナナも恐らくは同じだろう。

「見習い錬金術師ナナ、及びエルンよ。今回の働き誠に――――」

 
 ようは前回の、寄生イベに対して私とナナに褒美をやるという話だ。
 話が長いのよね、淡々と喋るし眠くなる。
 褒美っても、金貨十枚でしょ。
 私が胸につけてるネックレスなんて、金貨十五枚よ。それにすら負けるなんて。

「――――で、よろしいかエルン・カミュラーヌ」
「はい、謹んでおうけします」


 何言ってるか聞いてなかったけど、こういう時は適当に返事しとけば直ぐ終わるのよ。
 帰ったら寝よう。
 そうよ、昨日までパパが態々家に来て様子見に来てたし、それで寝不足なのよ。
 でも、元気そうで良かった。
 あんなに喜ぶなら、ちゃんと帰っておけばよかった…………っと、何か呼ばれてるわね。


「謹んでお受けします」


 とりあえず、三時ぐらいには起きて夕方は……最近あの商人ええっと名前は、ミー……そうミーティアだ! あの子の店にも行ってないわね。
 ついでだから、足の不自由なマリアちゃんが喜びそうな物でも……あーはいはい。


「謹んでお受けします」


 ――――……突然に肩を叩かれた!
 驚きのあまり背後を向くと、ナナが王の話の途中というのに立っている。


「ちょ、ナナ早く頭を下げて。王の話中よ、適当に返事しておけば直ぐにおわ……あれ?」


 前を向くと玉座には誰も居ない。
 横にいた兵士達も見張りを除いて居なくなっている。


「あのーもう終わりましたけど……」
「え、そうなの?」
「はいっ」
「じゃぁ、帰りましょうか。いたたた…………同じ姿勢でいたから体が固まって固まって」
「あの…………エルンさんは帰れないかと、思うんですけど。やっぱり上の空だったんですよね」


 んんんんん? 帰れないってなんで? ナナは私が悪い事でもしたような悲しい顔をしてるし。

「おい、娘! 何をまごまごしている! 早く用意をせんかっ!」

 怒鳴られたので、怒鳴ったほうを見ると廊下で茹でタコ、いいえ顔の赤いはげの男性がいる。

「あ、ギャル大臣」
「ガールだ! それと大臣ではなく補佐官だっ。これだから物覚えの悪い女など……まぁいい」

 ガール補佐官は言葉をとめて嫌な笑いを浮かべる。

「喜べ国外追放だ」
「ええええええええっ!?」
「ち、違います! エルンさんは戻ってこれます!」
「ふんっ、まぁいいさっさと行くんだな! おっと、それとくれぐれも失礼のないようにな。それと、わたしの名前を絶対に伝えて来い! それとああええっと…………とにかく、控え室でまってろ、今運んでくるっ!」


 文句を言うとガール補佐官はさっさと見えなくなった。
 一生見えなくなって欲しいわ……じゃ無くて、追放? なんで?? 悪い事したっけ?
 ギロチンよりは良いんだけどさ……そ、そうだお金って持っていけるのかしら。
 はっ! もしかして文無しで?

「エルンさん、とりあえず控え室へいきましょう。顔真っ青ですし」
「ナナ、何か知っていたらお願い……」


 ◇◇◇

 私は控え室でナナの説明を聞いて頷く。
 納得はしてないが、納得するしかないというような。

 先ほどの褒美の受賞式で褒美を貰った後、あのクソみたいな…………おっと、口が悪いわね。あのお口が少し悪いガール補佐官様が王子の結婚の話をしだした。

 国内にある銀水晶を贈ったらどうでしょう? と王に提案したのだ。

 銀水晶。昔は人気があった嗜好品しこうひんでまぁまぁお値段が高い。
 どこぞの美少女戦士がそれを巡って戦っていたアニメがあったのを同時に思い出す。
 実際は花のような形で花びら一枚一枚も水晶になっている、その珍しさと発掘場所が地下奥深くにある天然洞窟でしか取れなく価値が高い。
 買うとしたら小さい物でも金貨三十枚はするんじゃないかしら。

「エルンさん、続きを話して大丈夫でしょうか?」
「あ、ごめん。違う事考えてたわ」
「大丈夫です、ごめんなさい説明が下手で……」


 しょんぼりするナナの説明の続きを聞きだす。

 ガール補佐官の発言に、それは良い案だという王。
 ポンポンと話が進んで誰が行くかと成った時、ガール補佐官が家宝の銀水晶を贈らせて貰いますと手を上げたのだ。

「なるほど…………ようするに、ガール補佐官がガーランドの国に対して賄賂を送りたいって事なのね」
「エ、エルンさんっ! 声が大きいです!」
「で、なんで私が国外に?」
「はい、王様が『ガール補佐官は国にとって重要な人物、事故があってはいけない。
 ここは大きな功績を挙げたエルン嬢を推薦する。錬金術師にとっていい勉強になるだろう』と」
「あー…………そこで私が」
「はい……」

 

 謹んで受けたわけか。
 どうして、こう不幸なのかしら……村を救ったというのに、いや実際救ったのはナナであるけど。
 それでも、たった金貨十枚渡されて今度は、国外へ宅急便の仕事をしなくちゃならない。
 それもこれ、絶対に無報酬よね。

「私も一緒に行きたいんですけど……すみません別の仕事が」
「へ? ああいいわよ。気持ちだけ受け取るわ、まったく次から次へと……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない

おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。 どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに! あれ、でも意外と悪くないかも! 断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。 ※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。

【完結】公爵令嬢はただ静かにお茶が飲みたい

珊瑚
恋愛
穏やかな午後の中庭。 美味しいお茶とお菓子を堪能しながら他の令嬢や夫人たちと談笑していたシルヴィア。 そこに乱入してきたのはーー

皇妃になりたくてなったわけじゃないんですが

榎夜
恋愛
無理やり隣国の皇帝と婚約させられ結婚しました。 でも皇帝は私を放置して好きなことをしているので、私も同じことをしていいですよね?

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)

優しく微笑んでくれる婚約者を手放した後悔

しゃーりん
恋愛
エルネストは12歳の時、2歳年下のオリビアと婚約した。 彼女は大人しく、エルネストの話をニコニコと聞いて相槌をうってくれる優しい子だった。 そんな彼女との穏やかな時間が好きだった。 なのに、学園に入ってからの俺は周りに影響されてしまったり、令嬢と親しくなってしまった。 その令嬢と結婚するためにオリビアとの婚約を解消してしまったことを後悔する男のお話です。

処理中です...