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大会編
DESTRUCTIVE POWER
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ゴングと同時に両雄は相手に向かって疾駆。そして、殴る!殴る!蹴る!殴る!打撃の嵐。 地上で最も危険な格闘技と、最も危険な格闘家の邂逅がこうなる事は避けられなかっただろう。
『これは両者とも凄まじいラッシュです!最後まで立っているのはどっちだ!?』
打撃を顔面に浴びながらもウィンは思い出していた。故郷ミャンマーにて、敬虔な仏教徒として神仏を尊び、自己を研鑽しながら生きた日々を。
しかし、それを壊される日が訪れた。軍によるクーデターである。民主主義を訴える国民達は、守られるべきであるはずの軍隊によって一方的に射殺されたのだ。
民主化運動の活動家を寺院に匿ったとして僧侶ウィンサンもまた、殺される事となる。無力な命を救うため、彼は抗った。だがラウェイは銃器の前では余りにも無力だったのだ。
「俺は…今度こそ守るのだ!救えなかった命を!仏の教えを!!」
ウィンの肘打ちがピエレの鼻っ柱に直撃した。予期せぬ衝撃によろめくも、ピエレは笑みを浮かべて体勢を立て直す。
「痛ぇじゃねえか……よォ!!」
ピエレの反撃。だが、それは今までと同じパンチではなかった。オープンフィンガーグロ ープから出た五本の指を伸ばしたまま、右手でウィンの顔面を狙う。 目潰し(サミング)だ!表の格闘技界では禁じ手だが、ピエレが生前闘っていた地下格闘技界、そしてこの干支乱大武繪では何ら咎められることの無い手段。故にピエレには迷いが無い。相手の眼球を潰す事にも、光を奪う事にも。
指先に伝わる柔らかい粘膜の感触。だが、それはいつもとは違った。利那、襲い来る激痛!
「があああああああああっっっ」
痛みに叫ぶピエレ。その右手は人差し指、中指、薬指の3本が確かにウィンの顔にある穴には到達している。 が、その穴は口腔。眼窩ではない。3本の指はイノシシの咬合力を持つウィンの歯によって捕らえられているではないか。
「ふんッ」
ウィンの発した声の後にぽきりと音がし、彼は口を開けピエレの手を解放した。
「指が折れた状態でまだ続けるかね」
右手の先端、第二関節まで折られた指を押さえてうずくまるピエレに問うウィン。
「誰が……参ったなんぞするか、 クソ野郎が!!」
だが、右手はもう握り込めない。残る攻撃手段は左手と両足。左手だけのパンチで五体満足のウィン相手に攻撃が届くだろうか。いや、当たるどころか反撃すらもらう事だろう。ならばウサギの能力である跳躍力、これを活かし足技に懸けるしかない。ピエレは中腰の状態から、跳ねた。予想外の動きに反応の遅れたウィンに対し、ピエレは右の膝を顎に叩き込むつもりである。
「ぬおうッ!」
ピエレの右膝はウィンの顔に直撃した。しかし、当たった所は顎ではなく額。 ウィンがカウンター気味に頭突きを合わせたのだ。背中から受け身も取れずリングに落下したピエレは右手と、骨折の痛む左手で右膝を押さえながらもがく。
「他の干支乱勢ならば、額の方が砕けていただろう。だが、頭突きはラウェイとイノシシの十八番でな」
ウィンも全くの無傷とは言えず、痛む額をさする。倒れたピエレにはダウンカウントが告げられているが、右膝蓋骨と半月板を破壊されたピエレは立ち上がることも叶わない。
『…8…9…10!』
審判ゴーレムのカウントが10まで達するとゴングが鳴らされる。
『勝者、ウィン!!』
拳を合掌させ、神仏への感謝を念じるウィン。すると、その余韻に浸る間もないままヒナコの声が響く。
『勝者には復活への更なる一歩を、敗者には運命を!』
指をパチンと鳴らせばリング上に転がっていたビエレの体が光に包まれていく。
「嫌だ!ふざけんな!!ウサギになんてなりたくな……」
フランス語で発せられたと思しきその悲痛な叫びを言い切ること無く、ピエレの体は1羽の白いアナウサギへと変わっていた。そして、ウサギとなったピエレを卯国の獣人ふたりが回収してゆく。
「……仏の教えでは未練を抱えて死んだ者は畜生道へ落ち、獣へ生まれ変わるという。釈迦如来の見た畜生道とは、このパントドンの事なのかもしれんな」
ウィンは合掌し、リングを後にした。
『これは両者とも凄まじいラッシュです!最後まで立っているのはどっちだ!?』
打撃を顔面に浴びながらもウィンは思い出していた。故郷ミャンマーにて、敬虔な仏教徒として神仏を尊び、自己を研鑽しながら生きた日々を。
しかし、それを壊される日が訪れた。軍によるクーデターである。民主主義を訴える国民達は、守られるべきであるはずの軍隊によって一方的に射殺されたのだ。
民主化運動の活動家を寺院に匿ったとして僧侶ウィンサンもまた、殺される事となる。無力な命を救うため、彼は抗った。だがラウェイは銃器の前では余りにも無力だったのだ。
「俺は…今度こそ守るのだ!救えなかった命を!仏の教えを!!」
ウィンの肘打ちがピエレの鼻っ柱に直撃した。予期せぬ衝撃によろめくも、ピエレは笑みを浮かべて体勢を立て直す。
「痛ぇじゃねえか……よォ!!」
ピエレの反撃。だが、それは今までと同じパンチではなかった。オープンフィンガーグロ ープから出た五本の指を伸ばしたまま、右手でウィンの顔面を狙う。 目潰し(サミング)だ!表の格闘技界では禁じ手だが、ピエレが生前闘っていた地下格闘技界、そしてこの干支乱大武繪では何ら咎められることの無い手段。故にピエレには迷いが無い。相手の眼球を潰す事にも、光を奪う事にも。
指先に伝わる柔らかい粘膜の感触。だが、それはいつもとは違った。利那、襲い来る激痛!
「があああああああああっっっ」
痛みに叫ぶピエレ。その右手は人差し指、中指、薬指の3本が確かにウィンの顔にある穴には到達している。 が、その穴は口腔。眼窩ではない。3本の指はイノシシの咬合力を持つウィンの歯によって捕らえられているではないか。
「ふんッ」
ウィンの発した声の後にぽきりと音がし、彼は口を開けピエレの手を解放した。
「指が折れた状態でまだ続けるかね」
右手の先端、第二関節まで折られた指を押さえてうずくまるピエレに問うウィン。
「誰が……参ったなんぞするか、 クソ野郎が!!」
だが、右手はもう握り込めない。残る攻撃手段は左手と両足。左手だけのパンチで五体満足のウィン相手に攻撃が届くだろうか。いや、当たるどころか反撃すらもらう事だろう。ならばウサギの能力である跳躍力、これを活かし足技に懸けるしかない。ピエレは中腰の状態から、跳ねた。予想外の動きに反応の遅れたウィンに対し、ピエレは右の膝を顎に叩き込むつもりである。
「ぬおうッ!」
ピエレの右膝はウィンの顔に直撃した。しかし、当たった所は顎ではなく額。 ウィンがカウンター気味に頭突きを合わせたのだ。背中から受け身も取れずリングに落下したピエレは右手と、骨折の痛む左手で右膝を押さえながらもがく。
「他の干支乱勢ならば、額の方が砕けていただろう。だが、頭突きはラウェイとイノシシの十八番でな」
ウィンも全くの無傷とは言えず、痛む額をさする。倒れたピエレにはダウンカウントが告げられているが、右膝蓋骨と半月板を破壊されたピエレは立ち上がることも叶わない。
『…8…9…10!』
審判ゴーレムのカウントが10まで達するとゴングが鳴らされる。
『勝者、ウィン!!』
拳を合掌させ、神仏への感謝を念じるウィン。すると、その余韻に浸る間もないままヒナコの声が響く。
『勝者には復活への更なる一歩を、敗者には運命を!』
指をパチンと鳴らせばリング上に転がっていたビエレの体が光に包まれていく。
「嫌だ!ふざけんな!!ウサギになんてなりたくな……」
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