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第3部
act.17-晶
しおりを挟む翠春からのメッセージに気付いた頃には、すっかり夜になってしまっていた。
もう少し早く起きるつもりだったのに、と晶は半分寝ぼけたままの頭で考えながら、ずるずるとベッドから這い出す。
話したいことがあるから来て、と指定された場所は、かなり名の知れた高級ホテルだった。
そんなところからも、今の彼の仕事が順調であることがうかがえる。
明日のスケジュールを考えれば、断ることも出来た。だがそれでも晶は、了承の返信をしてから身支度を整え始める。
バスと電車を乗り継いで目的の場所にたどり着くと、限りなく円に近い形の月がぽっかりと夜空に浮かんでいた。
「ヒカル兄、ごめんなさい、急に。来てくれてありがとう」
ロビーで待ち構えていた翠春にちいさく頷くと、晶は周囲を見渡して呟く。
「ここ、久し振りに来たな」
「オレたちが再会した、記念すべき場所ですね」
ぼんやりとしていた記憶が、その場に立つことによってはっきりと思い出されてくるのがわかった。
***
案内された部屋は驚くほど広く、普段こういった場所と縁のない晶はつい萎縮してしまう。
一方の翠春はといえばずいぶんと慣れたもので、ルームサービスのワインを手にした姿など実に様になっていた。
応接セットの豪奢なソファの隅に縮こまるようにして座り、目の前のグラスに真紅の雫が注がれていくのをぼんやりと眺める。
「今日、たまたま撮影のときトモアに会ったんですよ」
そう言って晶の隣に腰をおろすと、翠春はにっこりと笑いかけてきた。
「へぇ。そういえばアイツ、学校半日だって浮かれてたな」
昨夜の遣り取りを思い出し、自然と顔がほころんだ。
「ほら、あのミュージックビデオのときの倉庫。たまたま今日のロケがあそこだったんです」
翠春は順を追ってそのときのことを話しながら、すいすいとワインを飲み干していく。
コーラしか飲めない子供だとばかり思っていたのに、と感慨に耽っていると、不意に顔をのぞきこまれる。
彫刻のような端正な顔に見つめられて、不覚にも心臓が跳ねたのがわかった。
「あの子、オレに会う前はヒカル兄のところに行ってたんだって」
「え?」
目の前の宝石のような瞳が、戸惑った様子の自分を映し込む。
「ダメだよ~、いたいけな男子高校生に、喘ぎ声聴かせるとかさぁ」
おどけた調子で言った翠春が、ワイングラスを手に取って中味を一気に呷った。
その様子を呆然と眺めていた晶は、両肩を掴まれてソファに押し倒されてしまう。
「んっ……!」
やわらかな感触とともに、口内に生温かな液体が注ぎ込まれてくる。
混乱した脳裏に、なぜか燈亜の笑顔がよぎった。
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