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40 彼女の事情とその原因
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私はまだ名前も知らない女性に捕まっている。
何か理由をつけてカフェを出ようかなと思ったけど、待ち合わせの場所がここなのに、店を出るわけには行かない。
「貴族って普段何食べてるの? デザートってあるの?」
「何ってパンや肉を焼いて貰ったのとか、デザートはアイスとか」
「おお、さすが、お金もってそうだもんね」
言葉だけ聞くと嫌味になりそうなのに、人懐っこさを見せる少女にも見える女性にそんなそぶりは見えない。
「あ、それ美味しそうちょっと食べてもいい?」
そう言うと、大事に味わっていた私の日替わりケーキを手で掴んで口に入れた。
美味しいーと喜びだす。
「ま、まだ! 半分味わってないんですけどっ!」
何してくれるんだこの女性は!
悪びれもなく口に付いたクリームを指でなぞる。
「あ…………もしかして、思ったよりお金の無い貴族さんだった?
ごめん……返してあげたいけどアタシも手持ちが無くて、まだ作ってないのよ。ごめんっ」
作っていないって所に引っかかるけど、今は置いておこう。
その顔は明るかったのに、今は少し伏せ目になっている。
腰につけた皮袋を逆さに振ると、中からは銅貨が一枚ころころとテーブルに転がった。
その後に女性のお腹が音を立てて鳴った。
「べ別にお金が無いわけじゃないし、ただびっくりしただけよ、他人の物を勝手に食べたらダメって教わらなかった?」
「教わったよ! でも、あなたのなら大丈夫かなって思ってさ」
思ったさ! ってなんじゃいっ!
まったく、私が慰めると、泣きそうな顔から明るい顔に直ぐに切り替わる。
「今日だけよ、それになんでお金も無いのにカフェに居るのよ」
「本当? 嬉しいなーじゃぁもう一個食べたい。親友からここで待っとけって言われたの、なけなしのお金でクッキーを一枚だけ頼んだんだけどね、食べちゃってどうしようかなーって」
一枚って、普通は七枚と飲み物セットで銅貨六枚だ。
普段売ってないだろうし、バラで売ってもらったのか……。
どんだけ手持ちが無かったんだ。
「……………………」
「ダメかな?」
「今食べた日替わりを一つ頼んできて。これお金、残ったので好きなケーキでもパンでも好きなのを買って来て」
私は皮袋から金貨を一枚取り出して女性へと渡した。
ありがとー! 直ぐ頼んでくるねっと走っていく。
なんなんだ…………。
疲れる相手なんだけど、それが心地よい。
どうせナナ達の誰かか来るまで私も暇をしていたんだ、たまにはいいでしょう。
「持ってきたよー!」
私の前に紅茶とケーキとパンと飲料など山になるほど並べられた。
「多くない!?」
「残ったので好きなのを買っていいって言うから……」
だー、言った。言ったけど残ったお釣りを使い切るまでとは言っていない。
でも、言わなかった私も悪いのか?
「どうでもいいけど、残さないでよね。勿体無いじゃない」
女性が食べかけのケーキを口に含みこっちを見た。
「何?」
「わひっへ、ひほくなほに、もったいじゃにとか」
「飲み込んでから喋ってください。貴族でも何でも食べれないほど頼んで残すのは作ってくれた人にも悪いじゃないの」
「そうだね、うん。アタシもそう思うよ! でも今日は安心して全部食べるからっ」
言葉通りにテーブル料理を食べていく女性。
小さい体のどこに入っていくんだ。
私がケーキを一つ食べ終わる前にテーブルの半分が無くなっていく。
「所で学園の生徒じゃないですよね?」
冒険者って所だろうか。
「アタシ? そうそう冒険者でここの卒業生」
「心を読んだ!?」
「読んでないよーそう思ってるのかなって思っただけー」
なるほど、だから私を知らないのね。知らなかったら逃げる必要もないもんね。
カランカランとカフェの扉についているベルの音が聞こえた。
振り返ると、ナナが入ってきた。
服はいまだ黒いけど、顔は洗ったようで安心。
「ナナ、こっちよ」
「あ、エルンさ――――っミーナさんっ!」
はい?
私は横を見た。
ミーナと呼ばれた女性はナナをじっとみている。
ミーナ、ミーナ…………。
ミーナの錬金術師の主人で私の今居る時代より数年前の天才錬金術師で、この世界では冒険者になった人で……ナナを錬金術師に誘った人で、ディーオの初恋の人で……。
走ってきたナナがミーナへと抱きつく。
「うわー懐かしい! サイコック村のナナちゃんよね元気にしてた?」
「は、はい、ミーナさんもお変わりなく、えっと今日はどどうちて……どうしてここに!?」
「てへへ、ぼーっとしていたら何かカラスに似たようなのにぶつかりそうに成って落ちちゃった」
「カフェの前にあったホウキって」
「うん。飛んでるホウキ。壊れちゃった」
嬉しそうに喋っているナナとミーナの会話を聞いて嫌な予感がする。
確かさっきカー助が持ってきた石って飛行石よね。
そして、それは『飛んでるホウキ』の材料。
何かにぶつかりそうの『何かカラスのような』とはカー助な気がする。
気を取り直して、マギカの事を聞いてみる。
「ナナ。マギカは?」
「あ、ご、ごめんなさい。先に帰ったようです、守衛さんが見たらしいです。
リュートさんも今日はそのまま帰るそうです」
「誰にも会いたくないか……」
「はい?」
「小さい時に怒られた時って、隠れるたり一人になりたいものなのよ。じゃ私は帰るわよ、学園にいてももうどうしようも無いみたいだし」
ぐふっ!
私の腰に手を回してくるミーナ。腰の部分から顔を見上げて私を見てきた。
「帰るのー?」
「帰るわよ、離しなさいっ!」
前作の主人公であるミーナの事も気になるけど、聞きたい事を聞いたらさっさと帰る事にしよう。水を差すほど野暮な事はしない。
「やーだー」
あーもう、なんなのよ、この人は!
「ミーナさんっ! エルンさんが困っています!」
「だって、美味しいケーキを奢ってくれる人が……」
「十分食べたでしょうかっ!」
力が強くて中々離れない。
ナナが助け舟を出してくれる。
「わ、わかりました。ミーナさんわたしが出します! 出しますから離してあげてくださいっ」
「本当!?」
ナナの一言で私の腰についている手も離れた。
その隙に私はさっさと学園を後にする。
何か理由をつけてカフェを出ようかなと思ったけど、待ち合わせの場所がここなのに、店を出るわけには行かない。
「貴族って普段何食べてるの? デザートってあるの?」
「何ってパンや肉を焼いて貰ったのとか、デザートはアイスとか」
「おお、さすが、お金もってそうだもんね」
言葉だけ聞くと嫌味になりそうなのに、人懐っこさを見せる少女にも見える女性にそんなそぶりは見えない。
「あ、それ美味しそうちょっと食べてもいい?」
そう言うと、大事に味わっていた私の日替わりケーキを手で掴んで口に入れた。
美味しいーと喜びだす。
「ま、まだ! 半分味わってないんですけどっ!」
何してくれるんだこの女性は!
悪びれもなく口に付いたクリームを指でなぞる。
「あ…………もしかして、思ったよりお金の無い貴族さんだった?
ごめん……返してあげたいけどアタシも手持ちが無くて、まだ作ってないのよ。ごめんっ」
作っていないって所に引っかかるけど、今は置いておこう。
その顔は明るかったのに、今は少し伏せ目になっている。
腰につけた皮袋を逆さに振ると、中からは銅貨が一枚ころころとテーブルに転がった。
その後に女性のお腹が音を立てて鳴った。
「べ別にお金が無いわけじゃないし、ただびっくりしただけよ、他人の物を勝手に食べたらダメって教わらなかった?」
「教わったよ! でも、あなたのなら大丈夫かなって思ってさ」
思ったさ! ってなんじゃいっ!
まったく、私が慰めると、泣きそうな顔から明るい顔に直ぐに切り替わる。
「今日だけよ、それになんでお金も無いのにカフェに居るのよ」
「本当? 嬉しいなーじゃぁもう一個食べたい。親友からここで待っとけって言われたの、なけなしのお金でクッキーを一枚だけ頼んだんだけどね、食べちゃってどうしようかなーって」
一枚って、普通は七枚と飲み物セットで銅貨六枚だ。
普段売ってないだろうし、バラで売ってもらったのか……。
どんだけ手持ちが無かったんだ。
「……………………」
「ダメかな?」
「今食べた日替わりを一つ頼んできて。これお金、残ったので好きなケーキでもパンでも好きなのを買って来て」
私は皮袋から金貨を一枚取り出して女性へと渡した。
ありがとー! 直ぐ頼んでくるねっと走っていく。
なんなんだ…………。
疲れる相手なんだけど、それが心地よい。
どうせナナ達の誰かか来るまで私も暇をしていたんだ、たまにはいいでしょう。
「持ってきたよー!」
私の前に紅茶とケーキとパンと飲料など山になるほど並べられた。
「多くない!?」
「残ったので好きなのを買っていいって言うから……」
だー、言った。言ったけど残ったお釣りを使い切るまでとは言っていない。
でも、言わなかった私も悪いのか?
「どうでもいいけど、残さないでよね。勿体無いじゃない」
女性が食べかけのケーキを口に含みこっちを見た。
「何?」
「わひっへ、ひほくなほに、もったいじゃにとか」
「飲み込んでから喋ってください。貴族でも何でも食べれないほど頼んで残すのは作ってくれた人にも悪いじゃないの」
「そうだね、うん。アタシもそう思うよ! でも今日は安心して全部食べるからっ」
言葉通りにテーブル料理を食べていく女性。
小さい体のどこに入っていくんだ。
私がケーキを一つ食べ終わる前にテーブルの半分が無くなっていく。
「所で学園の生徒じゃないですよね?」
冒険者って所だろうか。
「アタシ? そうそう冒険者でここの卒業生」
「心を読んだ!?」
「読んでないよーそう思ってるのかなって思っただけー」
なるほど、だから私を知らないのね。知らなかったら逃げる必要もないもんね。
カランカランとカフェの扉についているベルの音が聞こえた。
振り返ると、ナナが入ってきた。
服はいまだ黒いけど、顔は洗ったようで安心。
「ナナ、こっちよ」
「あ、エルンさ――――っミーナさんっ!」
はい?
私は横を見た。
ミーナと呼ばれた女性はナナをじっとみている。
ミーナ、ミーナ…………。
ミーナの錬金術師の主人で私の今居る時代より数年前の天才錬金術師で、この世界では冒険者になった人で……ナナを錬金術師に誘った人で、ディーオの初恋の人で……。
走ってきたナナがミーナへと抱きつく。
「うわー懐かしい! サイコック村のナナちゃんよね元気にしてた?」
「は、はい、ミーナさんもお変わりなく、えっと今日はどどうちて……どうしてここに!?」
「てへへ、ぼーっとしていたら何かカラスに似たようなのにぶつかりそうに成って落ちちゃった」
「カフェの前にあったホウキって」
「うん。飛んでるホウキ。壊れちゃった」
嬉しそうに喋っているナナとミーナの会話を聞いて嫌な予感がする。
確かさっきカー助が持ってきた石って飛行石よね。
そして、それは『飛んでるホウキ』の材料。
何かにぶつかりそうの『何かカラスのような』とはカー助な気がする。
気を取り直して、マギカの事を聞いてみる。
「ナナ。マギカは?」
「あ、ご、ごめんなさい。先に帰ったようです、守衛さんが見たらしいです。
リュートさんも今日はそのまま帰るそうです」
「誰にも会いたくないか……」
「はい?」
「小さい時に怒られた時って、隠れるたり一人になりたいものなのよ。じゃ私は帰るわよ、学園にいてももうどうしようも無いみたいだし」
ぐふっ!
私の腰に手を回してくるミーナ。腰の部分から顔を見上げて私を見てきた。
「帰るのー?」
「帰るわよ、離しなさいっ!」
前作の主人公であるミーナの事も気になるけど、聞きたい事を聞いたらさっさと帰る事にしよう。水を差すほど野暮な事はしない。
「やーだー」
あーもう、なんなのよ、この人は!
「ミーナさんっ! エルンさんが困っています!」
「だって、美味しいケーキを奢ってくれる人が……」
「十分食べたでしょうかっ!」
力が強くて中々離れない。
ナナが助け舟を出してくれる。
「わ、わかりました。ミーナさんわたしが出します! 出しますから離してあげてくださいっ」
「本当!?」
ナナの一言で私の腰についている手も離れた。
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