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第3部
act.12-帆南
しおりを挟む「ひかるさん、入りますよ」
返事がないことは半ば想定内だったので、帆南は躊躇うことなく扉を開け放つ。
出来る限り音を立てないように気を配りながら、そっとなかに足を踏み入れた。
倉庫という場所の性質上、プライベートの確保ができないことは部屋の主も予め了承済である。
それでも空気を読んで、ちゃんと晴斗が帰ったことを確認してから備品の補充に来たのだ。
リストと照らし合わせながら、カゴに目当ての品を次々と放り込む。
ふと、いちばん奥に設置されたシングルベッドに顔を向けると、奇妙な光景が目に飛び込んできた。
たいして広くもないスペースに手脚を投げ出し、ぴくりとも動かず横たわる身体。
打ち捨てられたマネキンのようなその姿と殺風景な内装が絶妙にマッチして、それはまるで映画のワンシーンのようだった。
つい近付いて顔を覗き込んでしまったのは単なる好奇心からで、そこに他意はない。
しかし、正に言葉通り、死んだように眠るその顔を見てしまった瞬間、帆南は誘われるように自身の手を伸ばしていた。
白桃のような肌に指を置けば、ふに、と思いのほかやわらかな感触が返ってきて。
つい両手で挟むように頬に触れると、「ん、」と普段は聴くことのない愛らしい声が漏れた。
ああ、これは……皆が骨抜きになるのも、すこしわかる気がするな。
無防備な寝姿は幼子のようなのに、どこか妖艶な雰囲気を纏っていて。
保護欲とか支配欲とか、そんなものを相手に抱かせるような魅力が確かにある、と思う。
この時点ではまだ冷静さを保っていた帆南が、そんなことを考えながら離れようとした、そのとき。
いつの間にか近付いていた晶の手が、彼の長い指にするりと絡みついた。
「……え」
そのままきゅっと握りこまれて、どうすることも出来ずに固まってしまう。
「あ、の、ひかる、さん?」
思わず声をかけてしまったが、当の本人はすやすやと安らかな寝息をたてるばかり。
振りほどく気にはとてもなれなくて、ぽっかりと開いたくちもとをぼんやりと眺める。
確かに時々、可愛らしい仕草を見せることがあるのは知っていたけれど。
スキンシップは苦手な方だと思っていたから、例え無意識とはいえ、この不意打ちは反則だった。
「うー、ん……」
晶が横を向くのに合わせて、漆黒の髪がぱらぱらとシーツに散らばる。
照明に晒された首元にうっすらと残る跡に気付いた瞬間、帆南の胸がなぜかちくりと痛んだ。
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