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29 精霊王みーおう

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 ナナは私の目の前で心配そうな顔をしている、その手には先ほど落ちたクッキーが大事そうに握られていた。

「ええっと……もったい無いと思って……」
「え? ああ、落ちたクッキーよね。三秒ルールだっけ、いいと思うわよ。
 なんだったら私もよくするし」


 そういえば先日、ノエの目の前で三秒ルールを適用したら、物凄い顔をされた。
 理由を聞いたら、貴族として辞めたほうがいいかもしれませんと、消えそうな声で答えてくれた。
 なに、見られなきゃいいのよね。


「ですよねー、凄い顔しているから、またわたし何かしちゃったかなって思って」
「所でナナ。後ろのアレ見える?」
「ふぁい? どれでしょう?」

 クッキーを食べて一息ついたナナが周りを見渡している。
 どうやら看板と道は私にしか見えてないらしい。

 精霊ちゃんを捕まえる事が出きる。いや、いう事を聞かせる指輪がさっき光った。
 看板でもだしなさいよと、言ったら突然看板が出てきたのだ。

 いくら馬鹿な私でも察しがついた。さて次はこの事をナナに伝えないといけない。私はナナから貰った眼鏡をかけ、ネックレスをこっそり外した。

 ビンゴ!

 眼鏡越しに看板と道がみえる。


「ナナっ! やっぱりナナは凄いわよ。正解は眼鏡だったのよっ!」
「な、何がですかっ!?」
「いいから『ナナの作った』眼鏡を掛けたら道が見えたのよ、ナナも掛けなさい」


 指輪の性能の事は誰にも言っていない。
 だって、徹夜して作ってくれたアイテムの上位版を既に持ってるわよとは言えない。
 なので『ナナの作った』って所を強調する。

 ナナも眼鏡を取り出して掛けた。
 小さい悲鳴を出す。

「道だ……それに看板、看板ですよ!」
「そうね。エレファントさんは森に着いたら眼鏡をかけろって言ってなかった?」
「あっ眼鏡はなくさない様にねと……そういえばしっかり掛けなさいって言っていたような」
「なるほどね。会うにはまず眼鏡が必要だったのよ」
「さすがエルンさんです!」

 
 純粋な眼差しが心に響く。 
 ともあれ、やーっと見つけたのだ。テキパキと仕度をすると私達は歩き出した。
 

 ◇◇◇

 看板の前に立つと、私もナナも驚きで声をだせなかった。
 看板から先が突然広場になっており、さっきまで何も無かった場所に一軒のビルが建っているからだ。

 ひいふうみい、外から見た階数は数え切れないほとに高い。
 もちろん、こっちの世界でそんなビルなんて見た事無い。
 一階部分の窓から建物の中はみえるが、整頓された机と椅子があるだけで特に何も無い。
 不気味である。
 

「不思議な建物ですね……透明なガラスも多いですし。
 精霊ちゃんがいる神聖な場所なんでしょうか?」
「どうかしらね」


 日本が少し懐かしい。
 首を振って気持ちを切り替える。

「さて、悪趣味な建物を建てている精霊ちゃんを拝みにいきましょうか」
「あ、まってくださいっ!」

 ガラス扉から中へと入る。
 右側に階段、左側は廊下と各部屋に入る扉が見えた。

「あ、メモがあります!」
「どれどれ、ええっと……・御用の方は二十七階の事務室へお越しください。
 か…………ねぇナナ」
「なんでしょう?」
「やっぱり帰らない? じょ、冗談。冗談だからそんな顔しないの」

 ……。

 …………。

 ………………。

「エルンさん、わたしが間違えていました。
 わたしを置いて行って下さい」
「何言うのよ、あとちょっとよ。たったの十八階じゃないの!」
「うう…………まだ十八階も」


 ………………。

 ……………………。

「エルンさん、あと、あと……三階ですから!」
「し、しぬ! エレベーターぐらいつ、つけなさいよ!」
「え、えれべーたーってなん……ですか?」
「………………そのうち教えるわよ」

 ……………………。

 ついた、馬鹿みたいな長い階数を二人で登る事上りきった。
 お互いを励まし、お互いを罵倒。いや罵倒はしてないわね。
 人間は横に進むのは平気でも、こう登るのは苦手なのよ!

 疲れた体で廊下を歩く。
 そして私は張り紙を見た。

 外出中のため一階のロビーでお待ちください。

「このく…………精霊ええええええああああああああ!」
「エ、エルンさんっ!」

 貴族にあるましき言葉を出さなかったのは褒めてほしい。
 一人だったら言ってた。

「登ったのよ! この……長い階段をっ! で、登りきったら一階で待てって。
 ころ……」
「エルンさん、落ちつきましょう。
 突然尋ねたのはわたし達なんですし。あっ何か聞こえませんか?」

 トントントントン。

 トントン。

 トトン。

 ナナの言うとおり、変な音が聞こえる。
 不規則であり、一定感覚で聞こえる音は私達が登ってきた階段のほうから聞こえ、その音は段々と大きくなっていく。

「もしかして、精霊ちゃんでしょうか……」
「それにしては、足音大きくない?」

 私とナナは顔を見合わせる。
 考えたくも無い考えが浮かんで、ナナも同じ事を思ったのか私と同時に呟いた。

「「魔物……」」

 私は辺りを見回すも、他に階段らしきものはない。
 逃げるにしろ、戦うにしろ覚悟を決めようとした時、階段から三毛猫の頭がぴょこっと出てきた。

 私達はその三毛猫を見て呆気に盗られた。

 全長三メートルはあるだろう巨大三毛猫。
 その巨大三毛猫は人のように衣服を着て二足歩行で歩いてくるからだ。
 昔、森にいる精霊と子供の交流を描いた映画があったけどそれに近い。

 私達の前まで来ると、頭からフンフンと臭いを嗅がれる。

「おや、綺麗な魂の人間と…………くさった…………にごった魂の人間のお客さんだニャー、珍しいニャー」

 おい。私のほうを向いてにごったといったぞ! それも最初腐ったっていいそうになってない?
 綺麗な魂の人間と言われたナナは慌てて挨拶をし始める。

「お、おじゃましてます! 錬金術師見習いのナナといいます。えっと…………猫さんは?」
「みーかにゃ? みーおうニャ」

 三毛猫だから、みーおうなのかしら?
 それよりも、喋っている事に驚く

「……あ、やっぱ語尾はニャーなんだ。
 で、何者?」
「みーおうはみーおうニャ?」
「精霊ちゃんに会いに来たんだけど、みーおうが精霊ちゃんでいいわけ?」
「ニャっ! 精霊の中の精霊。精霊王は、みーの事なのニャ」

 コイツ、害はなさそうね。
 ナナにいたってはさっきから、かわいいって言いながら、みーおうの肉球をぷにぷにしてるし。
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