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人型起動兵器七十九式パイロット『鷹華』
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女性は狭いコックピットの中で小さなモニターを見つめる。
レーダーでは黒く巨大な丸、すなわち人型機動兵器が左右に動き、少女のレーダーを回避しようとしていた。
足でアクセルを踏むと、女性の乗っている機動兵器HAWKのエンジンが唸り声を上げる。
密林の中を動き回る敵をサブモニターで確認すると、操縦席のレバーを握り、対起動兵器用のミサイルを発射した。
レーダーが赤から緑一色に変わると、女性は、ほっと溜息を付いた。
直ぐに基地からの無線が飛んでくる。
『ハロー。ヨーッカ、お見事』
ヨーッカと呼ばれた女性は無線のスイッチをONに切り替え返答する。
『鷹華です。#通信士__マリーさん__#漢字で書くと鷹に華、変に伸ばさないでください』
『OH、模擬に勝ったのに不機嫌ネー』
『別に……。それとありがとうございます。偶然勝てただけですよ』
『そういうのは、落とされた子が聞くとプッツンしちゃうわよ』
『そうですか……。しかし、あと数秒遅れていたら私のほうがロックオンされてましたし』
『はいはい。じゃ、練習は終わり、あっちの子にも戻るように伝えておくからネー』
『了解しました』
女性は無線のスイッチを切ると、基地までの操縦を自動に切り替えた。
疲れた息を吐くとコックピットの中で膝を抱えて今の地球の事を考える。
何時も無限にあると思っていた資源。
海が枯れ始め、森が減り、動物も減る。全ての資源が地球から減りだした。
皆が知っていてもどうする事も出来ない、いや、問題の先送りをし続けた結果だ。
結局は全て手遅れなのだ。
別に今日明日、人類が滅ぶわけではない。しかし、このままでは全てが滅ぶ。
そこで人類は一つの道を模索した。
『E.G.O』システム。
全ての人間の五感を『錯覚』させる装置。
そこでならば、水はジュースに、布はドレスとして錯覚を起こせる。
娯楽と思われるが、様々な使い方ができ、これまで出来なかった研究も続けられる。未来には無くては成らないシステムになるだろう。
鷹華は基地に着いた所でコックピットから顔を出す。
機動兵器のコックピットは地上から数メートルの場所にあり、乗り降りするのには専用の合金ロープが付けられている。
「ようっ」
白塗りの軍服という、目立つ格好をした男性が、鷹華の近くに手を上げてよってきた。
「旦那様っ! じゃなかったっ司令官っ!」
長い黒髪をなびかせ、和風な顔を笑顔に変えて手を司令官へと大きく振った。
その反動で手に持っていたスパナを、高い場所から落す。
「さすがだな鷹華少尉、連戦連勝だ……、あっぶねえっ」
「あっ、スパナを落としてしまいました。司令官お怪我はありませんでしたかっ!」
直ぐに合金ロープを伝って、床へ降りる。
司令官の上から下までを確認するとほっと一息ついて、先ほどの続きを喋る。
「偶然ですよ司令官さまっ」
「謙遜するな、これがウチの元メイドと思うと、お前を拾って置いて良かったと思うよ」
「その節はお世話になりましたっと」
「おいおい。これからも頼むぞ。ほら、もう一人が帰ってきたぞ」
司令官の言うとおりに、人型機動兵器が帰ってくる。
その巨大な体には緑色のペイントが大きく付けられていた。先ほど鷹華が打った模擬弾の結果である。
スタッフに誘導されて止まると、中から金髪の女性が顔を出した。直ぐに合金ロープを使い滑り降りてくる。
その顔は般若のように怒っていて、司令官と一緒にいる鷹華に詰め寄った。
「ありえないっ! なんで私が負けるのよっ!」
「偶然、奇跡的に私が勝っただけです……」
「あ……。当たり前よっ! 貴方の機動兵器は七十九式よ! 私の奴は最新の九十八式、それも先月出たばかりなのに、負けるなんてありえない」
六年たったら型遅れ、命に関わる。そう言われている人型機動兵器の世界で、二人の乗っている年式は十九年も違って居るのだ。
七十九式は手足が太くコックピットが狭い、武器は両腕に仕込んである二本の砲弾、あとは両足に付いている予備の三連砲に、手の爪だけである。
一方九十八式は人間にフォルムに近く、その柔軟な動き、それに加えて強化された爪、特殊ナイフや両手のひらから発射されるレールガンなどがある。
「まぁいいですわ。次こそは勝ちますわよ。所で罰ゲームの話ですけど……貸しって事には……」
エレナの声がやや小さくなった。
模擬戦をやる事になった理由である。
連戦連勝のエレナ少尉が、この度、防衛として基地に配属された、その時に既に基地にいた鷹華、鷹華も配属されてから負け知らすで連勝をしていた。
自分より弱そうな子が基地のエースと知ってエレナは喧嘩を吹っかけたのだ。
エレナは鷹華に負けたほうは全裸で三日間過ごすと言う約束を無理やり取り付けての勝負をしかけた、結果はごらんの通りであった。
「大丈夫ですよ、それよりエレナさんが来ると聞いて歓迎会の用意をしているんです、私も料理を手伝ったんですよっ」
一瞬ドッグ内が静かになった。
司令官が、恐る恐る鷹華へと確認する。
「えーっと、鷹華少尉」
「はい、なんでしょう? 司令官」
「その、少尉が作ったのか?」
「はいっ! 一部ですけど、特にお汁粉はがんばりましたっ!」
「そ、そうか……。えーっと、エレナ少尉」
「は、はいっ!」
「頑張りたまえ」
「え? 何が? お汁粉ってあれよね。今じゃめったに食べれなくなったけど、私、甘い物は大好物よ?」
司令官は一言激励すると、ドッグから離れる。
鷹華も、最後の締めを作ってきますと、その後を付いていき基地内へ消えて行った。
残ったエレナを生暖かい眼で応援する整備士の顔がそこにはあった。
季節は変わる。
地球の資源はますます無くなり人類は疲れていた。
基地内に鳴り響く耳障りな緊急音
その音で鷹華は粗末なベッドから飛び起きる、軽く上着を羽織ると直ぐに扉を開けると作戦室へと走って入った。
「先週もあったのに……。一体今度はなによ」
既に室内は男女様々な人間であふれ返っている。各自好きな席に座り司令官を待っていた。
これから寝る者、起きる者、寝ていた者など表情は様々であるが、全員一致している事は眼が真剣である。
鷹華の隣には、欠伸をしながらエレナが座った。
男性が部屋へと入る。以前より汚れが多くなったが白い軍服に白い軍帽、敵に真っ先に狙われるから変えてくださいと、基地内の人間が署名をしても一切引かなかった司令官。
先ほどまで無駄話をしていた人間は居なく、全員が司令官に注目した。
「夜間に集まりご苦労。緊急発進だ。敵はC型機動兵器二十体に、D型が十五、それに最新の零式八体。歩兵が七部隊、それぞれ四方向から向かってきている到着予定はおよそ十二時間後」
誰かか口笛を吹く。
気にも留めるわけでもなく司令官が話し出した。
「判っていると思うが、現在地球には資源なくなりつつある。人類が衰退しないためにも、黙って此処を落とされるわけには行かない」
誰かか横槍を入れる。
「わーってるよ。仮想世界の変換だろ、それが出来れば、水が酒。石ころが宝石に変わるというじゃねーか」
「正確には代わらない、だが、そう認識する事が出きる」
「俺にとってはどっちでもいい、ようは、その機械を独り占めしようとする国がいるって事だろ?」
「そうだ。だから此処を落とされるわけには行かないのだ」
鷹華が手を上げる。
司令官がちらっと鷹華を見た後に発言を許可した。
「多すぎますっ! こちらの機動兵器は先の戦闘で大破、被弾。まともに動けるのは五体です」
「そうだ。そこで、鷹華。君とエレナ大尉には、この基地のデーターを持ってサハラ基地へ行ってもらいたい、我々は残った三機で敵を引きつけた後。基地爆破する」
作戦室に沈黙が流れた。
事実上の全滅作戦である。
「断ります。それってこの基地を見捨てて逃げろって事ですよね」
「ほう、では。五年もかけて開発しているデーターを壊されてもいいと?」
「そうは言ってません」
「言っているのと同じだ。通信システムでデーターを送るわけには行かない。ではどうすればいいと思う? 君達二人が連勝するといっても所詮は二機だけだ防げても、二方向が限界だろう」
「それは……」
「幸いサハラ基地との連絡は取れている。途中で向こうの部隊と合流できるはずだ」
「なら私ではなくても、ジャニーさんやランランさんでも、いいはずです」
鷹華が大きな声で反論する、ジャニーは欧米生まれの男性パイロット、ランランはアジア生まれの女性パイロットである。
司令官はゆっくりと首を振った。
話題に出されたジャニーが手を上げ発言し始める。
「ヨウカ。俺や、ランランじゃ突破出来る確立が低い。少なくとも、エレナより俺達は劣る。なに気にスンナ、ブシドーとはシヌ事とオボエタリ」
横にいるチャイナ服を着た女性ランランが、ジャニーの頭を叩く。
「死んじゃ駄目あるネ。ワタシ達も危なくなったら逃げるネ。エレナ、乳臭い鷹華を基地まで送ってネ」
「……。言われなくても」
エレナも眉間に皺を寄せ、低い声を出している。
「さて、もう質問は無いみたいだな。各自解散、なお作戦開始は明朝六時、食料庫も酒も全部開放する。大いに騒いでくれたまえ」
司令官の言葉に、あちらこちらから歓喜の口笛が飛ぶ。
現在に置いて豪華な食事、ただ、酒が飲める、それだけでも凄い事なのだ。
司令官が作戦室から出て行くと、作戦室に残ったメンバーも軽口を叩きながら出ていった。
残されたのは、鷹華とエレナだけだった。
そのエレナも鷹華に声をかけようとしたが、結局かけないで部屋から出て行く。
一時間後、鷹華は司令官室の扉を叩く。
セキュリティロックが外され、中から疲れた顔の司令官が現れた。
「どうした、鷹華大尉」
「昔みたいに鷹華じゃないですね。旦那様」
旦那様と呼ばれた、司令官はワイシャツのネクタイを暑苦しそうに外すと、鷹華を部屋に招く。
「見ての通り、何も無い所だが、酒ぐらいはある飲むか?」
「気持ちだけで、アルコールが入るとトリガーを弾のに判断に迷いが出ます」
「そうか、ならもってけ」
司令官は近くのソファーに座ると、鷹華を対面に座らせる。
二人とも何も話さなく時計の音だけがカチカチと進んでいく。
「何か用があったんじゃないのか?」
「あったんですけど、旦那様の顔を見たら何も言えなく」
「ふう……。俺はもうお前の旦那様ではない、メイドと主人とは違う。司令官と鷹華大尉」
「あの、昔の個人として話ししては駄目ですか?」
「別にかまわんよ、お前がそうしたいなら止める権利は無い」
「ほ、本当ですかっ」
鷹華は突然立ち上がると、テーブルにつまづく、そしてテーブルに置いてあるコップを倒し粉々に割った。
「す、すみませんっ! 直ぐに、直ぐに片付けますっ!」
「ま、まて。動くなっ」
司令官の命令には聞かずに動く鷹華。
ソファーにも足があたり、近くの書棚に頭から突っ込む。鷹華の体の上に書物が落ちていく。
「いたたたた……」
「ああ、もうだから、動くなと。本当なんでそんなドジなのにウチの無敗のエースなんだ」
「す、すみません」
「だから、動くなっ。ほら怪我はないか? うん、大丈夫そうだな」
司令官が鷹華の体を確認していく、手足や頭を触り怪我が無い事を確認しほっとした顔を出した。
「で、言いたい事はわかってるつもりだ。作戦に変更は無い、それにお前に生き残って欲しいのは俺個人の願いだ。誰かから非難させようが一向に構わん、最後ぐらい俺のわがままと思って聞いて欲しい。もっとも基地内には居なかったみたいだけどな」
「旦那様」
「ほら、俺は少し仮眠をする。出て行った出て行った」
司令官は、何か言おうとする鷹華を無理やり外に出すと部屋のロックを掛けた。
廊下に出された鷹華は渡された酒瓶を握り締めると、チャイムを連打する。
すぐに司令官の顔だけが廊下に出てきた。
「だー、うるせえ、お前俺が仮眠するって聞いてなかったか?」
「聞きました、あの。絶対に諦めないでください」
「…………」
「サハラ基地に着いたら必ず戻るので」
事実上は無理だ。
そんな簡単に戻ってこれる距離ではないし、持ち越えれる事も不可能である。
「…………本気で言ってるのか?」
「本気です」
「はぁ……ったく、俺が司令官になるからメイド全員首にした時もお前はそうやって付いてきたよな」
「そうでしたっけ? あの和服にスカート姿気に入っていたんですけどね」
「ったく。充てにしないでまってるよ。これでいいか? 寝る、もう起こすなよ」
司令官は首を戻すと部屋に二度目のロックを掛けた。
作戦決行時間から四時間後。
鷹華とエレナは人型起動兵器に乗り全力で走っている。
基地からの無線は傍受される恐れの為に今はカットされている、再開される事は無いだろう。
エレナの機体から通信が入ってくる。
『鷹華、右に敵機、C、D』
『了解。エレナさん、Cは任せます。Dは此方に』
『ふふ』
『えーっと、何笑っているんでしょうか?』
『いえね、Dも七十九式にやられるとは思わないでしょうね』
『この機体は私が始めて旦那様に貰った物です、そう簡単に負けません』
『……。なるほどね、貴方の強さがやっとわかった気がするわ。じゃ、通信切るわよ、三十分後に報告』
エレナの通信が切れる。
鷹華は旧式の機動兵器のレバをー優しく握りなおした。
――丁度三十分後、鷹華はエレナに通信を飛ばした。
『エレナさん、怪我は?』
『問題なっし、それよりも鷹華のほうが凄いわね。まさに鬼神というのは鷹華の事をいうわね』
『それよりも、私のレーダーに未確認情報がでるんだけど』
『ああ、それね、サハラ基地の機動部隊。こっちに向かえに来るわよ、旧式すぎて判別出来なかったのね』
『予定よりも早い……』
『そうね、司令官がんばったんでしょうね』
鷹華は突然に司令官に貰ったワインの蓋を開ける。
コックピット内に葡萄の匂いが充満し始めた。
そのワインを一気に飲み干す。胃の中が熱くなったのか咳き込み始める。
事情を知らないエレナは、鷹華の咳き込みを聞いて通信の声を張り上げる。
『鷹華っ! 貴方やっぱり怪我をっ』
『いえ、決めました。あの人がそうであったように、私も自分に素直に生きたいと思います、別にサラハ基地まで行く事もないですし』
『え、何突然言い出すのよ……』
『エレナさんっ! 私が持っている開発データーBを置いて行きます。ここから先は敵は居ないと思いますし合流も問題ないと思います』
『ちょっとっ。鷹華っ! まさか』
『ええ、戻ります』
暫くの沈黙のあと、エレナの不機嫌な声が聞こえた。
『私が黙って帰すと思って?』
『エレナさん、私まだエレナさんから勝った時の貸しを返して貰ってません。返して下さい』
『なっ……。ちょっと、ここであの時の事いう? 普通?』
『ええ、今の私なら言いますよ』
『だったら、私も行くわよ』
『駄目です、開発データーを持って行って貰わないと、皆さんの苦労が水の泡です。エレナさんには戻る理由はありません、でも、私にはあるのですっ。では急いで居るので、また会いましょう』
『ちょっと、鷹……』
鷹華は一方的に通信を切ると、開発データーが入ったユニットパックを地面へ落とし反転する。
それが、後に味方からはサハラのマリア、敵からはサハラの悪魔と呼ばれたエレナ少佐が鷹華大尉を見た最後の姿だった。
レーダーでは黒く巨大な丸、すなわち人型機動兵器が左右に動き、少女のレーダーを回避しようとしていた。
足でアクセルを踏むと、女性の乗っている機動兵器HAWKのエンジンが唸り声を上げる。
密林の中を動き回る敵をサブモニターで確認すると、操縦席のレバーを握り、対起動兵器用のミサイルを発射した。
レーダーが赤から緑一色に変わると、女性は、ほっと溜息を付いた。
直ぐに基地からの無線が飛んでくる。
『ハロー。ヨーッカ、お見事』
ヨーッカと呼ばれた女性は無線のスイッチをONに切り替え返答する。
『鷹華です。#通信士__マリーさん__#漢字で書くと鷹に華、変に伸ばさないでください』
『OH、模擬に勝ったのに不機嫌ネー』
『別に……。それとありがとうございます。偶然勝てただけですよ』
『そういうのは、落とされた子が聞くとプッツンしちゃうわよ』
『そうですか……。しかし、あと数秒遅れていたら私のほうがロックオンされてましたし』
『はいはい。じゃ、練習は終わり、あっちの子にも戻るように伝えておくからネー』
『了解しました』
女性は無線のスイッチを切ると、基地までの操縦を自動に切り替えた。
疲れた息を吐くとコックピットの中で膝を抱えて今の地球の事を考える。
何時も無限にあると思っていた資源。
海が枯れ始め、森が減り、動物も減る。全ての資源が地球から減りだした。
皆が知っていてもどうする事も出来ない、いや、問題の先送りをし続けた結果だ。
結局は全て手遅れなのだ。
別に今日明日、人類が滅ぶわけではない。しかし、このままでは全てが滅ぶ。
そこで人類は一つの道を模索した。
『E.G.O』システム。
全ての人間の五感を『錯覚』させる装置。
そこでならば、水はジュースに、布はドレスとして錯覚を起こせる。
娯楽と思われるが、様々な使い方ができ、これまで出来なかった研究も続けられる。未来には無くては成らないシステムになるだろう。
鷹華は基地に着いた所でコックピットから顔を出す。
機動兵器のコックピットは地上から数メートルの場所にあり、乗り降りするのには専用の合金ロープが付けられている。
「ようっ」
白塗りの軍服という、目立つ格好をした男性が、鷹華の近くに手を上げてよってきた。
「旦那様っ! じゃなかったっ司令官っ!」
長い黒髪をなびかせ、和風な顔を笑顔に変えて手を司令官へと大きく振った。
その反動で手に持っていたスパナを、高い場所から落す。
「さすがだな鷹華少尉、連戦連勝だ……、あっぶねえっ」
「あっ、スパナを落としてしまいました。司令官お怪我はありませんでしたかっ!」
直ぐに合金ロープを伝って、床へ降りる。
司令官の上から下までを確認するとほっと一息ついて、先ほどの続きを喋る。
「偶然ですよ司令官さまっ」
「謙遜するな、これがウチの元メイドと思うと、お前を拾って置いて良かったと思うよ」
「その節はお世話になりましたっと」
「おいおい。これからも頼むぞ。ほら、もう一人が帰ってきたぞ」
司令官の言うとおりに、人型機動兵器が帰ってくる。
その巨大な体には緑色のペイントが大きく付けられていた。先ほど鷹華が打った模擬弾の結果である。
スタッフに誘導されて止まると、中から金髪の女性が顔を出した。直ぐに合金ロープを使い滑り降りてくる。
その顔は般若のように怒っていて、司令官と一緒にいる鷹華に詰め寄った。
「ありえないっ! なんで私が負けるのよっ!」
「偶然、奇跡的に私が勝っただけです……」
「あ……。当たり前よっ! 貴方の機動兵器は七十九式よ! 私の奴は最新の九十八式、それも先月出たばかりなのに、負けるなんてありえない」
六年たったら型遅れ、命に関わる。そう言われている人型機動兵器の世界で、二人の乗っている年式は十九年も違って居るのだ。
七十九式は手足が太くコックピットが狭い、武器は両腕に仕込んである二本の砲弾、あとは両足に付いている予備の三連砲に、手の爪だけである。
一方九十八式は人間にフォルムに近く、その柔軟な動き、それに加えて強化された爪、特殊ナイフや両手のひらから発射されるレールガンなどがある。
「まぁいいですわ。次こそは勝ちますわよ。所で罰ゲームの話ですけど……貸しって事には……」
エレナの声がやや小さくなった。
模擬戦をやる事になった理由である。
連戦連勝のエレナ少尉が、この度、防衛として基地に配属された、その時に既に基地にいた鷹華、鷹華も配属されてから負け知らすで連勝をしていた。
自分より弱そうな子が基地のエースと知ってエレナは喧嘩を吹っかけたのだ。
エレナは鷹華に負けたほうは全裸で三日間過ごすと言う約束を無理やり取り付けての勝負をしかけた、結果はごらんの通りであった。
「大丈夫ですよ、それよりエレナさんが来ると聞いて歓迎会の用意をしているんです、私も料理を手伝ったんですよっ」
一瞬ドッグ内が静かになった。
司令官が、恐る恐る鷹華へと確認する。
「えーっと、鷹華少尉」
「はい、なんでしょう? 司令官」
「その、少尉が作ったのか?」
「はいっ! 一部ですけど、特にお汁粉はがんばりましたっ!」
「そ、そうか……。えーっと、エレナ少尉」
「は、はいっ!」
「頑張りたまえ」
「え? 何が? お汁粉ってあれよね。今じゃめったに食べれなくなったけど、私、甘い物は大好物よ?」
司令官は一言激励すると、ドッグから離れる。
鷹華も、最後の締めを作ってきますと、その後を付いていき基地内へ消えて行った。
残ったエレナを生暖かい眼で応援する整備士の顔がそこにはあった。
季節は変わる。
地球の資源はますます無くなり人類は疲れていた。
基地内に鳴り響く耳障りな緊急音
その音で鷹華は粗末なベッドから飛び起きる、軽く上着を羽織ると直ぐに扉を開けると作戦室へと走って入った。
「先週もあったのに……。一体今度はなによ」
既に室内は男女様々な人間であふれ返っている。各自好きな席に座り司令官を待っていた。
これから寝る者、起きる者、寝ていた者など表情は様々であるが、全員一致している事は眼が真剣である。
鷹華の隣には、欠伸をしながらエレナが座った。
男性が部屋へと入る。以前より汚れが多くなったが白い軍服に白い軍帽、敵に真っ先に狙われるから変えてくださいと、基地内の人間が署名をしても一切引かなかった司令官。
先ほどまで無駄話をしていた人間は居なく、全員が司令官に注目した。
「夜間に集まりご苦労。緊急発進だ。敵はC型機動兵器二十体に、D型が十五、それに最新の零式八体。歩兵が七部隊、それぞれ四方向から向かってきている到着予定はおよそ十二時間後」
誰かか口笛を吹く。
気にも留めるわけでもなく司令官が話し出した。
「判っていると思うが、現在地球には資源なくなりつつある。人類が衰退しないためにも、黙って此処を落とされるわけには行かない」
誰かか横槍を入れる。
「わーってるよ。仮想世界の変換だろ、それが出来れば、水が酒。石ころが宝石に変わるというじゃねーか」
「正確には代わらない、だが、そう認識する事が出きる」
「俺にとってはどっちでもいい、ようは、その機械を独り占めしようとする国がいるって事だろ?」
「そうだ。だから此処を落とされるわけには行かないのだ」
鷹華が手を上げる。
司令官がちらっと鷹華を見た後に発言を許可した。
「多すぎますっ! こちらの機動兵器は先の戦闘で大破、被弾。まともに動けるのは五体です」
「そうだ。そこで、鷹華。君とエレナ大尉には、この基地のデーターを持ってサハラ基地へ行ってもらいたい、我々は残った三機で敵を引きつけた後。基地爆破する」
作戦室に沈黙が流れた。
事実上の全滅作戦である。
「断ります。それってこの基地を見捨てて逃げろって事ですよね」
「ほう、では。五年もかけて開発しているデーターを壊されてもいいと?」
「そうは言ってません」
「言っているのと同じだ。通信システムでデーターを送るわけには行かない。ではどうすればいいと思う? 君達二人が連勝するといっても所詮は二機だけだ防げても、二方向が限界だろう」
「それは……」
「幸いサハラ基地との連絡は取れている。途中で向こうの部隊と合流できるはずだ」
「なら私ではなくても、ジャニーさんやランランさんでも、いいはずです」
鷹華が大きな声で反論する、ジャニーは欧米生まれの男性パイロット、ランランはアジア生まれの女性パイロットである。
司令官はゆっくりと首を振った。
話題に出されたジャニーが手を上げ発言し始める。
「ヨウカ。俺や、ランランじゃ突破出来る確立が低い。少なくとも、エレナより俺達は劣る。なに気にスンナ、ブシドーとはシヌ事とオボエタリ」
横にいるチャイナ服を着た女性ランランが、ジャニーの頭を叩く。
「死んじゃ駄目あるネ。ワタシ達も危なくなったら逃げるネ。エレナ、乳臭い鷹華を基地まで送ってネ」
「……。言われなくても」
エレナも眉間に皺を寄せ、低い声を出している。
「さて、もう質問は無いみたいだな。各自解散、なお作戦開始は明朝六時、食料庫も酒も全部開放する。大いに騒いでくれたまえ」
司令官の言葉に、あちらこちらから歓喜の口笛が飛ぶ。
現在に置いて豪華な食事、ただ、酒が飲める、それだけでも凄い事なのだ。
司令官が作戦室から出て行くと、作戦室に残ったメンバーも軽口を叩きながら出ていった。
残されたのは、鷹華とエレナだけだった。
そのエレナも鷹華に声をかけようとしたが、結局かけないで部屋から出て行く。
一時間後、鷹華は司令官室の扉を叩く。
セキュリティロックが外され、中から疲れた顔の司令官が現れた。
「どうした、鷹華大尉」
「昔みたいに鷹華じゃないですね。旦那様」
旦那様と呼ばれた、司令官はワイシャツのネクタイを暑苦しそうに外すと、鷹華を部屋に招く。
「見ての通り、何も無い所だが、酒ぐらいはある飲むか?」
「気持ちだけで、アルコールが入るとトリガーを弾のに判断に迷いが出ます」
「そうか、ならもってけ」
司令官は近くのソファーに座ると、鷹華を対面に座らせる。
二人とも何も話さなく時計の音だけがカチカチと進んでいく。
「何か用があったんじゃないのか?」
「あったんですけど、旦那様の顔を見たら何も言えなく」
「ふう……。俺はもうお前の旦那様ではない、メイドと主人とは違う。司令官と鷹華大尉」
「あの、昔の個人として話ししては駄目ですか?」
「別にかまわんよ、お前がそうしたいなら止める権利は無い」
「ほ、本当ですかっ」
鷹華は突然立ち上がると、テーブルにつまづく、そしてテーブルに置いてあるコップを倒し粉々に割った。
「す、すみませんっ! 直ぐに、直ぐに片付けますっ!」
「ま、まて。動くなっ」
司令官の命令には聞かずに動く鷹華。
ソファーにも足があたり、近くの書棚に頭から突っ込む。鷹華の体の上に書物が落ちていく。
「いたたたた……」
「ああ、もうだから、動くなと。本当なんでそんなドジなのにウチの無敗のエースなんだ」
「す、すみません」
「だから、動くなっ。ほら怪我はないか? うん、大丈夫そうだな」
司令官が鷹華の体を確認していく、手足や頭を触り怪我が無い事を確認しほっとした顔を出した。
「で、言いたい事はわかってるつもりだ。作戦に変更は無い、それにお前に生き残って欲しいのは俺個人の願いだ。誰かから非難させようが一向に構わん、最後ぐらい俺のわがままと思って聞いて欲しい。もっとも基地内には居なかったみたいだけどな」
「旦那様」
「ほら、俺は少し仮眠をする。出て行った出て行った」
司令官は、何か言おうとする鷹華を無理やり外に出すと部屋のロックを掛けた。
廊下に出された鷹華は渡された酒瓶を握り締めると、チャイムを連打する。
すぐに司令官の顔だけが廊下に出てきた。
「だー、うるせえ、お前俺が仮眠するって聞いてなかったか?」
「聞きました、あの。絶対に諦めないでください」
「…………」
「サハラ基地に着いたら必ず戻るので」
事実上は無理だ。
そんな簡単に戻ってこれる距離ではないし、持ち越えれる事も不可能である。
「…………本気で言ってるのか?」
「本気です」
「はぁ……ったく、俺が司令官になるからメイド全員首にした時もお前はそうやって付いてきたよな」
「そうでしたっけ? あの和服にスカート姿気に入っていたんですけどね」
「ったく。充てにしないでまってるよ。これでいいか? 寝る、もう起こすなよ」
司令官は首を戻すと部屋に二度目のロックを掛けた。
作戦決行時間から四時間後。
鷹華とエレナは人型起動兵器に乗り全力で走っている。
基地からの無線は傍受される恐れの為に今はカットされている、再開される事は無いだろう。
エレナの機体から通信が入ってくる。
『鷹華、右に敵機、C、D』
『了解。エレナさん、Cは任せます。Dは此方に』
『ふふ』
『えーっと、何笑っているんでしょうか?』
『いえね、Dも七十九式にやられるとは思わないでしょうね』
『この機体は私が始めて旦那様に貰った物です、そう簡単に負けません』
『……。なるほどね、貴方の強さがやっとわかった気がするわ。じゃ、通信切るわよ、三十分後に報告』
エレナの通信が切れる。
鷹華は旧式の機動兵器のレバをー優しく握りなおした。
――丁度三十分後、鷹華はエレナに通信を飛ばした。
『エレナさん、怪我は?』
『問題なっし、それよりも鷹華のほうが凄いわね。まさに鬼神というのは鷹華の事をいうわね』
『それよりも、私のレーダーに未確認情報がでるんだけど』
『ああ、それね、サハラ基地の機動部隊。こっちに向かえに来るわよ、旧式すぎて判別出来なかったのね』
『予定よりも早い……』
『そうね、司令官がんばったんでしょうね』
鷹華は突然に司令官に貰ったワインの蓋を開ける。
コックピット内に葡萄の匂いが充満し始めた。
そのワインを一気に飲み干す。胃の中が熱くなったのか咳き込み始める。
事情を知らないエレナは、鷹華の咳き込みを聞いて通信の声を張り上げる。
『鷹華っ! 貴方やっぱり怪我をっ』
『いえ、決めました。あの人がそうであったように、私も自分に素直に生きたいと思います、別にサラハ基地まで行く事もないですし』
『え、何突然言い出すのよ……』
『エレナさんっ! 私が持っている開発データーBを置いて行きます。ここから先は敵は居ないと思いますし合流も問題ないと思います』
『ちょっとっ。鷹華っ! まさか』
『ええ、戻ります』
暫くの沈黙のあと、エレナの不機嫌な声が聞こえた。
『私が黙って帰すと思って?』
『エレナさん、私まだエレナさんから勝った時の貸しを返して貰ってません。返して下さい』
『なっ……。ちょっと、ここであの時の事いう? 普通?』
『ええ、今の私なら言いますよ』
『だったら、私も行くわよ』
『駄目です、開発データーを持って行って貰わないと、皆さんの苦労が水の泡です。エレナさんには戻る理由はありません、でも、私にはあるのですっ。では急いで居るので、また会いましょう』
『ちょっと、鷹……』
鷹華は一方的に通信を切ると、開発データーが入ったユニットパックを地面へ落とし反転する。
それが、後に味方からはサハラのマリア、敵からはサハラの悪魔と呼ばれたエレナ少佐が鷹華大尉を見た最後の姿だった。
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