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復活編
WILD THING
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スペル・リンピオとのマスカラ戦に敗れたエル・テンプラリオはマスクを脱ぎ、テクニコに転向《ターン》してリンピオとタッグを組み、GMLLを更に盛り上げていくことだろう……と、誰もがそう思ったが実際に起こった事は違った。
"スペル・リンピオ、テルオミ・ホシノ、GMLL退団”
それは新聞やテレビのニュースで大きく報じられた。プロレスがマニアの趣味に留まっている日本とは違い、メキシコではルチャリブレが国民的娯楽である。絶大な人気を誇るエストレージャであるリンピオと、期待の新星・ホシノの退団はメキシコ中を震撼させた。
─メキシコシティ国際空港
「良かったのか?リコ。何もお前まで俺に付いてくる事は無いんだぜ?」
「シオドキってやつだよ。ルチャの業界にマフィアとの癒着が始まる前に、メキシコを離れ別の場所で新しいことを始めた方が良さそうだ」
ソンブレロとスカーフで顔を隠したリカルドは星野の問いに答える。 二人はアメリカ行き飛行機の搭乗手続きを済ませて離陸を待っているところだった。
「それに、君がやろうとしている “計画《プラン》”も面白そうだ。1からの再スタートなんて不安もあるけど、それ以上にワクワクしてるのも事実だ」
「ウノじゃねえ2だ。俺とお前、二人のタッグならどんな事も乗り越えられる。少なくとも俺はそう思う」
「“迷わず行けよ、行けば解るさ!” ってやつだね」
「ああ。なんせ、旅はまだ始まったばかりだからな!」
スペイン語と英語での機内アナウンスが流れた後、二人の乗る飛行機はメキシコの地から飛び立つ。
「「Adios y gracias,Mexico!!」」
巨大な機影は、いつの間にかコンドルの様に小さな影となって夕焼けの向こうに飛んでゆく。
─アメリカ合衆国カリフォルニア州サンフランシスコ
「で、行くアテも無いからワタシの所に来たのカ?」
アフロヘアーに忍び装束という怪しげな出で立ちの、浅黒い肌をした男。彼の名はマイケル・リー。かつて辰《ドラガォン》の干支乱勢として大武繪を闘い、テルこと星野と好勝負を繰り広げたマイその人だ。
「格好付けてメキシコから出てきたのはいいけどよ、俺たち二人ともアメリカに知り合いなんていないもんだからさ」
「キミなら助けてくれると思ったよ。ムチョス・グラシアス、マイ!」
星野とリカルドは荷物と体を板張りの床に投げ出す。ここはマイケルが創始者の武術“孤漫道《コマンドー》”の道場。
「まだワタシは君たちを泊めるとは言ってないヨ!?」
「なあマイ、この道場って門下生はいるのか?」
「……これから増える予定ヨ」
マイケルは主にスタントマン兼俳優として生計を立てており、道場主としての収入は無い状態が続いていた。
「じゃあ、僕達がこの道場を有名にする方法を教えるから、君も僕たちに協力してくれよ」
「……大体予想は出来るけど、一応聞こうじゃないカ」
「俺たちで、北米の色んなプロレス団体に上がって試合をするんだよ」
星野の答えはマイケルの予想していたものだった。
「テル、ワタシはプロレスラーとして成功したいわけじゃないヨ?」
「まあそう言わずに。…今から十年もしない内に WeWの“ロッキー様”がプロレスラーからハリウッドスターに大出世するし、その更に10年後にはWeW で数回リングに上がった大富豪が大統領になるんだぞ」
「……本当カ!?」
「ああ。それだけアメリカのプロレスには夢が詰まってるんだ……?」
その時だった。
「タノモーー!!」
道場入り口から大きな声が聞こえる。
「こんな時間に入門者か?」
「いや、どちらかというと道場破りじゃないかな」
星野とリカルドをその場に残し、マイケルは入り口へと向かい戸を開いた。
「ボンジュール!」
そこに立っていたのは入れ墨だらけの筋骨隆々な白人男性。
「キミは……」
「ピエール・ド・ゴール!!」
男の名はピエール・ド・ゴール。フランス人の格闘家であり、何人もの相手を病院送りにしてきた“壊し屋” として知られ、卯《ヘア》の干支乱勢ピエレとして大武繪に参戦していた。
「……何しに来た!?」
マイケルは構える。
「何しに?ククク……決まってんだろ」
ピエールもゆらりと動き出した。二人の間に緊張と戦慄、一触即発の空気が漂う。
"スペル・リンピオ、テルオミ・ホシノ、GMLL退団”
それは新聞やテレビのニュースで大きく報じられた。プロレスがマニアの趣味に留まっている日本とは違い、メキシコではルチャリブレが国民的娯楽である。絶大な人気を誇るエストレージャであるリンピオと、期待の新星・ホシノの退団はメキシコ中を震撼させた。
─メキシコシティ国際空港
「良かったのか?リコ。何もお前まで俺に付いてくる事は無いんだぜ?」
「シオドキってやつだよ。ルチャの業界にマフィアとの癒着が始まる前に、メキシコを離れ別の場所で新しいことを始めた方が良さそうだ」
ソンブレロとスカーフで顔を隠したリカルドは星野の問いに答える。 二人はアメリカ行き飛行機の搭乗手続きを済ませて離陸を待っているところだった。
「それに、君がやろうとしている “計画《プラン》”も面白そうだ。1からの再スタートなんて不安もあるけど、それ以上にワクワクしてるのも事実だ」
「ウノじゃねえ2だ。俺とお前、二人のタッグならどんな事も乗り越えられる。少なくとも俺はそう思う」
「“迷わず行けよ、行けば解るさ!” ってやつだね」
「ああ。なんせ、旅はまだ始まったばかりだからな!」
スペイン語と英語での機内アナウンスが流れた後、二人の乗る飛行機はメキシコの地から飛び立つ。
「「Adios y gracias,Mexico!!」」
巨大な機影は、いつの間にかコンドルの様に小さな影となって夕焼けの向こうに飛んでゆく。
─アメリカ合衆国カリフォルニア州サンフランシスコ
「で、行くアテも無いからワタシの所に来たのカ?」
アフロヘアーに忍び装束という怪しげな出で立ちの、浅黒い肌をした男。彼の名はマイケル・リー。かつて辰《ドラガォン》の干支乱勢として大武繪を闘い、テルこと星野と好勝負を繰り広げたマイその人だ。
「格好付けてメキシコから出てきたのはいいけどよ、俺たち二人ともアメリカに知り合いなんていないもんだからさ」
「キミなら助けてくれると思ったよ。ムチョス・グラシアス、マイ!」
星野とリカルドは荷物と体を板張りの床に投げ出す。ここはマイケルが創始者の武術“孤漫道《コマンドー》”の道場。
「まだワタシは君たちを泊めるとは言ってないヨ!?」
「なあマイ、この道場って門下生はいるのか?」
「……これから増える予定ヨ」
マイケルは主にスタントマン兼俳優として生計を立てており、道場主としての収入は無い状態が続いていた。
「じゃあ、僕達がこの道場を有名にする方法を教えるから、君も僕たちに協力してくれよ」
「……大体予想は出来るけど、一応聞こうじゃないカ」
「俺たちで、北米の色んなプロレス団体に上がって試合をするんだよ」
星野の答えはマイケルの予想していたものだった。
「テル、ワタシはプロレスラーとして成功したいわけじゃないヨ?」
「まあそう言わずに。…今から十年もしない内に WeWの“ロッキー様”がプロレスラーからハリウッドスターに大出世するし、その更に10年後にはWeW で数回リングに上がった大富豪が大統領になるんだぞ」
「……本当カ!?」
「ああ。それだけアメリカのプロレスには夢が詰まってるんだ……?」
その時だった。
「タノモーー!!」
道場入り口から大きな声が聞こえる。
「こんな時間に入門者か?」
「いや、どちらかというと道場破りじゃないかな」
星野とリカルドをその場に残し、マイケルは入り口へと向かい戸を開いた。
「ボンジュール!」
そこに立っていたのは入れ墨だらけの筋骨隆々な白人男性。
「キミは……」
「ピエール・ド・ゴール!!」
男の名はピエール・ド・ゴール。フランス人の格闘家であり、何人もの相手を病院送りにしてきた“壊し屋” として知られ、卯《ヘア》の干支乱勢ピエレとして大武繪に参戦していた。
「……何しに来た!?」
マイケルは構える。
「何しに?ククク……決まってんだろ」
ピエールもゆらりと動き出した。二人の間に緊張と戦慄、一触即発の空気が漂う。
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