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第3部
act.25-晶
しおりを挟む思えば、最初から予感はあった。晴斗が訪ねてきた、と聞いた時点でそれは確信に変わり、彼の顔を見た瞬間に心は決まっていた。
「もう、終わりにしましょう……おれといても、ハルトさんは幸せになれないから」
くちに出した途端に、もっと早く言うべきだった、という後悔が押し寄せる。
そうしていれば、晴斗やその周囲のひとたちをここまで追い込む必要はなかったはずだ。
「おれはずっと……ハルトさんの気持ちを、利用してただけなんです。こんな奴のために将来を棒に振るなんて、馬鹿げてますよ」
いちど別れを切り出してしまうと、あとは立て板に水のように晶のなかから言葉が溢れてくる。
それまで黙って聞いていた晴斗は、ちいさくため息をつくと晶の頬を両手で包んだ。
「お前のことだから、どうせ身を引くって言い出すだろうとは思ってたよ。だいたい僕だって、弱みにつけ込んで関係を続けていたんだから同罪だ」
「それは……違います。ハルトさんはおれを救ってくれて、だから……なにも、悪くないです」
肌から伝わるぬくもりが、晶の決心を鈍らせる。
素直にこの手を取ることができたなら、お互いに楽になれるのだろうか。
「ま、浮気の件はさすがに驚いたけどね。でも、それくらい僕の婚約がショックだったってことでしょ? 今回だけは許してあげるよ」
その代わり、と言って、晴斗は晶の顔をのぞき込んだ。
「いまここでお前を抱いても、文句は言えないよね?」
「別れ話をしてるのに、なんでそうなるんですか……」
このまま彼のペースに飲み込まれては、また有耶無耶なままの関係に戻ってしまうに決まっている。
身構えた晶をよそに、晴斗は額から鼻先、頬へと順番にくちびるを降ろしていった。
「う、あっ……」
耳を甘噛みされれば、こんなときですらあまい吐息をこぼしてしまう。
拒まなくてはいけないのに、この先を期待して動けないでいる自分が情けなくなった。
「こんないやらしい身体になっちゃって、いまさら僕と別れられると思ってるの……それとも、すばるとのセックスはそんなに良かった?」
「いた……っ! あ、だめっ、」
首筋に噛みつかれ、隠しようがない場所にわざと跡をつけられる。
そんなことすらも快感に繋がってしまい、なんとかこの状況から逃れようと晶はそろそろと後ずさった。だが、数歩も行かないうちに背中に固い感触が当たる。
「おねがい、だから……もう、やめて……くださ、い」
ドアに背中を押し付けられる格好になり、いよいよ逃げ場を失ってしまった。
「ほんとに素直じゃないね、お前は」
昏い影を落とす瞳に射竦められ、どうすることもできずにくちびるを噛み締めたそのとき。
背後から、扉を叩く鈍い音が響いた。
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