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大会編
燃えよ荒鷲
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『激しい攻防から、何とも拍子抜けな結果となった戦いを制し、準決勝へと駒を進めたのは巳国のヒカル選手!このDブロック二回戦を制した方が準決勝にてヒカル選手と闘います!』
『黒鼈の門から、午《ンマ》国・アサヒの入場だよ!』
化粧まわしを着け、ユニコーンとロバの獣人を伴って入場したのはアサヒ。リングサイドで持っていた塩を撒いた後、リングへ上がると四股を踏む。
『アサヒは幼少期から“ブフ”というモンゴルの組技格闘技を始め、15歳で日本へ相撲の特待生として留学。高校卒業と同時に角界入りしてその後、大相撲の頂点である横綱へと辿り着いたと実力者。一回戦 では丑《ブル》国の干支乱勢・シンを張り手一発で秒殺したほどの猛者だよ』
『続いて紅禽の門より、酉《ハルコン》国・リコ選手の入場です!!』
ペンギンとエミューの鳥人を伴い入場したリコは、頭にメキシコ国旗を象った覆面……転生前の姿であるスペル・リンピオのマスクを被っていた。そして、リングに上がりエプロンからコーナーポストへひと跳びで登ると、被っていたマスクを取る。
すると、その下には冠羽を頭から生やし、目元と側頭部を覆ったマスクのリコが顔を出した。脱いだのは二重覆面《オーバーマスク》。そして、それを観客席へと放り投げる。メキシコではルチャドールがよく行うパフォーマンスだった。
『さて、 リコ選手は一回戦シードだったので我々は戦いぶりを見ておりませんが、 リコ選手のファイタスタイル「ルチャリブレ」というのは、どのようなものなのでしょうか?』
『ルチャリブレ自体は地球のスペイン語って言語で「自由な戦い」って意味なんだけど、簡単に言えばメキシコって国のプロレスだね』
『プロレス……という事は、子《ゲッシ》国のテル選手と同じですか!?』
『プロレスにも大きく分けて3種類。 アメリカン、格闘プロレス、ルチャの3つがあって、どれも源流は同じプロレスでも闘い方が違うんだよ』
アメリカンはプロレス生誕の地とされるアメリカで古来より行われてきたスタイルであり、通常はプロレスと言えばこのアメリカンスタイルを指す。
そのアメリカンプロレスのエンターテイメント性から脱却しようと確立されたのが“格闘プロレス”であり、後の総合格闘技へと進化を遂げ、今や格闘プロレスをメインに行う団体はごく少ないミッシング・リンクである。
そして、ルチャリブレはアメリカンプロレスを祖先に持ちながら、メキシコの地で独自の進化を遂げたプロレスの形である。
ルチャリブレのプロレスラー“ルチャドール”には覆面を被った者が多い。これは、かつてメキシコの地に栄えたアステカ帝国で儀式に使われた仮面が元になっているとも言われており、アステカの戦士を善玉(テクニコ)、侵略者であるスペイン人を悪玉 (ルード) に見立てた芝居のような演目で試合をしていた名残でもある。
『そしてルチャリブレの歴史は150年にも及ぶんだよ』
『アサヒ選手の 「大相撲」には300年ほどの歴史があると聞きますね』
「ふん、モンゴルとメキシコ、相撲とプロレス、そこに何年歴史があろうと関係なか!あるんわおいどん達個人の歴史にゴワス」
「セニョール、 君が死んだときの年齢は?」
「四十にごわす」
「ワオ、僕と同じじゃないか!」
「奇遇にごわすな。これはおいどんとぬしゃ、男と男の四十年をぶつけ合う闘いにごわす!」
「悔いのない闘いをしようぜ、アサヒ!」
リコとアサヒはお互いのを軽くぶつけ合う。リコことリカルド・ムニョス・ゴンザレスと、アサヒことブャンバスレン・グルジャルガル。二人の男が雌雄を決する仕合のゴングが鳴り響く。
ゴングと同時に仕掛けたのはアサヒ。突進とともに右の突っ張りがリコの顔面を襲う。
『おおっとアサヒ選手、先の一回戦でシン選手を葬った必殺の張り手!!リコ選手もこの張り手の餌食となってしまうのかーー!?』
実況の言うとおり、アサヒの張り手はリコの顔面に直撃し、リコの体は盛大に吹っ飛んだ。
「軽か……」
アサヒが自らの掌を見て呟いた後、リコは宙を舞いながらバク宙の要領で後方へ回転し、両足で着地。そして両手を広げ、「効いてない」と言わんばかりのポーズ。それを見て観客達はオオッ、とどよめく。
「ぬしゃ、おいどんの張り手が当たる瞬間にワザと後ろへ跳んだでゴワスな!?」
アサヒがリコを指差し、問う。
『アサヒの張り手をまともに食らったらかなりのダメージを受ける……リコはそう判断して、後ろの飛び退いてダメージを減らすと同時に観客の心を掴むパフォーマンスに出たんだね』
リコの思惑はヒナコの解説する通りだった。
「男の本気を懸けた仕合で何をふざけよっとか!!」
アサヒは憤慨するが、
「ふざけてなどいないさ。ルチャドールは本気でお客さんを楽しませる為の闘いをしているんだ。ただ単に相手の攻撃を避けるだけなんて、僕の信条に反するからね」
リコもテルと同じくプロレスのリングに立つ者である。相手の攻撃をただ避けるだけでなく、受けねばならない。それはルチャリブレもまたプロレスである以上、「受けの美学」が存在するが故に他ならない。
「日本《ハポン》からメキシコへ修行に来たレスラーが言ってたよ。そう言うの、日本のプロレスでは「ショッパイ」って言うんだってさ」
日本で最初にプロレス団体を興した男・道力山(みちりきやま)は、元々大相撲の力士であった。相撲で負けた者は土俵の塩を舐めるという事に由来し、道力山は情けない様子を「しょっぱい」と言い、そこから情けない試合及びレスラーを「しょっぱい」「塩」と呼ぶのが日本プロレス界独自のスラングとして広まったのだ。
『因みに日本のプロレス団体が道場での食事にちゃんこ鍋を食べるのも道力山が持ち込んだ相撲の文化なんだってさー』
「なるほど。相撲とプロレスには少しばかりではあるが、縁があったでゴワスか。……リコよ、ぬしがプロレスとルチャを背負って闘うなら、おいどんもブフ(モンゴル相撲)と大相撲の誇りに懸けて全力でいくでゴワス!!」
アサヒはまわしをスパンと叩き、構え直す。
『黒鼈の門から、午《ンマ》国・アサヒの入場だよ!』
化粧まわしを着け、ユニコーンとロバの獣人を伴って入場したのはアサヒ。リングサイドで持っていた塩を撒いた後、リングへ上がると四股を踏む。
『アサヒは幼少期から“ブフ”というモンゴルの組技格闘技を始め、15歳で日本へ相撲の特待生として留学。高校卒業と同時に角界入りしてその後、大相撲の頂点である横綱へと辿り着いたと実力者。一回戦 では丑《ブル》国の干支乱勢・シンを張り手一発で秒殺したほどの猛者だよ』
『続いて紅禽の門より、酉《ハルコン》国・リコ選手の入場です!!』
ペンギンとエミューの鳥人を伴い入場したリコは、頭にメキシコ国旗を象った覆面……転生前の姿であるスペル・リンピオのマスクを被っていた。そして、リングに上がりエプロンからコーナーポストへひと跳びで登ると、被っていたマスクを取る。
すると、その下には冠羽を頭から生やし、目元と側頭部を覆ったマスクのリコが顔を出した。脱いだのは二重覆面《オーバーマスク》。そして、それを観客席へと放り投げる。メキシコではルチャドールがよく行うパフォーマンスだった。
『さて、 リコ選手は一回戦シードだったので我々は戦いぶりを見ておりませんが、 リコ選手のファイタスタイル「ルチャリブレ」というのは、どのようなものなのでしょうか?』
『ルチャリブレ自体は地球のスペイン語って言語で「自由な戦い」って意味なんだけど、簡単に言えばメキシコって国のプロレスだね』
『プロレス……という事は、子《ゲッシ》国のテル選手と同じですか!?』
『プロレスにも大きく分けて3種類。 アメリカン、格闘プロレス、ルチャの3つがあって、どれも源流は同じプロレスでも闘い方が違うんだよ』
アメリカンはプロレス生誕の地とされるアメリカで古来より行われてきたスタイルであり、通常はプロレスと言えばこのアメリカンスタイルを指す。
そのアメリカンプロレスのエンターテイメント性から脱却しようと確立されたのが“格闘プロレス”であり、後の総合格闘技へと進化を遂げ、今や格闘プロレスをメインに行う団体はごく少ないミッシング・リンクである。
そして、ルチャリブレはアメリカンプロレスを祖先に持ちながら、メキシコの地で独自の進化を遂げたプロレスの形である。
ルチャリブレのプロレスラー“ルチャドール”には覆面を被った者が多い。これは、かつてメキシコの地に栄えたアステカ帝国で儀式に使われた仮面が元になっているとも言われており、アステカの戦士を善玉(テクニコ)、侵略者であるスペイン人を悪玉 (ルード) に見立てた芝居のような演目で試合をしていた名残でもある。
『そしてルチャリブレの歴史は150年にも及ぶんだよ』
『アサヒ選手の 「大相撲」には300年ほどの歴史があると聞きますね』
「ふん、モンゴルとメキシコ、相撲とプロレス、そこに何年歴史があろうと関係なか!あるんわおいどん達個人の歴史にゴワス」
「セニョール、 君が死んだときの年齢は?」
「四十にごわす」
「ワオ、僕と同じじゃないか!」
「奇遇にごわすな。これはおいどんとぬしゃ、男と男の四十年をぶつけ合う闘いにごわす!」
「悔いのない闘いをしようぜ、アサヒ!」
リコとアサヒはお互いのを軽くぶつけ合う。リコことリカルド・ムニョス・ゴンザレスと、アサヒことブャンバスレン・グルジャルガル。二人の男が雌雄を決する仕合のゴングが鳴り響く。
ゴングと同時に仕掛けたのはアサヒ。突進とともに右の突っ張りがリコの顔面を襲う。
『おおっとアサヒ選手、先の一回戦でシン選手を葬った必殺の張り手!!リコ選手もこの張り手の餌食となってしまうのかーー!?』
実況の言うとおり、アサヒの張り手はリコの顔面に直撃し、リコの体は盛大に吹っ飛んだ。
「軽か……」
アサヒが自らの掌を見て呟いた後、リコは宙を舞いながらバク宙の要領で後方へ回転し、両足で着地。そして両手を広げ、「効いてない」と言わんばかりのポーズ。それを見て観客達はオオッ、とどよめく。
「ぬしゃ、おいどんの張り手が当たる瞬間にワザと後ろへ跳んだでゴワスな!?」
アサヒがリコを指差し、問う。
『アサヒの張り手をまともに食らったらかなりのダメージを受ける……リコはそう判断して、後ろの飛び退いてダメージを減らすと同時に観客の心を掴むパフォーマンスに出たんだね』
リコの思惑はヒナコの解説する通りだった。
「男の本気を懸けた仕合で何をふざけよっとか!!」
アサヒは憤慨するが、
「ふざけてなどいないさ。ルチャドールは本気でお客さんを楽しませる為の闘いをしているんだ。ただ単に相手の攻撃を避けるだけなんて、僕の信条に反するからね」
リコもテルと同じくプロレスのリングに立つ者である。相手の攻撃をただ避けるだけでなく、受けねばならない。それはルチャリブレもまたプロレスである以上、「受けの美学」が存在するが故に他ならない。
「日本《ハポン》からメキシコへ修行に来たレスラーが言ってたよ。そう言うの、日本のプロレスでは「ショッパイ」って言うんだってさ」
日本で最初にプロレス団体を興した男・道力山(みちりきやま)は、元々大相撲の力士であった。相撲で負けた者は土俵の塩を舐めるという事に由来し、道力山は情けない様子を「しょっぱい」と言い、そこから情けない試合及びレスラーを「しょっぱい」「塩」と呼ぶのが日本プロレス界独自のスラングとして広まったのだ。
『因みに日本のプロレス団体が道場での食事にちゃんこ鍋を食べるのも道力山が持ち込んだ相撲の文化なんだってさー』
「なるほど。相撲とプロレスには少しばかりではあるが、縁があったでゴワスか。……リコよ、ぬしがプロレスとルチャを背負って闘うなら、おいどんもブフ(モンゴル相撲)と大相撲の誇りに懸けて全力でいくでゴワス!!」
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