上 下
4 / 209

04 貴族のパパ様

しおりを挟む
 一方的に婚約破棄をしてからはや三日。
 何をするのでもなく、家にいる。
 起きる、朝食を食べる、部屋で読書をする、昼食を食べる、部屋で読書をする、夕食を食べる、睡眠。

 いくら『ナナの錬金術師』をクリアしたからといっても、知っている未来はナナとその周辺の事だけ。
 後は簡単なレシピやイベントで重要なレシピを少し。
 ライバル以下である、悪役の私の情報は極めて少ない。

「本当どうしよう」

 いや、理由があるのよ!? ナナにも、リュートにも会いたくないじゃない。
 関わるとろくな事が無い、無いなら会わなければいいだけ。
 賢い人間は戦ったりしないのだ。

 決して、姫みたいな生活が楽で楽で……、はい楽です。


 コンコンコンコン。

 と、連打される扉。
 直ぐにノエの声が聞こえてきた。
 先ほど昼食を食べたので、今度はおやつだろう。

「――様……。おじょうさまっ!!」
「はいはい、今開けますよーっ」

 私は扉を開けて、もう一度閉めた。
 見間違い出なければ、ノエの背後にもう一人良く知った人物が居たからだ。

 野太い声が、扉の外から聞こえてくる。

「エルン、私だ。お前の父マイト・カミュラーヌだ」
「し、知ってます、そのあの、パパ。着替え前の姿は男性に見せなくてよ」
「小さい頃から見ていたではないか」
「それはそれ、これはこれです!」

 扉の向こうで、『メイドよ、そうなのか?』 とパパの声が聞こえると、『ノエはわかりません、ごめんなさい、ごめんさない』と返事をしているのが聞こえる。

「着替えたら直ぐに行きますので、ノエ応接室へ通して頂戴」
「なんと、父である私を男性扱いとは、エルンも大きくなったなぁ。
 天国のカミーラ見ているかっ、娘は……」

 声が小さくなるという事は、ノエが引っ張っているのだろう。
 性格が変わった事に不信感を得られるんではないかと思っていた矢先だ。 

 思わず窓の外を見ると、若い門兵が欠伸をしながら立っている。
 そう、この小さな屋敷。
 風呂トイレ別で、日本でいう所、庭付き二階建ての六LDKだ。
 もちろん私の部屋は日当たりのいい二階にある。

「連絡の一つも欲しいもんよね、まったく……」

 私は大きく溜め息を吐いていた。
 部屋からでて応接室へと入ると父はソファーの上で目を閉じていた。頭を小さく揺らしている。
 私に気づき直ぐに目を開ける。

「っとと、すまんすまん寝てしまったようだ最近忙しくてな」
「それは、お疲れ様です」
「何、エルンに会うとすればこれぐらいヘでもないわ」

 私がソファーへ座ると、ノアが紅茶を置いて部屋から出て行く。
 二人っきりだ。

「で、何の御用で」
「うむ、次の謁見の予定が立ったら王にランバード家の貴族剥奪を進言しようとおもってな。
 まれに見る好青年と思ったが、やはりお前の好みではなかったか。
 一方的にお前を悲しませるとは、全力を持ってお前を守るからな」
「はい?」

 思わず変な声が出る。
 ランバード家って、リュートの家よね。
 貴族剥奪? なんで?

「あの、パパ?」
「何、安心しなさい。お前の美貌なら他にもいい男が見つかる。
 パパは国王と親しいわけではないが、一生懸命頼むつもりだ。
 それに見つからなければ、一生独身でもいいんだぞ」
「いやいやいや、なんでリュートが貴族剥奪なの!?」
「なぜって、それはお前を振ったからだろ」

 振った? 誰が?
 いや、振ったのは私だし。

「なななななんて事を!」

 気づいたらテーブルに手を着いていた。

「何を驚いている。パパは良かれと思ってだな。
 アイツも所詮は過去にお前を振った男と――――」

 パパの言葉を聞いていると、思い当たる節がある。
 こう見えても私はモテた。
 顔は整っており、家は金持ちだモテ無いはずがない、問題はその性格だけであって過去に何人か婚約者候補が居た。

 候補といっても、お友達からというので十歳ぐらいの時の話。
 どの男の子も、私の我侭についてこれず、知らない間に家に来なくなっていた。
 アレが欲しいこれがほしい、あれ取ってきてなど、採って来た物を目の前で捨てるなど、その姿はまるでかぐや姫だっただろう。
 で、最後まで残り、なおかつ家に来たのがリュートだった。

 彼なら顔はイケメンだし、命令も付き合ってくれるし将来の旦那と思っていた、いたんだけどなー……。

「聞いているのか? だからお前は何も気にし――――」
「気にするに決まってるでしょうがっ!」
「うおっ」

 パパが思わず背後にのけぞった。
 そう、このパパは私の事を溺愛しており、かなりの親馬鹿だ。
 以前の私であれば『きゃーパパありがとう! 大好き』ぐらいは言ったかもしれないが、その先に待つのは破滅である。

 いくら娘のためでも王に進言はない。
 それも、国の事ではなく完全に私がらみの私怨。

「今すぐその考えを撤回して! それにリュートを振ったのは私であって、リュートに非はない!」
「そ、そうなのか。しかし、アレは『どんな処罰も受けますと、結果はどうあれ受けた恩はわすれません』って言ってたぞ」

 なっ。
 あの男、人を殺そうとしてるくせに、変な所に義理硬い。

「と・に・か・く、進言を無し、あれは私が悪いおーけー?」
「わ、わかった……」
「しかし、お前少し変わったか? 以前のような鋭さが消えたというか」

 するどい。
 私の記憶が確かならば、前にパパに会ったのは二週間前だ。

「パパ、私も一人暮らしが出来るようになった大人よ。
 お、大人になれば考えも変わりまーすー!」
「そうなのか……?」
「そういうもんです」

 嘘は言っていない、ちゃんと前の記憶もあるし……。
 でも、突然前世の記憶が~っても誰も信じないでしょう。

 疲れた……。
 もう部屋に引きこもりたい。

「お前がそういうのなら……では、父は帰るぞ」
「ええっと、暫くは王内に?」
「そうだな十日ほどは居る。発掘場で大型の魔物が出たとか出ないとかでな、今日は討伐要請もかねて城に来ただけだ」
「そう……魔物、それって一大事なんじゃ?」
「何、心配するな、被害はまだ出ていない」

 パパはそういうと、私に心配かけまいと笑顔で帰っていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

お久しぶりです、元旦那様

mios
恋愛
「お久しぶりです。元旦那様。」

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

【完結】側妃は愛されるのをやめました

なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」  私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。  なのに……彼は。 「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」  私のため。  そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。    このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?  否。  そのような恥を晒す気は無い。 「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」  側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。  今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。 「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」  これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。  華々しく、私の人生を謳歌しよう。  全ては、廃妃となるために。    ◇◇◇  設定はゆるめです。  読んでくださると嬉しいです!

私があなたを好きだったころ

豆狸
恋愛
「……エヴァンジェリン。僕には好きな女性がいる。初恋の人なんだ。学園の三年間だけでいいから、聖花祭は彼女と過ごさせてくれ」 ※1/10タグの『婚約解消』を『婚約→白紙撤回』に訂正しました。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

【完結】嗤われた王女は婚約破棄を言い渡す

干野ワニ
恋愛
「ニクラス・アールベック侯爵令息。貴方との婚約は、本日をもって破棄します」 応接室で婚約者と向かい合いながら、わたくしは、そう静かに告げました。 もう無理をしてまで、愛を囁いてくれる必要などないのです。 わたくしは、貴方の本音を知ってしまったのですから――。

処理中です...