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第3部
Prologue-3
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勢いで始めてしまったキスは、まざまざと過去の記憶を蘇らせてゆく。
思えば昔から、晶は弟のワガママを最終的には必ず叶えてくれていた。
それがたとえ、一般的にはあり得ないような願いだったとしても、だ。
そんな兄としての過剰な優しさに甘えている部分は少なからずある。
いまがまさに、その状況だともいえた。
さすがに舌を絡めるのは躊躇われて、翠春は名残惜しく感じながらゆっくりと顔を離す。
「スバル……ごめん」
愛らしいくちから飛び出したのは、予想だにしなかった言葉。
「へ? なんでヒカル兄があやまるの」
むしろ謝罪すべきなのは突然くちびるを奪った自分の方であって、晶に非はないはずだ。
強いて言うなら、こうして襲いたくなってしまうという点で罪作りではあるが。
「おれと、ちいさい頃にあんなことしてたから……その、普通の恋愛が出来なくなったんじゃないか、って……」
顔を真っ赤にしてぼそぼそと喋る姿は非常にそそられるのだが、どうにも論点がおかしい。
「えーっ、と、つまりヒカル兄は……ファーストキスの相手が自分だったばっかりに、オレの性癖が歪んだと思ってるわけね」
「ち、違うのか?」
晶に惚れたことで他の人間には目もくれなくなった、という意味ではあながち間違いではないのかもしれない。
だが翠春にとってはこれが普通であり、感謝こそすれどそんなこと言われる必要などまったくないわけで。
はあ、とわざとらしくおおきなため息をつくと、翠春は上気した晶の頬をやさしく両手で包んだ。
「オレは、ヒカル兄のことが好き。兄弟だからとか、そういうんじゃないよ。神崎晶っていう、ひとりの人間に惚れてるの」
お互いの鼻がくっつくくらいの距離で、諭すようにじっと目を見る。
晶はといえば、慌てて顔を伏せてしまっていた。
こまかくふるえる長いまつ毛。キスのせいで紅く染まった目尻。
困ったように下げられた眉までもが愛しく感じられてしまうあたり、もう救いようがない。
いますぐ抱き壊したいと思わせるくらい色っぽいくせに、そのうえこんなに可愛いなんて。
本当にこのひとはずるい、と翠春は思う。
「お前は、おれにとってたいせつな弟で、家族で。やっぱり、どうしても……恋愛の対象としては、考えられないよ」
か細い声で一言一句を慎重に紡ぎ出す様子に、惑わせてしまっているという申し訳なさが募った。
ここまでたどり着いてしまった平行線は、きっとこの先も交わることはないのだろう。
ただその線は、血が繋がっているという一点において半永久のものであり、途切れることはない。
「ヒカル兄、ここで一緒に住もうよ。だってオレたち家族なんでしょ」
唐突な発言に顔をあげた晶は、ぽかんとくちを開けて翠春の顔をじっと見つめた。
「あくまで兄弟として同居するだけ、っていう話なら……考えてやらないこともない、けど」
そんな妥協案を提示してくるあたり、どうしたってこのひとは自分に甘いのだ。
「さすがにそれは無理」
「即答すんなよ」
呆れたように笑う晶の姿に、すこしだけ安心する。
だが、さすがにこればかりは聞き入れるわけにいかないな、と釘を刺されてしまい、翠春はがっくりと肩を落とすのだった。
思えば昔から、晶は弟のワガママを最終的には必ず叶えてくれていた。
それがたとえ、一般的にはあり得ないような願いだったとしても、だ。
そんな兄としての過剰な優しさに甘えている部分は少なからずある。
いまがまさに、その状況だともいえた。
さすがに舌を絡めるのは躊躇われて、翠春は名残惜しく感じながらゆっくりと顔を離す。
「スバル……ごめん」
愛らしいくちから飛び出したのは、予想だにしなかった言葉。
「へ? なんでヒカル兄があやまるの」
むしろ謝罪すべきなのは突然くちびるを奪った自分の方であって、晶に非はないはずだ。
強いて言うなら、こうして襲いたくなってしまうという点で罪作りではあるが。
「おれと、ちいさい頃にあんなことしてたから……その、普通の恋愛が出来なくなったんじゃないか、って……」
顔を真っ赤にしてぼそぼそと喋る姿は非常にそそられるのだが、どうにも論点がおかしい。
「えーっ、と、つまりヒカル兄は……ファーストキスの相手が自分だったばっかりに、オレの性癖が歪んだと思ってるわけね」
「ち、違うのか?」
晶に惚れたことで他の人間には目もくれなくなった、という意味ではあながち間違いではないのかもしれない。
だが翠春にとってはこれが普通であり、感謝こそすれどそんなこと言われる必要などまったくないわけで。
はあ、とわざとらしくおおきなため息をつくと、翠春は上気した晶の頬をやさしく両手で包んだ。
「オレは、ヒカル兄のことが好き。兄弟だからとか、そういうんじゃないよ。神崎晶っていう、ひとりの人間に惚れてるの」
お互いの鼻がくっつくくらいの距離で、諭すようにじっと目を見る。
晶はといえば、慌てて顔を伏せてしまっていた。
こまかくふるえる長いまつ毛。キスのせいで紅く染まった目尻。
困ったように下げられた眉までもが愛しく感じられてしまうあたり、もう救いようがない。
いますぐ抱き壊したいと思わせるくらい色っぽいくせに、そのうえこんなに可愛いなんて。
本当にこのひとはずるい、と翠春は思う。
「お前は、おれにとってたいせつな弟で、家族で。やっぱり、どうしても……恋愛の対象としては、考えられないよ」
か細い声で一言一句を慎重に紡ぎ出す様子に、惑わせてしまっているという申し訳なさが募った。
ここまでたどり着いてしまった平行線は、きっとこの先も交わることはないのだろう。
ただその線は、血が繋がっているという一点において半永久のものであり、途切れることはない。
「ヒカル兄、ここで一緒に住もうよ。だってオレたち家族なんでしょ」
唐突な発言に顔をあげた晶は、ぽかんとくちを開けて翠春の顔をじっと見つめた。
「あくまで兄弟として同居するだけ、っていう話なら……考えてやらないこともない、けど」
そんな妥協案を提示してくるあたり、どうしたってこのひとは自分に甘いのだ。
「さすがにそれは無理」
「即答すんなよ」
呆れたように笑う晶の姿に、すこしだけ安心する。
だが、さすがにこればかりは聞き入れるわけにいかないな、と釘を刺されてしまい、翠春はがっくりと肩を落とすのだった。
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