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#4 思えば遠くへきたもんだ
しおりを挟む好きで「凡人」に生まれるやつなんかいない。
誰だって自分が一番だと思っていたいはずだ。人前じゃどんなに謙遜してみせたって。俺が一番すごい、一番強い、天才だってさ。
「そう、お師匠、上手ですよ……」
本番はなし。
それがはじめるまえの約束だった。
あくまでも抜くだけ、それ以上やったらぶんなぐる。そうくり返す俺に、セレナはにこにことうなずくだけだった。
(冗談じゃねえぞ)
あらためて見てもやっぱりセレナのちんこはでかくて、俺は戦慄する。本当にでかい。ちんこだけどっかから持ってきたんですか? っていうくらいでかい。二人分を一緒にこすろうとしても片手じゃまわりきらないから自然両手を使うことになるわけで、それが俺には理不尽で不愉快で仕方ないのに、セレナは何がうれしいのか気持ち悪いくらいご機嫌で、ああ、殴りたい。ていうか耳元でしゃべらないでほしいんですけど。
セレナが恍惚と言った。
「何度この日を夢に見たことか。お師匠の硬くて男らしい手が僕のとお師匠の立派なお師匠を一緒に包んで……ッ♡♡」
「……」
「ああ、だめだ、やっぱりもったいない。ね、お師匠、やっぱり僕にしゃぶらせてください」
「断る。つか話しかけんな。気が散る」
「ぐふふ、お師匠ったら恥ずかしがって……。知ってるんですよ、僕。お師匠が僕の修行に付き合っている間、一度も女の人のところに出かけてないって。もともとお師匠が淡泊な方なのも知ってます。そんな繊細で敏感で赤ちゃんのように無垢なお師匠のお師匠に前触れもなく与えられる未知の感覚……ッ! ああ、もう清らかではいられない、性の快楽を知った花が今ここにみだらなつぼみを開くのであった……! そして大丈夫ですよ、お師匠。びっくりして口に含んだと同時射精してしまっても、僕が全部飲み干しますので。ええ、一滴だってこぼしませんので!」
「いいから黙れ。今すぐ黙れ。永遠に黙れ」
「そんなに一生懸命になって……。かわいい、お師匠♡♡」
「ひぃっ!?」
セレナが突然耳を舐めるので変な声が出てしまう。身をよじったのは別に乳首をこねられて感じたからじゃない。ガキの頃に耳に虫が入ったことがあって、以来ちょっと敏感なのだ。
「おいっ……セレナ! ……あっ」
「お師匠、お師匠、……っ今の声、すごくかわいい……」
「あ、……ちょっと、待てセレナ、……ん、ゃ」
とうとう俺のちんこを握る手が止まって、離れる。そもそもこんな状況じゃ出せるもんも出せませんが。
「夢みたい……本当にこんな日がくるなんて。ああ、タカオミ、タカオミ」
抜きあいだけ、なんて話はとっくにセレナの頭から飛んでいるらしい。寝台に俺を押し倒し、セレナが俺にまたがる。うっとりとした空色の両目にはちろちろと炎のような色があって、それが俺の次の行動を鈍らせた。そのすきにセレナは俺の乳首を舐め腹を舐め、へそをたどってついに俺のちんこを口に含む。ぺろぺろぺろぺろと先端を執拗に舐められあるいは吸われて、俺は両足をばたつかせる。
「セレナ、出るっ出るっ」
「ああ、これがお師匠の味、お師匠のにおい……ッ♡♡ タカオミの、味」
動物みたいに興奮した息遣いでうわごとのように落としたセレナの声を、俺はもう聞いちゃいない。セレナを止めるでもなくただ一方的に高められて押し上げられて、うながされるままにセレナの口のなかへ放出してしまった。つまり精液だが、もっと驚いたのはセレナが何の躊躇もなくそれを飲み込んでしまったことだ。
「お、おいセレナ!」
「はあ……♡ おいしい。想像していたよりもずっと濃厚でジューシーでまろやかで性的でした。お師匠のえっちな顔を思い出すだけで射精できそうです」
「……」
俺は無言で体を起こす。セレナのそこは言うまでもなく張り詰めて、見てるこっちが痛くなるくらいだった。俺が黙って手を伸ばすのへ、セレナがびっくりしたように空色の目を開く。そこにもう先の、邪竜と対峙したときのような気配はない。
セレナが微笑した。
「自分だけ気持ちよくなるのは申し訳ない? お師匠のそういう律儀なところ、好きですよ。でも、無理はしないでください。僕はお師匠のえっちな顔を思い出すだけで永遠に射精できるので」
「さっきも聞いた」
言いながら、俺はこすこすとセレナのそれを刺激するが、セレナは気持ちよさそうに鼻を鳴らすばかりだ。他人のなんて触ったことねえしどうしたものか。俺が内心頭を抱えていたときだった。
セレナが思いついたように俺の耳に口を寄せる。
口でしてくれてもいいんですよ……♡、とかふざけたことをぬかすので頭突きで答えてやった。調子に乗るんじゃねーよ。
+++
というやりとりをしていたのが2年前。改めて振り返ってみても腑に落ちないんだが、どういうわけか俺たちは自然にセックスをする間柄になっている。「俺と恋人同士になりたい」というセレナの野望が達成されたわけだ。いやまじで、何かに化かされてるような気分なんだが。
巫女ラリサ・リアが予言したくだんの4年後である。誰もがまさかと思っていた邪竜セス・レエナは本当に復活し、勇者である俺の旅立ちの日がやってきた。
「またあとで。お師匠」
「ああ。絶対帰ってくる約束はできねーが、……まあ、あとは頼むよ、セレナ」
今日を迎えるにあたって国王が盛大なパレードを提案してくれたが丁重に断った。俺も若かったから前回は自分が英雄になったみたいで誇らしくなったものだけど、俺は英雄になりたくて邪竜を倒しにいくわけじゃない。だから今、俺の出発を見送るのはセレナだけだ。
弟子になったときには14歳だったセレナも18歳になった。オリエンティアでは男子は18歳になると成人とみなされ、婚姻を許される。変態は相変わらずだが誰が見ても一人前の、立派な若者だ。とうとう背だけは追い抜かれずに済んだことを、俺はひそかに安堵している。背だけ勝ったところで閨じゃあこいつに好き勝手につっこまれてひーひー言わされてるんだから、つまんねー意地なんだが。
俺が帰ってこなかったら、俺にかまわず嫁さんをもらえよ。
遺言のように一度だけ口にして怒り狂ったセレナにひどい抱き方をされたのでそれは口にしない。あれはひどかった。たいていは俺が怒れば折れるセレナが、俺を縛って監禁して、どんなに俺が泣いても怒鳴ってもセックスをやめなかった。否、それ自体はいつものことだ。絶倫かと思うくらいセレナのセックスはしつこい。そして長い。俺が途中で気絶したり気づいたら夜明けだったなんてしょっちゅうで、それでも詫びるかわいげはあるのに、そのときのセレナは一言も俺に詫びる言葉を告げなかった。
物みたいに激しく抱きつぶされたわけでも、凌辱するみたいに乱暴にされたわけでもない。いつもの若さに任せたものじゃなくて、おそろしいくらい丁寧に優しくされただけだ。丁寧でやさしい。まだこいつのことを何も知らない頃の俺だったら、この年頃の少年らしい控えめでおとなしいセックスだと思ったかもしれない。
思い出すだけでぞっとする。あれは、本当にやばいやつだった。首を絞められて殺された方がよっぽどマシだったかもしれない。イってもイっても終わらなくて最後はすすり泣くしかできなかった。大の大人、それも天下の竜殺しの勇者だってのに俺は本気で泣いてセレナに謝った。マジで死ぬか、孕むかと思った。
「なんですか、お師匠。そんなに切なそうな顔をして……。ああ、わかった、出発前のセックスですね。かわいい人。僕が言い出すのを待っていたんですね。何しろこれから数日は僕なしで」
「違う」
食い気味に返すとセレナが「ええー」と不満そうにうなる。違う。(二回)
違うけど、まあ、たしかにしばらくのお別れにはなる。俺が邪竜と相打ちになればそれまで。今生のお別れだ。
そうだな、そう考えると少し別れがたいかもしれない。
俺は考えを改めた。ちょいちょいとジェスチャーでセレナを招くと、自分からキスをしてやる。
「いい子で待ってろよ、セレナ」
「お師匠……ッ」
僕、一度外でしてみたかったんです。
などと、興奮したセレナが俺を押し倒そうとしたので。
帰ってきたらな、と俺はその頭をつかんで地面に沈めてやった。本当にあいつの性欲はどうなってるんだ。
などとあきれながらも道中、いつもあるぬくもりのないことがさびしくなって、つい手が伸びてしまったのは秘密だ。
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