上 下
4 / 12

始まらない部内恋愛

しおりを挟む
「そういえば千紗、河本先輩といい感じかもって言ってなかったっけ?」
ここのところ、放課後の話題は始まらない恋の話に偏りつつある。
初めは少し呆れながら聞いていた亜依も、段々乗ってきていた。
「あー。それも始まってないなあ」
千紗はこれまでより明らかに興味なさそうである。
「なんでそんなやる気ないんよ、詳細聞いてなかったし教えて!」
「んー、じゃあ話すけど……」

◆◆◆

河本先輩は、所属している文芸部の先輩で、いかにも小説が好きそうな眼鏡をかけ、いかにも小説が好きそうな髪形をし、いかにも小説が好きそうな歩き方をしている。

◆◆◆

「待った、さすがに偏見の塊すぎん?」
「亜依、つっこむの、もうちょっと待って、どんどん待てんくなってる」
「ごめん、続けて。偏見だらけやけど、納得できんことはない」

◆◆◆
そのいかにも小説が好きそうな河本先輩は期待を裏切らずに文芸部で活動している。だがしかし何より顔がいい。
いつも小説を読み、物静かで、そうしているだけで横顔が絵になる。
千紗と亜依が入部した春、先輩は二年生で、書記をしていた。
新入部員に優しく話しかけてくれる部長や副部長とは違って、ずっと黙ったままだったが、時折静かに微笑んでいて、その雰囲気に千紗は少し惹かれていた。

文芸部室には、全体で集まる日は月に1度しか決まっておらず、それ以外は好きなときに部室を利用していいことになっていた。お昼休みにお弁当を食べに来る人もいれば、放課後、執筆に励む人もいた。部員は全部で15人もいないくらいだったが、授業時間以外は3人以上絶対にいるような空間だった。

河本先輩は、そのなかでもよく部室にいる人だった。本を片手にお弁当を食べているときもあったし、小説を読みふけっているときもあったし、原稿用紙に小説を書き連ねているときもあった。

たまたま千紗と河本先輩が部室で二人きりになったことがある。
千紗は部室にある漫画を片っ端から読んでいた。その日は用事があると言って先に帰った亜依を見送ってから、下校時間ぎりぎりまで部室で過ごしていたのだ。
最初から先輩と二人だったわけではなく、途中部員が入れ替わり立ち替わり、二人きりになったのは下校時間の15分前。
「そろそろ鍵を閉めて出ようと思うけど、そろそろ出ますか?」
それが初めて聞く先輩の声だったかもしれない。顔に似合ういい声だった。
「あっ、はい!もう片付けます」
きりよく読み終わった巻を手に、千紗は立ち上がった。
「急がなくていいですよ、いつもこれくらいに鍵返しているので」
後輩に対し敬語の先輩は他にいなかったが、河本先輩が話すとしっくりきた。
「その漫画、いいですよね。僕、既刊一晩で読んでしまいました」
漫画について話しかけられると思わなかった千紗は、思わず河本先輩をじっと見てしまった。
「よっ、読み始めると止まらないですよね!」
どごまぎしながら返すと、河本先輩はにっこりと微笑んだ。

どきっとした。
いつも黙って微笑んでいるだけではない。話しかけてくれたうえで微笑んだのだ。
とはいえそこから特に話が盛り上がるでもなく、静かに片付けて静かに帰路についたのだった。

◆◆◆
「え!いいやん!めちゃ雰囲気いいやん!」
亜依はうきうきと先を促した。
「で?そっから??」
「なんにもないよ」
「え?」
「なんにもないねん、話しかけてくれた先輩は素敵やったけど、そっからほんまに声聞いたか覚えてへんレベルでなんにもないんよ」
「えーそうなん?!」
亜依はあからさまにがっかりした。
「いやでもここ半年くらい私ら部室行ってへんからな。先輩と話す機会もまあないんよな」
千紗は苦笑する。
「せやったな、幽霊部員極めてるんやったわ」
幽霊部員に部内恋愛は一番縁遠そうな話題である。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

恋人の水着は想像以上に刺激的だった

ヘロディア
恋愛
プールにデートに行くことになった主人公と恋人。 恋人の水着が刺激的すぎた主人公は…

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

美少女幼馴染が火照って喘いでいる

サドラ
恋愛
高校生の主人公。ある日、風でも引いてそうな幼馴染の姿を見るがその後、彼女の家から変な喘ぎ声が聞こえてくるー

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

初めてなら、本気で喘がせてあげる

ヘロディア
恋愛
美しい彼女の初めてを奪うことになった主人公。 初めての体験に喘いでいく彼女をみて興奮が抑えられず…

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

処理中です...