干支乱勢(えとらんぜ)~12人のおじさん格闘家、ケモミミ少女に異世界転生しバトルトーナメントに挑みます!~

たかはた睦

文字の大きさ
上 下
57 / 60
復活編

WILD THING

しおりを挟む
 スペル・リンピオとのマスカラ戦に敗れたエル・テンプラリオはマスクを脱ぎ、テクニコに転向《ターン》してリンピオとタッグを組み、GMLLを更に盛り上げていくことだろう……と、誰もがそう思ったが実際に起こった事は違った。

"スペル・リンピオ、テルオミ・ホシノ、GMLL退団”

 それは新聞やテレビのニュースで大きく報じられた。プロレスがマニアの趣味に留まっている日本とは違い、メキシコではルチャリブレが国民的娯楽である。絶大な人気を誇るエストレージャであるリンピオと、期待の新星・ホシノの退団はメキシコ中を震撼させた。

─メキシコシティ国際空港

「良かったのか?リコ。何もお前まで俺に付いてくる事は無いんだぜ?」

「シオドキってやつだよ。ルチャの業界にマフィアとの癒着が始まる前に、メキシコを離れ別の場所で新しいことを始めた方が良さそうだ」

 ソンブレロとスカーフで顔を隠したリカルドは星野の問いに答える。 二人はアメリカ行き飛行機の搭乗手続きを済ませて離陸を待っているところだった。

「それに、君がやろうとしている “計画《プラン》”も面白そうだ。ウノからの再スタートなんて不安もあるけど、それ以上にワクワクしてるのも事実だ」

「ウノじゃねえドスだ。俺とお前、二人のタッグならどんな事も乗り越えられる。少なくとも俺はそう思う」

「“迷わず行けよ、行けば解るさ!” ってやつだね」

「ああ。なんせ、旅はまだ始まったばかりだからな!」

 スペイン語と英語での機内アナウンスが流れた後、二人の乗る飛行機はメキシコの地から飛び立つ。

「「Adios y gracias,Mexico!!」」

 巨大な機影は、いつの間にかコンドルの様に小さな影となって夕焼けの向こうに飛んでゆく。



─アメリカ合衆国カリフォルニア州サンフランシスコ

「で、行くアテも無いからワタシの所に来たのカ?」

 アフロヘアーに忍び装束という怪しげな出で立ちの、浅黒い肌をした男。彼の名はマイケル・リー。かつて辰《ドラガォン》の干支乱勢として大武繪を闘い、テルこと星野と好勝負を繰り広げたマイその人だ。

「格好付けてメキシコから出てきたのはいいけどよ、俺たち二人ともアメリカに知り合いなんていないもんだからさ」

「キミなら助けてくれると思ったよ。ムチョス・グラシアス、マイ!」

 星野とリカルドは荷物と体を板張りの床に投げ出す。ここはマイケルが創始者の武術“孤漫道《コマンドー》”の道場。

「まだワタシは君たちを泊めるとは言ってないヨ!?」

「なあマイ、この道場って門下生はいるのか?」

「……これから増える予定ヨ」

 マイケルは主にスタントマン兼俳優として生計を立てており、道場主としての収入は無い状態が続いていた。

「じゃあ、僕達がこの道場を有名にする方法を教えるから、君も僕たちに協力してくれよ」

「……大体予想は出来るけど、一応聞こうじゃないカ」

「俺たちで、北米の色んなプロレス団体に上がって試合をするんだよ」

 星野の答えはマイケルの予想していたものだった。

「テル、ワタシはプロレスラーとして成功したいわけじゃないヨ?」

「まあそう言わずに。…今から十年もしない内に WeWの“ロッキー様”がプロレスラーからハリウッドスターに大出世するし、その更に10年後にはWeW で数回リングに上がった大富豪が大統領になるんだぞ」

「……本当カ!?」

「ああ。それだけアメリカのプロレスには夢が詰まってるんだ……?」

 その時だった。

「タノモーー!!」

 道場入り口から大きな声が聞こえる。

「こんな時間に入門者か?」

「いや、どちらかというと道場破りじゃないかな」

 星野とリカルドをその場に残し、マイケルは入り口へと向かい戸を開いた。

「ボンジュール!」

 そこに立っていたのは入れ墨だらけの筋骨隆々な白人男性。

「キミは……」

「ピエール・ド・ゴール!!」

 男の名はピエール・ド・ゴール。フランス人の格闘家であり、何人もの相手を病院送りにしてきた“壊し屋” として知られ、卯《ヘア》の干支乱勢ピエレとして大武繪に参戦していた。

「……何しに来た!?」

 マイケルは構える。

「何しに?ククク……決まってんだろ」

 ピエールもゆらりと動き出した。二人の間に緊張と戦慄、一触即発の空気が漂う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...