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act.10-2 Ver.Rio
しおりを挟む環が手助けしてくれたおかげで、挙式は無事に終了することができた。
慣れないスーツにヘアメイクという状態から早く抜け出したくて、莉音は付いて来たがる環を振り切ってバスルームに向かう。
手早く済ませて廊下に出ると、夕爾が待ち構えていた。
「莉音、今日はありがとう」
「いえ……夕爾さんこそお疲れさまでした」
まだ二次会に呼ばれてるけどね、と笑う夕爾の顔を見た瞬間、なぜか涙が溢れてきてしまう。
「……嵯峨くんと、なにかあった?」
「あ……、さっ、き、けっこん、しよう、って」
しゃくりあげながらもなんとか喋ろうとするが、あとからあとからこみ上げてくるものに阻まれて言葉が出てこない。
どうやら、莉音の涙腺は環のせいでどうにかなってしまったようだった。
「あの子がそんなことを……? それで、莉音はなんて答えたの」
「なに、も……」
答えられるはずがなかった。
ほんとうは嬉しくて仕方ないのに、それを伝えたら自分は一体どうなってしまうのか。
まだ、彼の想いを受け止める自信がない。
うつむいて嗚咽を漏らす莉音に、夕爾はちいさく溜め息をつく。
「嵯峨くんの友達がね。あの子は、お前のために仕方なくあんな……妙な遊びを始めたんじゃないか、って」
礼拝堂で会った悠の顔を思い出す。可愛らしい顔立ちだけれど、一本芯の通った眼差しをしていた。
「嵯峨くんはぼくに、いまのままで幸せだと言ったんだ。莉音は、それが彼の本心だと思うかい?」
ふるふると首を振って、莉音はその場で泣き崩れた。
環のことだから、それは真実の言葉なのだろう。そのことが、余計に哀しかった。
「ぼくは、お前が昔どんな仕打ちを受けていたのか詳しくは知らない。でも」
しゃがみ込んでしまった莉音の肩に、優しい手が触れる。
「愛されることに、罪悪感を持たなくてもいいんだよ」
顔を上げると、いつもの穏やかな笑顔がそこにあった。
「お前も、今日のふたりのように幸せになりなさい。思い悩んで熱を出しちゃうくらい、嵯峨くんのことが好きなんでしょう?」
「あ……」
夕爾の言葉に、燻っていたもやもやが晴れていくような気がした。
周囲に祝福され、輝くばかりに幸福そうなひとたちを目の当たりにして、自分は環を不幸にするばかりではないのかと思ったのだ。
「夕爾さん、おれ……わたるのことが好きです。ずっと、あいつと一緒にいたい」
「じゃあ、それをそのまま本人に伝えてあげて。莉音の言葉で、ね」
それだけを言うと、夕爾は「うわ、もう出ないと間に合わない!」と慌てて廊下を駆けていった。
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