グラン王国の錬金術師 if 悪役錬金術師に転生してました!

えん水無月

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43 待ち焦がれる二人

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 ひざを抱えて黙り込むマギカをみると、ちょっと可愛そうになってくる。
 憧れの人リュートにいくら好きって言っても振り向いて貰えない。
 それに、その人は振った相手の事を今でも好きと言うので、余計に入る隙が無い。

 私はマギカの頭を軽く触る。慰めるのだ。
 触ろうとしたとたんに、手を跳ね除けられた。

「さ、触らないでっください!」

 イラ。

「人が折角優しくしてあげようって言うのに、これだから子供はっ!」
「別に優しくしてもらおうとおもってません。悪役令嬢に弱みなんか見せられないです」
「そうですね、私が悪かったでしょうね。それよりカー助を返してもらえる? 帰るから」
「こ。これは寂……人質! いいえ! 非常食」
「……なるほど、いい考えね、でも火は通したいわね」


 私の言葉にカー助がカァーカァーと鳴き出す。
 マギカも私の顔を大きな目を開けて見つめてくる。


「え……本当に食べる……の?」
「やーねーカー助、冗談よ」

 おかしい、場を和ませようとした冗談なのに、一人と一匹が引いてる……気がする。
 私は立ち上がると自身の怪我を確認する。
 服は汚れたり破けているけど大きな怪我は無い。

「精霊もいいけど、精霊の眼鏡や手袋と小瓶持ってきてるの?」
「え、何それ」
「何それって精霊を捕まえる道具よ」
「そんな話知らないし聞いてない! マギカの事を馬鹿にして嘘付いている!」

 してねーよと、口悪い言葉をしまいこむ。

「してないわよ」

 お上品に伝えた。
 それでも、マギカは納得してないのか私に指をつきつける。
 おーい、人に指を突きつけたらダメだぞー反感買うのよー。
 実体験だから、身にしみてわかる。

「じゃぁ、貴女はそれをもっているの!?」
「家にあるわよ」
「ほら、家にあるだなんて子供だましな嘘」
「一応いうけど、そのカラス精霊ちゃんだからね」
「え?」

 縛ってあるカー助をまじまじと見ると、私とカー助を交互にみてくる。

「嘘、こんなに役に立ちそうにないのにと」

 うん、その気持ちはよーくわかる。

「解ったらなら返――」
「わかりました、買い取ります! あ、違う……マギカが捕まえたんだからマギカの物」
「いやいやいやいや」

 どういう思考してるのよ。

「エーデルもこんな悪役より、清楚で可憐なマギカのほうがいいに決まってます」
「勝手に名前をつけないで、カー助って言うんだから」
「エーデルのほうがかっこいいですわっ!」

 カァーカァー。
 カー助が鳴くとマギカの顔が勝ち誇った顔になる。

「ほら、エーデルも喜んでいますわ!」
「はいはい、それより暗くなってきたし、さっさと帰るわよ」

 私はマギカの手首を掴むと強引に立たせる。
 このまま置いて帰ろうかと思ったけど、これから薄暗くなる森に置いて行けるほど、私は悪役令嬢ではない。

「ひっぱらないでよ!」
「じゃぁ立ちなさい」
「一つ年上だからって……」

 一つどころじゃないしーと、言いたいけど。
 説明も出来ないし、説明できたとしたら、おばさん呼ばわりすると思うので教えない。

「一つでも上は上なんだから、いう事を聞きなさい。
 これ以上迷惑かけるとリュートに怒られるわよ」
「そ、そんな事。エルン・カミュラーヌと違ってリュートお兄様はマギカの事は怒りません! それに魔物に見つかったら危ないですわ」
「え、魔物いるの?」


 思わず聞き返した。
 旅カラスや、ぽよぽよ程度なら逃げれるだろうけど変な魔物がくると不味い。

「ええ、マギカの事を襲うから反撃し、隙をみて戦術的撤退をしましたのよ!
 この場所で篭城していたほうが安全です、そんな事も解らないなんて、勉強したほうが良いと思いますわ」
「魔物の種類は?」
「あの、無視はよくないと……」
「種類!」
「ひ、日暮れ狼ですわ……たぶんですけど」


 森にでる下級モンスター、モンスターというより動物になるのかな。
 ゲームでは一回のエンカウントで最大三匹までで、冒険者レベル二十ぐらいで楽に勝てるようになったと記憶している。

 あくまでゲームでは……。

「まずいかも」
「ですから、ここに篭城すればいいのですわ、どういうわけが道が消えたり現れたりしますの」


 精霊の森特有の奴ね。
 整備された道からはにゃれると、精霊の加護がうけれにゃいから結界から出ると危険ニャよ? と言っていたデブ猫を思い出す。

 あれでいて精霊達は人間を守るのに結界を張っている、そして結界内で旅人を迷わせたりしたりもするが、魔物に教われないように保護してると教わった。
 どうみても、整備された道は周りにはない。


「誰も助けが来ないのに?」
「く、来るに決まってます」


 良く見ると、マギカの体が震えている。
 気づいたら私も唇に指を当てて考え込んでいた。

 場所は精霊の森の奥、時間は日暮れに近い。
 周りには魔物もいるし、黙っていても助けも来ない。
 

 か弱い少女二人の生還率を考えると下手に動くよりは助けを待ったほうがいいのかもしれない。
 そう、黙っていても来ないなら、無理にでも来て貰う。


 私は大きく手を叩いた。
 その音でマギカがビクット震える。

「カー助に助けを呼んできてもらうわ」

 カー助の足についている紐を強引にちぎ、ちぎ……千切れない。
 どんだけ硬く結んでいるんだ!
 私の考えがわかったのかマギカが小さなペーパーナイフを使って紐を切った。

「これでいいのでしょう?」
「きつく結びすぎよ、カー助にハルカゼのスカーフを結んでと……軽い物で身分証になるのもってる?」

 私の問いにマギカはペーパーナイフをそのまま手渡してくれた。
 リュートお兄様に貰った大切な宝物です! と自慢してきた。
 一緒に足へと結ぶ。

「いい、ナナかリュート。見つけ次第ここに来るように飛んで」

 カー助はカァカァと鳴くと、空へと飛んでいく。
 私の横でエーデル頼みましたわよ! と言っているが、カー助の名前を勝手に変えないでほしい。

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