干支乱勢(えとらんぜ)~12人のおじさん格闘家、ケモミミ少女に異世界転生しバトルトーナメントに挑みます!~

たかはた睦

文字の大きさ
上 下
56 / 60
復活編

BUSHI-DO

しおりを挟む
 GMLL無差別級選手権2本目は熾烈な攻防の末、リンピオがテンプラリオのテンドン・ ディナミタをカサドーラで切り返して3カウントを奪った。残る1本を制した方がこの選手権《カンペオナート》の勝者となる。だが二人にとって、もはや勝ち負けなど、どうでも良かった。ベルトを得るも失うも、マスク を剥がされようとも、そんな事は些末に思えるほど、この相手との試合はのだ。
 スペル・リンピオことリカルド・ムニョス・ゴンザレスが15歳からルチャドールとして試合をしてきた十数年の、如何なる相手よりも手が合うのだ。初めて試合をするはずなのに、以前から知っている親友《アミーゴ》の様な感覚が、エル・テンプラリオという男にはあった。
 何発チョップとキックを打ち合い、何度関節技ジャベを掛け合い、何回ロープから飛んだだろう。

「(打撃と関節技はともかく、跳び技は俺の専門外だっつうの)」

 先に疲労が見えたのはテンプラリオであった。

「エス・エル・フィン!(終わりだ!)」

 テンプラリオがそう叫ぶとともに大振りのラリアットを放つ。覆面の奥にある瞳をかっと見開いたリンピオは、テンプラリオの右腕を屈んで潜り避け、背後に回るとティヘラの要領でテンプラリオの首に飛びつく。そして頭部を両足で挟むと水平方向へプロペラの如く回転。所謂《いわゆる》「人工衛星ヘッドシザース」と呼ばれる動きである。3回転ほどした後、リンピオは地に足を着く事なくテンプラリオの左腕と左肩を掴み、前へと倒す。そしてそのまま脇固めの形に極める。

『ついに出た!スペル・リンピオの必殺技“ラ・ミスティカ”だーーー!!!』

 ラ・ミスティカを受けたテンプラリオは、たまらず右手でリングのマットを数回叩く。タップアウト、つまりは降参の合図だ。

『激闘を制したのは我らがヒーロー、スペル・リンピオだ!しかし、テンプラリオもルードらしからぬクリーンファイトでリンピオにあと一歩まで迫ったぞー!!それでは、マスカラ・コントラ・マスカラの掟に従って、この男の正体を暴く時だー!!』

 テンプラリオはマスクの後部で編んである紐を解いてゆく。紐が緩んだマスクの頭頂部を掴み、一気に引っ張って脱ぐと、星野輝臣の素顔が顕れる。

「久しぶりだな、リコ!」

 笑顔でそう言う星野に対してリンピオは

「¿Quién eres?(誰だ、君は?)」

 と、首を傾げる。それもそのはず、リンピオがリコとして出会ったテルはネズミの耳を生やした少女の姿である。髭を生やした大男とは初対面なのだから。

『何と、テンプラリオの正体は日本人《ハポネス》だった!しかも、この男はレスリング金メダリストのテルオミ・ホシノじゃないかーー!!!』

 因みに実況は予めテンプラリオの正体を知っていた上で、大袈裟に驚いた様な演技をしている。

「テルオミ……テル!テルなのか!?」
「やっと、思い出したみてえだな!」

 リンピオの記憶に酉の干支乱勢リコとしての記憶が蘇る。

「Mucho tiempo sin verlo,amigo久し振りだな!アミーゴ!!!」

「はははっ!スペイン語はよく解んねえけど、またこうやって会えて嬉しいぜ!!」

 リング上で抱き合う二人は互いの健闘を称え合う様に見える事だろう。転生と復活を経て培われた魂の友情を知るのは、本人達のみである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...