トロンボーン吹きの夏物語

樫和 蓮

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花咲く物語

リュウの谷で

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「友だち!」
「友だち友だち!」
さっきまでしゅんとしていたクロシロがまた飛び回り始めた。
「クロもシロもはしゃぎすぎ。」
甲斐田くんが苦笑する。

甲斐田くん、こんな風に笑うんだなあ。
わたしはその横顔をそっと見る。
今年に入ってクラスが一緒になったんだけど、わたしが彼について知ってることがあまりにも少ないことに気づく。
図書委員をしていることと、放送部に入ってることくらいしか知らない。
教室でこんな風に笑うところなんて見たことがない。
もしかしたら、わたしが気にしてなかっただけなのかもしれないけど。

「夏さん、すっかりお願いを忘れてたんだけど。」
リュウが、ぼーっとしていたわたしに話しかける。
「何?」
「龍平とも友だちになってほしいんだけどさ、僕らとも友だちになってほしいんだ。」
少し照れたようにリュウが言う。
わたしの2倍以上もの大きさがある生き物が照れているのは正直かわいい。
そしてここで断る理由は、わたしには何もない。
「もちろん!これから、よろしくね!」
リュウはほっとしたように微笑んだ。
「ありがとう、夏さん。こちらこそ、よろしくね。」
「夏さんが!」
「リュウと!」
「友だち!!」
「友だち!!」
すかさずクロシロが大騒ぎする。
「僕たちは!?」
「僕たちは友だち!?」
「僕たちも友だち!?!?」
わたしはその勢いに思わず笑ってしまった。
「うん、君たちとも友だち!」
わたしの返事に、クロシロの大騒ぎは止まらない。
「やったやった!」
「僕たちも!」
「夏さんの!」
「お友だち!!」
「みんなみんな!」
「お友だち!!」

竜と豆つぶと中学生。
変な取り合わせだし、変な光景だと思う。
でも、こんなに心があったかくなったのは、久し振りかもしれない。

「土田さん、よくこんなとこ来たね。」
クロシロたちには聞こえないくらいの声で甲斐田くんが言う。
「なんか、気になっちゃって。でも、気まぐれで来てよかった。」
「え?」
意外そうな顔で甲斐田くんがわたしを見る。
「だって、こんなに楽しそうなとこに来れると思ってなかったし。甲斐田くんと喋ることもなかったかもなって思ったら、さ。」
「なんか、ありがとう。」
甲斐田くんとわたしはふふっと笑った。

夏の音が、聞こえる。
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