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第三幕

初合奏

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 メトロノームがカチカチとテンポを刻むなか、パートリーダーである智春の掛け声に合わせトランペットパートの合奏が始まった。

 いまはコンクールの課題曲を練習中である。智春は指定した場所まで演奏が進むと、そこで一旦止めた。

「そうだな……。沙織、そこはもうすこし歯切れ良く吹いて。あとそこ、舞花の息持たないならカンニングブレスしようか」

「それ、何ですか?」

「これは、ちょっとした小技みたいなもんだよ」

 智春は彼女のとなりに立って、楽譜に指を添わせながら説明をはじめた。

「あらかじめ、ブレスの位置って楽譜上で決まってるよね? このVみたいなとこ」

「はい」

「今回のフレーズ長いでしょ。舞花、息苦しくない?」

「苦しいです。最後まで音が出なくって……」

 初めてやる腹式呼吸も舞花はまだ慣れない様子で、苦しくなると肩で息をしてしまう場面が見られる。横隔膜をうまく動かせず、肺に十分空気を取り込めないようだった。

「フレーズの途中で切れるのは言語道断だけど、続いても音が弱々しくちゃダメなの」

「そうなんですかぁ」

「同じパートがふたり以上いたら、互いのブレスの位置をずらしてつながって聴こえるようにするんだよ。そしたら、どこで息してるかわからないでしょ?」

「なるほどぉ~!」

 舞花は目をキラキラさせて智春の説明に聞き入っている。新しい世界で新しい知識を存分に吸収していた。

「智春さん、すごいですねー」

「これはポピュラーな方法だから、俺がすごいわけじゃないよ」

 智春は舞花に微笑みかけ自分の席へ戻った。沙織は譜面を見て考えこんでいる。

「じゃあ……長いと大変だから、少し早めに舞花ここでブレスね。私はここでするから……」

 と、自分と舞花の楽譜に鉛筆で息継ぎの位置を書き直した。
 智春が彼女たちに他のアドバイスをする間、俊太はひとりで自分のパートを練習していた。

 たしかに俊太は上手い。楽譜に忠実に吹けている。智春は女子ふたりへの助言を終えると、俊太と自分を含めてもう一度同じ箇所の練習を続けた。

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