干支乱勢(えとらんぜ)~12人のおじさん格闘家、ケモミミ少女に異世界転生しバトルトーナメントに挑みます!~

たかはた睦

文字の大きさ
上 下
9 / 60
転生編

No Way out

しおりを挟む
  ブラジリアン柔術 【Jiu-Jitsu Brasileiro】
 
 その歴史は100年以上前に遡ると言われる。日本から地球の裏側へと渡った柔道家たちによりブラジルの地へと伝えられた国技・柔道が現地で独自の進化を遂げ生まれた競技である。投げなど立ち技による攻防を極力廃し、寝技の攻防に重きを置いた柔道の姿……それがBJJことブラジリアン柔術である!

 日本の格闘技史を語る上でも、BJJは避けては通る事の出来ぬ存在である。1990年代後半、米国で行われた格闘技大会に一人の男がブラジルからエントリーした。純白の道着を纏ったその男の体格は、お世辞にも強そうには見えない。にも関わらず、彼はヘヴィ級のキックボクサーを始めとする世界各国の強豪たちを次々と破り、トーナメントを制覇した。 決して打ち合わず、寝技 (グラウンド)での締め技 (チョーク)と関節技 (サブミッション) のみを使ってだ。そして、その技は誰しもが見た事も聞いた事もない技術だった。その男曰く、この技術は彼の祖父達が日本から来た柔道家から伝えられた武術『Jiu-Jitsu』であると。更に、彼の兄弟達は彼を回る達人たちであるとも……

 米国でのトーナメントを制したブラジリアン柔術の名は次第に世界中へと広まる事となる。 日本の格闘技界もBJJ を無視する事は出来なくなり、あらゆる格闘技イベントがブラジルから柔術家を招き、あらゆる格闘家達が彼らに挑んだ。そして、未知の技術に対抗出来ず、敗れ去った。その中にはプロレスラー達も存在し、アトラス星野もそこに名を連ねた。

 2000年代初頭、BJJ が猛威を奮った時代の日本には空前の格闘技ブームが巻き起こる。ボクシング、ムエタイ、相撲、サンボ、そしてプロレス……数ある競技の内、何が、そして誰が最強なのか!?人々は答えを求めた。そして、プロレスは答えを出せなかった。レスリング五輪銀メダリストの星野すら、 キックボクサーの打撃に、柔術家の寝技に勝てなかったのだ。次第に人々はプロレスに対し、「弱い」「所詮はショーである」というイメージを抱き始め、プロレスの人気は未だかつて無いほど低迷したのだ。人呼んで「プロレス冬の時代」。奇しくも星野はプロレスラーとしての全盛期を冬の時代で終える事となった。



 リビングアーマーの鎧を関節技で瞬く間にバラバラにすると、ヒカルは座したまま一息つく。それとほぼ同時にテルの鼠ヒゲが気配を察知する。

「おい、アレ!」

 うつ伏せのままテルが指さした方向・・・対面の通路から5匹のゴブリンが押し寄せて来るではないか。

「いくらゴブリンでも複数相手じゃ無理だ!僕達も闘わなきゃ!!」

 テルと同じく、うつ伏せで背中をトカゲに押さえられたリコが言うが、

 「トスター!メレオ!ゲッコ!······ そいつらを押さえておけ!!」

 ヒカルは片膝を突いた体勢のまま、仲間である二足歩行の爬虫類達に命令する。

「あいつ、何言って……ぐげっ!」

 テルとリコの背に、更にトスターが左右それぞれの足を乗せ仁王立ちになる。

「黙って見ておれ!……ヒカル様ー!VAMOLAバモラですぞー」

『ゲキャァー』

 ゴブリンの群れがヒカルに襲い掛かる。 が、突如逆立ちになったヒカルは両足を振り回しゴブリン達の顔面を滅多打ちにする。 テルとリコはその動きに、一瞬だけ言葉を奪われた。その動きの華麗さは、まるで舞踊の如き芸術性を帯びていた。

「カポエイラ!?」

 その発祥には諸説あるが、手枷をはめられた奴隷達が手を満足に使えない事から足を主体に戦う為に考案されたという説が有力である。

 ヒカルのバックボーンは一つだけではなかった。 BJJ とカポエイラ、ブラジル生まれの異なる二つの武術を駆使する様は、格闘の才に恵まれている他ならない。

「ジウジツもカポエイラも、オレのバックボーンの一つに過ぎない。オレのファイトスタイルは……ルタリーブリだ!」

 ヒカルは最後のゴブリンを、フォーリャという蹴り技で一蹴した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

悪役令嬢カテリーナでございます。

くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ…… 気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。 どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。 40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。 ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。 40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

処理中です...