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過去なんてものは握りつぶしたい
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私は昨日の自分に囚われている。
いつか幸せになりたいその為の今日でその為の明日でその為に積み上げたはずの昨日なんだと思うのに。
だのに、明日からの先の見えない将来は脳裏に焼き付いて何度も反芻してきた失敗だらけの毎日や今だから気づけるかつては気づくことができなかった幸福、そういうものを通して見てしまうから、いつだって暗く濁っている。まるで傷や汚れで覆われた眼鏡を通した景色のようで
ぼやけてくぐもったその世界で私は多くの特別に気がつくこともできなかった。
過去なんて捨て去りたい
そんな物に一喜一憂しているうちに幸せなんて物はこの手のひらをすり抜けて行ってしまうから。
だってそうでしょ?
私が彼とまだ一緒だった頃、あの頃私は、数年前の失敗のことばかり気にかけていて彼とともに過ごした大切な毎日を当たり前のように生きてしまっていた。今思えばその日々は昔の自分をすり潰してでも得難い特別なのに。全てはもう、今思えばなのだ。
結局今の私は数年前の自分からなに一つ変わっていない。
ただその頃の私には彼がいて今より少し満ち足りていたんじゃないかと思う。
過去の優しい記憶はいつだって美しく見える。あの頃に戻ることはできないと現在の自分との乖離を意識すればするほどにその輝きは一層際立って見える。要するに私は不幸な人間なんだと思う。
近くにある幸せに気がつかないばかりかなくなって初めて惜しいことをしたと自分は愚かな女だと涙を流して気がつくのだ。そんな救いようのない人間性。
生きづらさを感じるのは私が今を全力で生きていないからなのだろう。
無意味な逡巡をやめて過去の自分を諦めて正面から今の自分を見つめたら案外、今の私の幸せに気が付けるかもしれない。
でもその時、かつての私を捨てた自分自信に私は失望しないだろうか。
過去にとらわれるのは確かに愚かだ。それでもそこには確かに美しい日々が微睡みのような優しさが抱えきれない幸せが確かにあったはずなのだ。
だからこそ苦しくても捨てられない。忘れたくてもなかったことになんてしたくないんだと思う。
無くして初めて気づく、それを失った悲しみと虚しさと痛みでしか幸せを実感できないんだろう。
わたしは惨めだ。
泣きたくなる。
喉の奥から悲しみがせり上がってくるのを感じる。
もう、何もかも無くなればいいと思う。
全部消えてしまえ過去も未来も今この瞬間も全部。
明日なんていらない、明日なんて来なくていい。
そうすればもう明日に馬鹿な期待なんて抱かなくて済む。明日はもう少し良くなるなんて思わなくて済む…
涙がとめどなく溢れてきて私は両手でそれを拭った。大粒の涙が私の世界を滲ませる。
ひとたび泣き出すと惨めな自分がいっそう惨めで止まらなかった。
どうして涙が出るんだろう。泣いたって何も変わらないことを一番知っているはずなのに、泣いたって私の行く先は明るいものになったりしない。誰も手を伸ばしてはくれない。
結局誰もがひとりで立ち上がるしかないんだ。
死にたくても、泥にまみれても、裏切られても、大切なものを失って、生きる希望が見えなくても、
私たちは死ぬまでひとりで生きていくんだ。
その夜、いくら泣いても涙は止まらなかった。いくら悔やんでも悔やみきれない後悔、わたしは消え入りそうになりながら窓の外をみていた。
いくら悲しんでも足りないことが、どんなに足掻いても取り返せない瞬間がこの世界には溢れている。
過去ばかりが眩しいんだ。過去だけが鮮明に確かに見えているんだ。
だからわたしは過去に浸り暗くて不確かな明日をいらないと思ってしまうのだろう。
いつか幸せになりたいその為の今日でその為の明日でその為に積み上げたはずの昨日なんだと思うのに。
だのに、明日からの先の見えない将来は脳裏に焼き付いて何度も反芻してきた失敗だらけの毎日や今だから気づけるかつては気づくことができなかった幸福、そういうものを通して見てしまうから、いつだって暗く濁っている。まるで傷や汚れで覆われた眼鏡を通した景色のようで
ぼやけてくぐもったその世界で私は多くの特別に気がつくこともできなかった。
過去なんて捨て去りたい
そんな物に一喜一憂しているうちに幸せなんて物はこの手のひらをすり抜けて行ってしまうから。
だってそうでしょ?
私が彼とまだ一緒だった頃、あの頃私は、数年前の失敗のことばかり気にかけていて彼とともに過ごした大切な毎日を当たり前のように生きてしまっていた。今思えばその日々は昔の自分をすり潰してでも得難い特別なのに。全てはもう、今思えばなのだ。
結局今の私は数年前の自分からなに一つ変わっていない。
ただその頃の私には彼がいて今より少し満ち足りていたんじゃないかと思う。
過去の優しい記憶はいつだって美しく見える。あの頃に戻ることはできないと現在の自分との乖離を意識すればするほどにその輝きは一層際立って見える。要するに私は不幸な人間なんだと思う。
近くにある幸せに気がつかないばかりかなくなって初めて惜しいことをしたと自分は愚かな女だと涙を流して気がつくのだ。そんな救いようのない人間性。
生きづらさを感じるのは私が今を全力で生きていないからなのだろう。
無意味な逡巡をやめて過去の自分を諦めて正面から今の自分を見つめたら案外、今の私の幸せに気が付けるかもしれない。
でもその時、かつての私を捨てた自分自信に私は失望しないだろうか。
過去にとらわれるのは確かに愚かだ。それでもそこには確かに美しい日々が微睡みのような優しさが抱えきれない幸せが確かにあったはずなのだ。
だからこそ苦しくても捨てられない。忘れたくてもなかったことになんてしたくないんだと思う。
無くして初めて気づく、それを失った悲しみと虚しさと痛みでしか幸せを実感できないんだろう。
わたしは惨めだ。
泣きたくなる。
喉の奥から悲しみがせり上がってくるのを感じる。
もう、何もかも無くなればいいと思う。
全部消えてしまえ過去も未来も今この瞬間も全部。
明日なんていらない、明日なんて来なくていい。
そうすればもう明日に馬鹿な期待なんて抱かなくて済む。明日はもう少し良くなるなんて思わなくて済む…
涙がとめどなく溢れてきて私は両手でそれを拭った。大粒の涙が私の世界を滲ませる。
ひとたび泣き出すと惨めな自分がいっそう惨めで止まらなかった。
どうして涙が出るんだろう。泣いたって何も変わらないことを一番知っているはずなのに、泣いたって私の行く先は明るいものになったりしない。誰も手を伸ばしてはくれない。
結局誰もがひとりで立ち上がるしかないんだ。
死にたくても、泥にまみれても、裏切られても、大切なものを失って、生きる希望が見えなくても、
私たちは死ぬまでひとりで生きていくんだ。
その夜、いくら泣いても涙は止まらなかった。いくら悔やんでも悔やみきれない後悔、わたしは消え入りそうになりながら窓の外をみていた。
いくら悲しんでも足りないことが、どんなに足掻いても取り返せない瞬間がこの世界には溢れている。
過去ばかりが眩しいんだ。過去だけが鮮明に確かに見えているんだ。
だからわたしは過去に浸り暗くて不確かな明日をいらないと思ってしまうのだろう。
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