トロンボーン吹きの夏物語

樫和 蓮

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物語の危機

ほどいて、また結んで

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土曜日の朝、同じ吹奏楽部に所属するお姉ちゃんに怪しまれながら、わたしは竜の谷に向かった。
意気込んで向かうはいいものの、甲斐田くんにどんな顔で会えばいいかわからない。
リュウの容態はそんなに悪いんだろうか、それもわからない。
決意がしぼんでしまうくらい、歩みが遅くなってしまうくらい、わたしは緊張していた。
でも、前を向かなくちゃ。

いつもの倍くらいの時間がかかったような気がする。
わたしはやっと竜の谷の入り口に立った。

「夏さん!?夏さんだ!」
「夏さんが来た!」
「ねえねえリュウ!夏さんだよ!」
「リュウ!夏さんだよ!」
着くやいなや、クロシロの歓迎を受けた。

後ろに、横たわったリュウと、リュウに寄り添う甲斐田くんの姿が見えた。

「ひ、久しぶり!ごめんなさい、なかなか来れなくて…」
恐る恐る、わたしは彼らに声をかけた。

「土田さん!来てくれたんだね…!」
甲斐田くんは立ち上がって手招きした。
「この間は、ごめん、忙しいのわかってたのに…。でも、来てくれて嬉しい。ほら、リュウ」
わたしは二人のほうに近づいていった。

「夏さん、ありがとう。来てくれて、嬉しいよ」
リュウはやっとのことのように頭を起こした。
普段から座っていることが多かったけど、明らかに前までよりしんどそうだ。
「ごめんね、リュウ、なかなか来れなくて……」
わたしは泣きそうになるのをこらえながらリュウの肩をそっとなでた。

「えっ何!?」
リュウに触れるのは初めてではなかったのに、今までとは違う感覚が走った。
リュウの肌が光ったような、わたしの身体に電気が通ったような、そんな気がした。
「甲斐田くん、リュウの肌が………」
慌てふためくわたしに、甲斐田くんはなぜか安心したように微笑んだ。
「それ、土田さんの力なんだよ」
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