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復活編
AMENO
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─メキシコシティ アレナメヒコ
メキシコ最大のルチャリブレ団体GMLL。そのGMLL が所有する大会場、それがアレナメヒコである。この日はテクニコ (善玉)のGMLL正規軍対ルード (悪役) 軍団ラ・マエストロ・デル・マルの6人タッグマッチがセミファイナルで行われていた。
中世風バケツヘルメットを象ったマスクにエビの天麩羅を飾り付けた変なマスクを被った“変な”マスクマン『エル・テンプラリオ』はルードでありながら、高度なレスリングテクニックを持っていた。
『さあ、テクニコ対ルードのシックスメンタッグマッチ3本勝負も3本目!勝つのはテクニコか?それともルードなのか?』
陽気なメキシコの国民性故か、実況も日本のプロレスより明るく楽しげな印象を受ける。
リング上ではテンプラリオがテクニコ側のルチャドール“不死身仮面二世”こと『イホ・デ・アズテカ』をファイヤーマンズキャリーの要領で抱えていた。そして、相手の首を支点に縦方向へ半回転させながら尻餅を突き、相手の背中をリングに叩き付ける。
『決まったー!エル・テンプラリオの必殺技“テンドン・ディナミタ”(天井ダイナマイト)』だーー!!』
そしてすかさずフォールに移ると、テンプラリオはアズテカから3カウントを奪った。
『勝ったのはルードだ!しかも新参者のテンプラリオが負け知らずの5連勝!彼は一体、何者なのかー!?』
一週間ほど前、突如GMLLマットに現れた謎のマスクマン、エル・テンプラリオ。年齢も出身地も一切不明。解っているのは彼がルードという事だけだった……
試合後のルード側控え室で、マスクを脱ごうとするテンプラリオに声を掛ける男が一人。
「お疲れさん、星野くん」
テンプラリオのマスクの下から現れた顔は星野輝臣その人ではないか。
「OKAMURAさん、お疲れ様です!」
OKAMURAと呼ばれた男は本名を岡村嘉洋《おかむらよしひろ》。メキシコで20年ルチャドールをしている日本人だ。
「田山さんから君を紹介された時は驚いたが、さすがアマレス金メダリストだ。ルチャにも順応するのが早いね!」
真日本プロレスを解雇された星野が再々スタートを切る新天地となったのはメキシコ。彼をスカウトした師である田山聡一はメキシコにも人脈を持っていた。そして、せめてもの餞《はなむけ》として星野をGMLLへと紹介したのであった。
「ルチャはアマレスとも、日本のプロレスとも違うから、慣れるのは大変でしたよ。……というか、俺はいつまでこの変なマスクを彼らなきゃいけないんです?」
星野は天麩羅の付いた神殿騎士《テンプラリオ》風のマスクを見る。
「GMLLの方針だから仕方ないよ。マスクマンにとってマスクは命なんだから、そんなダサいマスクでも大切にしな」
やはりOKAMURAもテンプラのマスクをダサいと思っていたようだ。
「OKAMURAさんはマスクを被らないんです?」
「俺も昔はマスクマンだったよ。でも、マスカラ・コントラ・マスカラで負けちゃったからもうマスクは被れないのさ」
マスカラ・コントラ・マスカラ。日本語に訳すと「敗者覆面剥ぎマッチ」である。この勝負で負けた者は二度と同じマスクとリングネームが使えなくなるという、マスクマンにとってはリスクの高い闘いとなる。
なお、マスクを被ってないルチャドールはマスクの代わりに己の頭髪(カベジェラ)を賭け、負けると丸坊主にされる。この場合は試合形式もマスクマン 対素顔ならマスカラ・コントラ・カベジェラ、素顔同士ならカベジェラ・コントラ・カベジェラとなる。
「マスカラ・コントラ・マスカラかぁ……」
星野は何やら思い付いた様な顔でにやりとほくそ笑む。
「じゃあOKAMURAさん、俺ちょっとメインの試合を見てきますんで」
星野はテンプラリオのマスクを被ると、 再びリングのある場内へと走ってゆく。
「勉強熱心だな、星野君は」
OKAMURAはそう思った。だが、星野には別の目的があったのだ。
再びアレナメヒコの会場内。この日のメインイベントはGMLL世界無差別級王座のタイトルマッチだ。
盛り上がりを見せる場内で、まず入場してきたのは挑戦者エル・ブロンコ・ジュニオ。端正な顔立ちとルチャドールには珍しく大柄なヘビー級のテクニコだ。
そして、ブロンコ・ジュニオ以上に大きな拍手と歓声に迎えられながら入場してきたのがチャンピオン。赤・白・緑のメキシコ国旗カラーに翼を広げた鷹《ハルコン》を象ったマスク姿の男……
「スペルゥ~~リン~~ビオ~~~!!!」
リングアナウンサーがコールしたその名こそ、GMLLのスペル・エストレージャ(スーパースター)、スペル・リンピオ。
「やっと見付けたぜ……リコ!」
通路の陰からリングを覗くマスクマン、エル・テンプラリオこと星野。
リング上のスペル・リンピオは彼が異世界パントドンで初の友となった酉の干支乱勢リコの本来の姿なのだ。
メキシコ最大のルチャリブレ団体GMLL。そのGMLL が所有する大会場、それがアレナメヒコである。この日はテクニコ (善玉)のGMLL正規軍対ルード (悪役) 軍団ラ・マエストロ・デル・マルの6人タッグマッチがセミファイナルで行われていた。
中世風バケツヘルメットを象ったマスクにエビの天麩羅を飾り付けた変なマスクを被った“変な”マスクマン『エル・テンプラリオ』はルードでありながら、高度なレスリングテクニックを持っていた。
『さあ、テクニコ対ルードのシックスメンタッグマッチ3本勝負も3本目!勝つのはテクニコか?それともルードなのか?』
陽気なメキシコの国民性故か、実況も日本のプロレスより明るく楽しげな印象を受ける。
リング上ではテンプラリオがテクニコ側のルチャドール“不死身仮面二世”こと『イホ・デ・アズテカ』をファイヤーマンズキャリーの要領で抱えていた。そして、相手の首を支点に縦方向へ半回転させながら尻餅を突き、相手の背中をリングに叩き付ける。
『決まったー!エル・テンプラリオの必殺技“テンドン・ディナミタ”(天井ダイナマイト)』だーー!!』
そしてすかさずフォールに移ると、テンプラリオはアズテカから3カウントを奪った。
『勝ったのはルードだ!しかも新参者のテンプラリオが負け知らずの5連勝!彼は一体、何者なのかー!?』
一週間ほど前、突如GMLLマットに現れた謎のマスクマン、エル・テンプラリオ。年齢も出身地も一切不明。解っているのは彼がルードという事だけだった……
試合後のルード側控え室で、マスクを脱ごうとするテンプラリオに声を掛ける男が一人。
「お疲れさん、星野くん」
テンプラリオのマスクの下から現れた顔は星野輝臣その人ではないか。
「OKAMURAさん、お疲れ様です!」
OKAMURAと呼ばれた男は本名を岡村嘉洋《おかむらよしひろ》。メキシコで20年ルチャドールをしている日本人だ。
「田山さんから君を紹介された時は驚いたが、さすがアマレス金メダリストだ。ルチャにも順応するのが早いね!」
真日本プロレスを解雇された星野が再々スタートを切る新天地となったのはメキシコ。彼をスカウトした師である田山聡一はメキシコにも人脈を持っていた。そして、せめてもの餞《はなむけ》として星野をGMLLへと紹介したのであった。
「ルチャはアマレスとも、日本のプロレスとも違うから、慣れるのは大変でしたよ。……というか、俺はいつまでこの変なマスクを彼らなきゃいけないんです?」
星野は天麩羅の付いた神殿騎士《テンプラリオ》風のマスクを見る。
「GMLLの方針だから仕方ないよ。マスクマンにとってマスクは命なんだから、そんなダサいマスクでも大切にしな」
やはりOKAMURAもテンプラのマスクをダサいと思っていたようだ。
「OKAMURAさんはマスクを被らないんです?」
「俺も昔はマスクマンだったよ。でも、マスカラ・コントラ・マスカラで負けちゃったからもうマスクは被れないのさ」
マスカラ・コントラ・マスカラ。日本語に訳すと「敗者覆面剥ぎマッチ」である。この勝負で負けた者は二度と同じマスクとリングネームが使えなくなるという、マスクマンにとってはリスクの高い闘いとなる。
なお、マスクを被ってないルチャドールはマスクの代わりに己の頭髪(カベジェラ)を賭け、負けると丸坊主にされる。この場合は試合形式もマスクマン 対素顔ならマスカラ・コントラ・カベジェラ、素顔同士ならカベジェラ・コントラ・カベジェラとなる。
「マスカラ・コントラ・マスカラかぁ……」
星野は何やら思い付いた様な顔でにやりとほくそ笑む。
「じゃあOKAMURAさん、俺ちょっとメインの試合を見てきますんで」
星野はテンプラリオのマスクを被ると、 再びリングのある場内へと走ってゆく。
「勉強熱心だな、星野君は」
OKAMURAはそう思った。だが、星野には別の目的があったのだ。
再びアレナメヒコの会場内。この日のメインイベントはGMLL世界無差別級王座のタイトルマッチだ。
盛り上がりを見せる場内で、まず入場してきたのは挑戦者エル・ブロンコ・ジュニオ。端正な顔立ちとルチャドールには珍しく大柄なヘビー級のテクニコだ。
そして、ブロンコ・ジュニオ以上に大きな拍手と歓声に迎えられながら入場してきたのがチャンピオン。赤・白・緑のメキシコ国旗カラーに翼を広げた鷹《ハルコン》を象ったマスク姿の男……
「スペルゥ~~リン~~ビオ~~~!!!」
リングアナウンサーがコールしたその名こそ、GMLLのスペル・エストレージャ(スーパースター)、スペル・リンピオ。
「やっと見付けたぜ……リコ!」
通路の陰からリングを覗くマスクマン、エル・テンプラリオこと星野。
リング上のスペル・リンピオは彼が異世界パントドンで初の友となった酉の干支乱勢リコの本来の姿なのだ。
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