19 / 60
大会編
DESTRUCTIVE POWER
しおりを挟む
ゴングと同時に両雄は相手に向かって疾駆。そして、殴る!殴る!蹴る!殴る!打撃の嵐。 地上で最も危険な格闘技と、最も危険な格闘家の邂逅がこうなる事は避けられなかっただろう。
『これは両者とも凄まじいラッシュです!最後まで立っているのはどっちだ!?』
打撃を顔面に浴びながらもウィンは思い出していた。故郷ミャンマーにて、敬虔な仏教徒として神仏を尊び、自己を研鑽しながら生きた日々を。
しかし、それを壊される日が訪れた。軍によるクーデターである。民主主義を訴える国民達は、守られるべきであるはずの軍隊によって一方的に射殺されたのだ。
民主化運動の活動家を寺院に匿ったとして僧侶ウィンサンもまた、殺される事となる。無力な命を救うため、彼は抗った。だがラウェイは銃器の前では余りにも無力だったのだ。
「俺は…今度こそ守るのだ!救えなかった命を!仏の教えを!!」
ウィンの肘打ちがピエレの鼻っ柱に直撃した。予期せぬ衝撃によろめくも、ピエレは笑みを浮かべて体勢を立て直す。
「痛ぇじゃねえか……よォ!!」
ピエレの反撃。だが、それは今までと同じパンチではなかった。オープンフィンガーグロ ープから出た五本の指を伸ばしたまま、右手でウィンの顔面を狙う。 目潰し(サミング)だ!表の格闘技界では禁じ手だが、ピエレが生前闘っていた地下格闘技界、そしてこの干支乱大武繪では何ら咎められることの無い手段。故にピエレには迷いが無い。相手の眼球を潰す事にも、光を奪う事にも。
指先に伝わる柔らかい粘膜の感触。だが、それはいつもとは違った。利那、襲い来る激痛!
「があああああああああっっっ」
痛みに叫ぶピエレ。その右手は人差し指、中指、薬指の3本が確かにウィンの顔にある穴には到達している。 が、その穴は口腔。眼窩ではない。3本の指はイノシシの咬合力を持つウィンの歯によって捕らえられているではないか。
「ふんッ」
ウィンの発した声の後にぽきりと音がし、彼は口を開けピエレの手を解放した。
「指が折れた状態でまだ続けるかね」
右手の先端、第二関節まで折られた指を押さえてうずくまるピエレに問うウィン。
「誰が……参ったなんぞするか、 クソ野郎が!!」
だが、右手はもう握り込めない。残る攻撃手段は左手と両足。左手だけのパンチで五体満足のウィン相手に攻撃が届くだろうか。いや、当たるどころか反撃すらもらう事だろう。ならばウサギの能力である跳躍力、これを活かし足技に懸けるしかない。ピエレは中腰の状態から、跳ねた。予想外の動きに反応の遅れたウィンに対し、ピエレは右の膝を顎に叩き込むつもりである。
「ぬおうッ!」
ピエレの右膝はウィンの顔に直撃した。しかし、当たった所は顎ではなく額。 ウィンがカウンター気味に頭突きを合わせたのだ。背中から受け身も取れずリングに落下したピエレは右手と、骨折の痛む左手で右膝を押さえながらもがく。
「他の干支乱勢ならば、額の方が砕けていただろう。だが、頭突きはラウェイとイノシシの十八番でな」
ウィンも全くの無傷とは言えず、痛む額をさする。倒れたピエレにはダウンカウントが告げられているが、右膝蓋骨と半月板を破壊されたピエレは立ち上がることも叶わない。
『…8…9…10!』
審判ゴーレムのカウントが10まで達するとゴングが鳴らされる。
『勝者、ウィン!!』
拳を合掌させ、神仏への感謝を念じるウィン。すると、その余韻に浸る間もないままヒナコの声が響く。
『勝者には復活への更なる一歩を、敗者には運命を!』
指をパチンと鳴らせばリング上に転がっていたビエレの体が光に包まれていく。
「嫌だ!ふざけんな!!ウサギになんてなりたくな……」
フランス語で発せられたと思しきその悲痛な叫びを言い切ること無く、ピエレの体は1羽の白いアナウサギへと変わっていた。そして、ウサギとなったピエレを卯国の獣人ふたりが回収してゆく。
「……仏の教えでは未練を抱えて死んだ者は畜生道へ落ち、獣へ生まれ変わるという。釈迦如来の見た畜生道とは、このパントドンの事なのかもしれんな」
ウィンは合掌し、リングを後にした。
『これは両者とも凄まじいラッシュです!最後まで立っているのはどっちだ!?』
打撃を顔面に浴びながらもウィンは思い出していた。故郷ミャンマーにて、敬虔な仏教徒として神仏を尊び、自己を研鑽しながら生きた日々を。
しかし、それを壊される日が訪れた。軍によるクーデターである。民主主義を訴える国民達は、守られるべきであるはずの軍隊によって一方的に射殺されたのだ。
民主化運動の活動家を寺院に匿ったとして僧侶ウィンサンもまた、殺される事となる。無力な命を救うため、彼は抗った。だがラウェイは銃器の前では余りにも無力だったのだ。
「俺は…今度こそ守るのだ!救えなかった命を!仏の教えを!!」
ウィンの肘打ちがピエレの鼻っ柱に直撃した。予期せぬ衝撃によろめくも、ピエレは笑みを浮かべて体勢を立て直す。
「痛ぇじゃねえか……よォ!!」
ピエレの反撃。だが、それは今までと同じパンチではなかった。オープンフィンガーグロ ープから出た五本の指を伸ばしたまま、右手でウィンの顔面を狙う。 目潰し(サミング)だ!表の格闘技界では禁じ手だが、ピエレが生前闘っていた地下格闘技界、そしてこの干支乱大武繪では何ら咎められることの無い手段。故にピエレには迷いが無い。相手の眼球を潰す事にも、光を奪う事にも。
指先に伝わる柔らかい粘膜の感触。だが、それはいつもとは違った。利那、襲い来る激痛!
「があああああああああっっっ」
痛みに叫ぶピエレ。その右手は人差し指、中指、薬指の3本が確かにウィンの顔にある穴には到達している。 が、その穴は口腔。眼窩ではない。3本の指はイノシシの咬合力を持つウィンの歯によって捕らえられているではないか。
「ふんッ」
ウィンの発した声の後にぽきりと音がし、彼は口を開けピエレの手を解放した。
「指が折れた状態でまだ続けるかね」
右手の先端、第二関節まで折られた指を押さえてうずくまるピエレに問うウィン。
「誰が……参ったなんぞするか、 クソ野郎が!!」
だが、右手はもう握り込めない。残る攻撃手段は左手と両足。左手だけのパンチで五体満足のウィン相手に攻撃が届くだろうか。いや、当たるどころか反撃すらもらう事だろう。ならばウサギの能力である跳躍力、これを活かし足技に懸けるしかない。ピエレは中腰の状態から、跳ねた。予想外の動きに反応の遅れたウィンに対し、ピエレは右の膝を顎に叩き込むつもりである。
「ぬおうッ!」
ピエレの右膝はウィンの顔に直撃した。しかし、当たった所は顎ではなく額。 ウィンがカウンター気味に頭突きを合わせたのだ。背中から受け身も取れずリングに落下したピエレは右手と、骨折の痛む左手で右膝を押さえながらもがく。
「他の干支乱勢ならば、額の方が砕けていただろう。だが、頭突きはラウェイとイノシシの十八番でな」
ウィンも全くの無傷とは言えず、痛む額をさする。倒れたピエレにはダウンカウントが告げられているが、右膝蓋骨と半月板を破壊されたピエレは立ち上がることも叶わない。
『…8…9…10!』
審判ゴーレムのカウントが10まで達するとゴングが鳴らされる。
『勝者、ウィン!!』
拳を合掌させ、神仏への感謝を念じるウィン。すると、その余韻に浸る間もないままヒナコの声が響く。
『勝者には復活への更なる一歩を、敗者には運命を!』
指をパチンと鳴らせばリング上に転がっていたビエレの体が光に包まれていく。
「嫌だ!ふざけんな!!ウサギになんてなりたくな……」
フランス語で発せられたと思しきその悲痛な叫びを言い切ること無く、ピエレの体は1羽の白いアナウサギへと変わっていた。そして、ウサギとなったピエレを卯国の獣人ふたりが回収してゆく。
「……仏の教えでは未練を抱えて死んだ者は畜生道へ落ち、獣へ生まれ変わるという。釈迦如来の見た畜生道とは、このパントドンの事なのかもしれんな」
ウィンは合掌し、リングを後にした。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?


どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる