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第3部
act.7-晴斗
しおりを挟む最近、晶の元にあの燈亜とかいう小僧が入り浸っているらしいと聞いて、晴斗は気が気ではなかった。
だいたい、帆南のところで世話になっているという時点で気に喰わないのに、だ。
そのうえ、このところ両親が躍起になって見合いを勧めてくるので、晴斗の受けているストレスは相当なものだった。
今日も仕方なくレストランでの会食に出向き、皆の手前それなりに愛想よく振る舞って。
モデル業をしているという相手方は随分と乗り気でいるようだったが、晴斗はふたりきりになった途端、急用を思い出したと言って逃げ出してきた。
晶に会いに行く途中で、最近オープンしたらしい洋菓子店が目に入り、思わず飛び込んでいくつか商品を見繕ってもらう。
ちいさな箱を大事に抱え、愛しい恋人のもとへと急いだ。
スタジオの近くまで来たところで玄関先に目をやると、そこには見慣れた後ろ姿がある。
彼はどうやら花に水をやっているようで、小ぶりの如雨露をぶら下げ花壇の周囲をちょこちょこと歩き回っている様子に、思わず笑みがこぼれた。
黒のゆったりとしたセットアップから伸びる嫋やかな腕や、髪を切ったばかりなのだろう、整えられた襟足から薫る艶。
陽の光を受けたまっしろなうなじは、輝くばかりにまぶしい。
そんな立ちのぼるような色気と可憐な動作とのアンバランスさが、晴斗の胸をざわざわと落ち着かなくさせる。
気配に気付いたのか、晶が不意にこちらを振り返った。
晴斗を認めると愛らしい瞳をまんまるにし、ちいさなくちをぽかんと開ける。
次にふ、っと微笑み、一瞬の間のあと、今度はなにかに気付いたように顔を引き締めた。
めまぐるしく変わる表情とその裏にある機序を考え、晴斗の頬はますます緩んできてしまう。
今日が見合いだということは予め伝えてあったから、最初はこんな時間に自分を訪ねて来たことに驚いたのだろう。
次にその意味を察してつい喜んでしまい、これではいけないと思った結果が先程の一連の流れ――といったところなのではないか。
そんなあまりにも可愛すぎる反応に、荒れていた気持ちがすんなりと鎮まっていく。
「ひかる、おみやげ買ってきたよ。一緒に食べよう」
手にした箱を掲げると、彼はこくりと頷いた。
「これ、片付けないといけないので……先に行っててください」
既に何回もスタジオを訪れている晴斗は、勝手知ったる他人の家とばかりに裏口からずかずかと入っていく。
こんな平日の昼間から晶に会いに来る人間は自分くらいのものだし、この時間帯、帆南が大抵レッスン中であることも知っている。
遠慮なくキッチンを借りて湯を沸かしながら、晴斗は先程見たばかりの情景を思い返して顔を綻ばせた。
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