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第1部
act.10-燈亜
しおりを挟むスクールに着いたまでは良かったが、まだ早いため前のクラスがレッスン中だった。
仕方なく、燈亜はロッカールームで時間を潰すことにする。
落ち着かない気持ちのまま着替えを済ませ、早速スマホの通知を確認した。
当たり前だが、メールはまだ届いていない。
つい何度も更新してしまい、そのたびにがっかりすることを何度か繰り返していると、誰かがロッカールームに入って来た。
「あれ~、トモじゃん。珍しいね」
おおげさに驚きながら近付いてくるのは、同じクラスでレッスンを受けている和弥だ。
普段の燈亜なら、集合時間ギリギリに滑り込むのがお約束なのである。
「今日は、ちょっと用事があったので……」
「ふうん?」
言い淀んだ燈亜に和弥は不思議そうな顔を向けたが、それ以上は追及してこなかった。
「今日は新曲の振付、初合わせするんだよね」
話題が変わったことにほっとして、燈亜は頷く。
「あの曲、すごく好きです」
つい先日、次のダンスコンクールに使用する曲が発表されたばかりなのだ。
燈亜は最初に聴いたときからすっかり気に入って、このところずっとヘビロテしている。
「作曲したひと、帆南先生の知り合いらしいよ」
「そうなんですか」
ふたりが所属するクラスの担当である帆南は、staysailという名前で活動する有名なダンサーだった。
当然、音楽業界にも知り合いが多い。
「あ、終わったみたい」
気付くと、レッスンが終わったのだろう、練習室のざわめきがロッカールームまで届いてきている。
燈亜は最後にもう一度だけ通知を確認し、溜め息をつきながらマナーモードに切り替えた。
***
「この時間に末っ子組が揃ってるなんて、今日は雪でも降るのか?」
同じクラスのレッスン生たちが、燈亜と和弥のふたりを見て笑い合った。
燈亜の所属するクラスは上級向けで、働きながらプロを目指しているような者ばかりだ。必然的に、比較的時間の自由がきくフリーターが多い。
まだ学生のふたりは、セット扱いで年上の皆から可愛がられているのだった。
からかわれてむっとした顔の燈亜に、和弥が耳打ちしてくる。
「みんな、トモが元気ないって心配してたんだよ」
「ぼくのこと、コドモ扱いし過ぎですよ……もう、ブラックのアメリカーノだって飲めるのに」
燈亜のつぶやきを聞いた和弥も、くすくすと笑い出した。
「大人の基準がそれなの?」
「そういうわけじゃないですけど……」
こんな時でさえも、やっぱり思い浮かぶのは晶の声と笑顔で。
燈亜は期待と不安がないまぜになった気持ちのまま、しぶしぶウォーミングアップを始めるのだった。
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