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過去編
初夜-4 晴斗
しおりを挟む恥ずかしいから、と乞われて照明を落とすと、晶の裸体が窓からの月明かりにぼんやりと浮かびあがった。
普段は衣服に隠れている肌のあまりのしろさに、晴斗は伸ばしかけた手を思わず止めてしまう。
それは、まだ誰も足跡をつけていない新雪のうえに、最初の一歩を踏み出す前のためらいにも似て。
「ハルトさん……」
なかなか動こうとしない様子に、晶が不安そうな顔をのぞかせる。
そっと抱き寄せると、強張った身体から緊張が伝わってきた。
「本当に、いいの?」
ついそんな弱気なセリフを口にしてしまい、この期に及んでなにを言っているのか、我ながら情けないとは思う。
そんなためらいに踏ん切りをつけさせるように、晶はこくりとちいさくうなずくと晴斗の肩にこつんと頭を預けてきた。
「おれは……貴方が、喜んでくれるなら」
消え入るように呟かれた言葉は、決して嘘ではないのだろう。
自己犠牲、と言うと大袈裟にすぎるが、彼は確かに、昔から身内や仲の良い者に対して献身的な部分があった。
そのことに付け込んでいるという罪悪感は、確かに晴斗のなかに存在している。
だが、おそらく義弟に対しても同じだったのだろう、という嫉妬心がそれを凌駕し、いまの彼を動かしているのもまた事実だった。
そもそも、お互いに男子校育ちの身である。てっきり経験のないものと思い込んでいただけに、晴斗は想像以上に晶の告白に衝撃を受けていた。
今にして思えば、初めて出逢った頃から既に、彼に対して淡い恋心のようなものを抱いていたのだ。
こんなことなら、再会したときにさっさと済ませておけば良かった、と後悔の念がよぎる。
そんなことを考えながら顔を近付けると、晶が息を詰めたのがわかった。
まだ慣れていないようなその仕草に煽られ、先程とは違う深いくちづけを交わす。
「……っ、ん、ふっ……、」
合間に聴こえる吐息すら興奮の材料になって、晴斗は夢中でやわらかなくちびるを貪った。
舌を差し入れ、歯列をなぞるようにすると、腕のなかの身体がびくびくと反応を返してくる。
逃れようとするところを追いかけるうちに、ベッドに押し倒す格好になった。
荒い呼吸を繰り返しながら、晶が潤んだ瞳を向ける。
月光を受けて艶めいた陶器のような肌や、上気した頬。濡れた、紅いくちもと。涙を湛えた透明なまなざしがゆらめく様。
それらがインモラルな雰囲気に拍車をかけ、抑えられない衝動に駆りたてる。
きゅっと引き結んだくちびるに彼の決意を感じて、晴斗は愛おしさと共に、狂おしいほどの独占欲が湧き上がるのを感じていた。
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