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第二幕
はじまりの歌
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智春たちCrescendoは、これからは部活に専念することに決まった。精一杯やって、自分たちの有終の美を飾ろうということで意見が一致したのである。
そんな彼らにも、新しい後輩ができた。翔鳳吹奏楽部に一年生が正式入部してきたのだ。
今年入った一年生は、十二名。
その中でも小柄できれいな顔立ちの少年が、部室へ入ってきた智春に笑顔を向けた。
「智春さん、おはようございます」
そして入れ違いで楽器と楽譜入れを持って廊下へ出る。彼は智春と同じトランペットの一年生、早瀬俊太。女子お待ちかねのイケメン後輩だ。ちなみに、一年男子は彼のほかにあと二人いる。
トランペットは小学校高学年からやっていたらしく、キャリアでは智春よりずっと上だ。
しかし彼がいた中学の吹奏楽部はかなり少人数だったので、課題曲なんてもちろん無いし、ここに来て知ったことも多々あるという。
廊下から、基礎練習を始めた俊太の音が聞こえてくる。
何事も朝は調子が出ない、というのが一般的かもしれないが、彼のトランペットはよく音が出ているし、入部したてとは思えないほどスラスラと練習をこなしていた。
智春がカバンを机におろすと、隣で慧が楽器を準備しているところだった。
「智春。おまえんとこの一年、入部したばっかで練習熱心だな」
「そうだな。トランペットでいえば俺より熟練みたいだから、俺の出る幕は無いかもね。そのぶん、初心者のほうに手をかけられるかなと思ってるけど」
「たしかに、テクニックは熟達してるよね。高音苦しそうじゃないし、音感も良いみたい」
彼はさりげなく俊太の音をチェックしていたようだ。ほかの上級生も音を聴いて表情が変わった。
朝練の音に加えて、悲鳴にも近い女子の黄色い声が聞こえてくる。
「俊太くん、可愛いうえにトランペット超上手い! 最っ高!」
「やばい、ホレちゃう!!」
俊太の登場で女子のテンションはMAXに。すでにお姉さま方のアイドル状態だ。
そんな女子たちを目にして、智春は若干引いている様子。
「……トランペット関係なく、俊太は人気みたいだね」
それに対し、慧はくやしそうに歯噛みしている。
「なんてこった。俺というセクシー担当がいるのに」
「空耳が聞こえた」
「おいっ。見えてんだろ! いますよー、ここに!!」
慧の叫びは無視して、智春は朝練の準備をすることにした。
隣で練習していた竜生がからかう。
「なんだ後輩に嫉妬してんのか? 慧」
「あ? なんで色気たっぷりの俺が嫉妬しなきゃいけねーの」
「バカだな。おめーのは変態っつんだよ」
「うるせー竜生! 悔しかったら、おまえも色気出してみろ」
また口喧嘩し始めたふたりへ、恭也が一言。
「おまえらじゃ、束になっても智春には勝てないと思うけどな……」
「―――っ!!!」
さすがに慧も竜生も、ぐうの音も出ないようだ。
新入生が入ったことで、少し人数が増えた翔鳳吹奏楽部は三十七名になった。
トランペットパートは、一年生が二人。俊太と初心者の女子だ。そこに智春と二年生の女子・紗織を合わせて、全部で四人。
俊太には最初から基礎練習とコンクール用の楽譜も渡して、上級生と一緒に練習を始めてもらうことになった。
もうひとりの一年生──西谷舞花は、智春が基礎を教えるつもりだ。
智春も高校から楽器を始めたパターンなので、智春のほうがわかりやすく教えられるのではないか、という提案である。
智春だけでなく、Crescendoメンバーは全員、高校から楽器を始めた連中だ。何の因果か彼らが同じ部活に入り、バンドを組むまでに至った。
俊太の音を聴きながら、智春は棚から自分の楽器を出し、軽くマウスピースを吹いた。
そして少し音出しをすると、おもむろに大会とは全く関係ない曲を演奏し始めた。
映画『アラジン』の主題歌『A Wholw New World』。智春のお気に入りだ。
それを聴いた慧と竜生も、すぐにタイミングを合わせて自分のパートを智春のトランペットに乗せてきた。
スネアを叩いていた恭也も、ドラムセットに移りビートを刻み始める。
ほかの三年生も混ざって、ちょっとしたセッション状態になった。
瑞穂はためらいがちにそれを見ている。
「ちょっと~、勝手にやるなって言われてるでしょ」
と言ったところで聞かないのだから、彼女もあきらめて見守るしかないのであった。
そんな彼らにも、新しい後輩ができた。翔鳳吹奏楽部に一年生が正式入部してきたのだ。
今年入った一年生は、十二名。
その中でも小柄できれいな顔立ちの少年が、部室へ入ってきた智春に笑顔を向けた。
「智春さん、おはようございます」
そして入れ違いで楽器と楽譜入れを持って廊下へ出る。彼は智春と同じトランペットの一年生、早瀬俊太。女子お待ちかねのイケメン後輩だ。ちなみに、一年男子は彼のほかにあと二人いる。
トランペットは小学校高学年からやっていたらしく、キャリアでは智春よりずっと上だ。
しかし彼がいた中学の吹奏楽部はかなり少人数だったので、課題曲なんてもちろん無いし、ここに来て知ったことも多々あるという。
廊下から、基礎練習を始めた俊太の音が聞こえてくる。
何事も朝は調子が出ない、というのが一般的かもしれないが、彼のトランペットはよく音が出ているし、入部したてとは思えないほどスラスラと練習をこなしていた。
智春がカバンを机におろすと、隣で慧が楽器を準備しているところだった。
「智春。おまえんとこの一年、入部したばっかで練習熱心だな」
「そうだな。トランペットでいえば俺より熟練みたいだから、俺の出る幕は無いかもね。そのぶん、初心者のほうに手をかけられるかなと思ってるけど」
「たしかに、テクニックは熟達してるよね。高音苦しそうじゃないし、音感も良いみたい」
彼はさりげなく俊太の音をチェックしていたようだ。ほかの上級生も音を聴いて表情が変わった。
朝練の音に加えて、悲鳴にも近い女子の黄色い声が聞こえてくる。
「俊太くん、可愛いうえにトランペット超上手い! 最っ高!」
「やばい、ホレちゃう!!」
俊太の登場で女子のテンションはMAXに。すでにお姉さま方のアイドル状態だ。
そんな女子たちを目にして、智春は若干引いている様子。
「……トランペット関係なく、俊太は人気みたいだね」
それに対し、慧はくやしそうに歯噛みしている。
「なんてこった。俺というセクシー担当がいるのに」
「空耳が聞こえた」
「おいっ。見えてんだろ! いますよー、ここに!!」
慧の叫びは無視して、智春は朝練の準備をすることにした。
隣で練習していた竜生がからかう。
「なんだ後輩に嫉妬してんのか? 慧」
「あ? なんで色気たっぷりの俺が嫉妬しなきゃいけねーの」
「バカだな。おめーのは変態っつんだよ」
「うるせー竜生! 悔しかったら、おまえも色気出してみろ」
また口喧嘩し始めたふたりへ、恭也が一言。
「おまえらじゃ、束になっても智春には勝てないと思うけどな……」
「―――っ!!!」
さすがに慧も竜生も、ぐうの音も出ないようだ。
新入生が入ったことで、少し人数が増えた翔鳳吹奏楽部は三十七名になった。
トランペットパートは、一年生が二人。俊太と初心者の女子だ。そこに智春と二年生の女子・紗織を合わせて、全部で四人。
俊太には最初から基礎練習とコンクール用の楽譜も渡して、上級生と一緒に練習を始めてもらうことになった。
もうひとりの一年生──西谷舞花は、智春が基礎を教えるつもりだ。
智春も高校から楽器を始めたパターンなので、智春のほうがわかりやすく教えられるのではないか、という提案である。
智春だけでなく、Crescendoメンバーは全員、高校から楽器を始めた連中だ。何の因果か彼らが同じ部活に入り、バンドを組むまでに至った。
俊太の音を聴きながら、智春は棚から自分の楽器を出し、軽くマウスピースを吹いた。
そして少し音出しをすると、おもむろに大会とは全く関係ない曲を演奏し始めた。
映画『アラジン』の主題歌『A Wholw New World』。智春のお気に入りだ。
それを聴いた慧と竜生も、すぐにタイミングを合わせて自分のパートを智春のトランペットに乗せてきた。
スネアを叩いていた恭也も、ドラムセットに移りビートを刻み始める。
ほかの三年生も混ざって、ちょっとしたセッション状態になった。
瑞穂はためらいがちにそれを見ている。
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