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38 嵐を呼ぶ女

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 肩にカラスを乗せて歩くと、まぁ注目される。
 そして私の顔をみると殆どの生徒が顔を背ける、酷い。

「エルンさーんーーー!」

 ナナの声が聞こえた、振り返ると真っ黒な顔の子が走ってくる。

「ナナ……よね?」
「はいっ!」

 私の前に立つと、黒くなった肌をごしごしするとうっすらと肌色が見えた。
 ああ、返事の通りナナだわ。

「なんで真っ黒なのよ?」
「エヘヘちょっと失敗しちゃいまして」
「そう、それよりも学園で私に声をかけるといじめられるわよ?」


 ナナは不思議そうな顔で私をみる。なので、私が評判悪い令嬢で皆が避けるからお仲間と思われるわよ? と教えてあげた。

「そんな事ありません! 決めたんです、わたし人間って中身だと思うんです。
 エルンさんはこんなにも優しくしてくれるのに」

 肩に乗っているカー助が、カァーと鳴いた。

「ほら、カー助君もそう言ってます! あれ…………?」
「何?」
「カー助君何かもってますよ?」

 私は顔を横に向けた。
 二本の足の片方が何かを掴んでいる。
 あら綺麗な小石ね。

 カー助はカァと鳴くと肩から飛び私の周りをぐるぐると飛ぶ。
 そして腕を持ち上げようと引っ張った。

「あら、くれるの?」

 カァー。
 嬉しそうに鳴くので、私は手のひらを差し出すと、そこに綺麗な小石を置いてくれた。

「エルンさんっ! もっとよく見せてもらえまんかっ!?」
「え? いいわよ?」

 興奮したナナに小石を渡す。
 ナナは汚れた顔のまま小石を見ると、ポケットから棒をだした。
 その棒で小石を削ってるという事はヤスリか。

「やっぱり…………あっ、ごめんなさい。大事な物を削ったりして」
「別に良いわよ、この石が珍しい石なの?」
「はいっ! これは浮遊石って言ってっ」
「あ、これがそうなの?」

 元は浮遊原石と言って削ると浮遊石が出来る。
 レア素材の一つで削って加工し、その石を組み込んだアイテムは『飛んでるホウキ』が出来上がる。

 当然であるけど、ホウキに使わずネックレスにし首にかけて呪文を唱えたからと言って人間が浮くわけが無い。無いはずだ、たぶん。
 
 ともあれ飛んだホウキにまたがりる魔女っこちゃんの出来上がりである。

「さすがエルンさんですっ知っていたんですね」
「え? まぁ名前はね。良かったら上げるわよ」
「ええっ! も、もったいないです。そ、そうだ買わせて頂きます!」

 ナナはポケットからガマ口の財布を取り出すと口を開く。
 私は身長が高いからその中身が見えるけど、銀貨と銅貨しかない。

「エルンさん、両手を出してくださいっ!」

 言われるままに両手を出した。
 ナナはその上に財布を逆さまにしてお金を全部出した。

「足りない分は絶対に出しますのでっ、絶対、絶対に」
「別にお金なら――――」
「証拠を見たわよ! 悪役令嬢!!」


 ん?

 私は声がしたほうを向いた。
 私を睨み、指を差すマギカ、可愛らしい服を来て仁王たちである。

「ほら、ナナさん言ったじゃないですか! 優しい顔をしてお金を巻き上げる極悪非道な女性おんなだって!」
「どこの誰か巻き上げるっていうのよ!」
「今の姿を見て全員が思います! ねぇ皆様そうじゃありませんかっ!?」

 マギカは周りの生徒へと大声を上げた。
 足を止めて私とナナを見てくる。
 
 なるほど、私が両手をだしてナナが財布を逆さまにしてお金を出す。
 カツアゲをしているようにも見えるかもしれない。
 私は近くにいる男子生徒を見て口を開く。

友人ともだちからお金を巻き上げるなんてしませんわ。これは商談という行いです」

 ここで、変な事を言うと噂が広がる、優しく優しい声で、あと微笑みも忘れてはいけない。
 男子生徒は僕は何もみてません! と走って逃げた。
 なぜだ。
 じゃぁ、その隣にいた女生徒に顔を向けると女生徒も目線を合わせないようにして去っていく。

「エルン・カミュラーヌ! お兄ちゃん以外にも一般生徒まで毒牙にかけるとは!」
「そのお兄ちゃんに殺さ…………ごほん。リュートとはよき友人で――――」


 私の視界が高速で揺れる。
 体全体が揺れているのだ、その揺れの原因を見る。

「え! エルンさんっ! わたしを友達って呼んでくれるんですか!?」

 そう、ナナが私の体を揺らすので、視界が動きなおかつお金がバラバラと床に落ちる。
 ナナが足から崩れて地面にお尻を付くと、小さく涙を流しながらお金を拾っていく。

「え? 何で泣くのよっ!?」
「う、嬉しくて」
「極悪非道の錬金術師! アタシが許さない」

 許す、許さないはいいとして、許さないからどうなんだって思う。

「って、人を行き成り呼びつけて悪役錬金術師というのは覚悟があっての事ですわよね?」

 私はマギカに確認をする。

「そ、それは……」

 マギカは慌てて周りを見るも、周りの生徒は既に居ない。
 いや、実際は遠くから見ている。
 その遠くから見てる集団から、リュートの顔が見えた。


「この騒ぎは……エルン! それにマギカあれほど勝手に動くなと……」
「あらリュート婚約者・・・が私にかかってくるんですけど、どうにか出来ないのかしら? しっかり紐をつけて欲しいですわね」


 ついでにおりにでも閉じ込めておけ、とまでは言わない。


「リュートお兄様! 聞いてください。このエルン・カミュラーヌ女史が同じく学友であるナナさんに金品を巻き上げている所を注意したのですけど、開き直られて困っていたのです」

 おーい。
 どう解釈したらそうなるのよ!

「私そんな事されてません!」
「わかってますナナさん。ナナさんは騙されているんです!
 リュートお兄様から聞きましたわ、ナナさんは平民でありながら錬金術師を目指す大変ご立派なお人だって、わたくしとお兄様が結婚したら専属の錬金術師として雇ってあげますわっ!」
「そんなのいりませんっ!」
「なっ、わたくしがこれほど頼んでいるのに! ナナさんとは友達になりたいと思っていますのよ!」

 頼んでいるって、私には踏ん反り返っているようにしか見えない。
 というか、昔の自分を見ているようで恥ずかしい。
 私は心底溜め息をつくリュートへと小さく声をかけた。

「ディーオなんとかこの場を治めてよ」
「エルン、ごめん」

 リュートは真っ直ぐにマギカに歩いていく。
 そして、行き成りマギカの頬をパシンと叩いた。

 えっ!

 私もそうだけど、叩かれたマギカも周りの見物人やじうまも固まっている。

「マギカあれほど学園――――ぐっ」

 マギカはリュートに腹パンをすると逃げていった。
 残ったのは何ともいえない空気だけ……私の袖をナナは引っ張ってきた。

「エルンさん、私あの子嫌いですけど……」
「そうね、お願いカー助も頼んだわよ」
「はい」

 カー助はカァと鳴き飛んでいく。ナナもマギカの後を追うように走っていった。
 さて……私はこの馬鹿な男リュートに一言いいますか。
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