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第3話 神秘の監獄島(3)
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エイミーに案内されてジェフリーがやって来た囚人たちの居住区は、脱走を防ぐための金網に周囲をぐるりと囲まれた一つの小さな町のような場所だった。囚人たちはバーンズタウンと呼ばれるこの町で暮らしながら島の各地へと駆り出され、密林や草原や沼地などを切り拓いて農地や住宅地に変えていく労役に勤しむことになる。
「よう。お前が新入りか。ちょっと顔貸せや」
掘っ立て小屋のような木造の粗末な家と、そのすぐ前にある小さな野菜畑。専用の生活空間として町の片隅に与えられた自分の敷地を見渡してこんなものかと溜息をついたジェフリーに、いきなり殴りかかるかと思うような勢いで近づいてきたのは隣の家に住む囚人のドワイト・アグースという男である。
「シケた面してんなあ。名前は何て言うんだ。どこから来た?」
片手でジェフリーの下顎を乱暴に掴み、息がかかるほど顔を近づけてそう訊ねてきたドワイトは、茶色の髪と髭を無造作に伸ばした大柄で筋骨隆々とした中年男性だった。いかにも犯罪者という厳つく野性味のある風貌だが、ジェフリーはそんな彼にも怯むことなく素っ気ない態度で答える。
「ジェフリー・ウォルコット。ロッドウェル島の出身だ」
「おお、俺と同じだな。で、何でこの島に送られてきた? 俺みたいに人でもぶっ殺したか」
「そういうことになっている」
「なっている……? 何だそりゃ」
なるほど冤罪ということか、と、少し考えてから納得したドワイトはジェフリーの顎から手を放すと肩を揺らして愉快げに笑った。こっちにとっては笑い事じゃない、とジェフリーは顔をしかめたが、彼にはそれがますます面白いらしく大声を上げて爆笑する。
「言っとくがな、俺様はお前と違って本物だぜ。元は料理人やってたんだが、仕事で同僚と揉めちまってな。ムカついたんで殴り殺してやったんだ。お陰で捕まっちまってこんな世界の果てに島流しさ」
「そんなとんでもない話を楽しそうに語れるのは狂ってるな」
「ああ。そいつはよく言われる。褒め言葉として受け取っておくぜ」
「誰が褒めるかって」
話がまるで噛み合わなくて疲れる。呆れたように顔を背けたジェフリーの元に、他の囚人たちも物珍しそうにぞろぞろと集まってきた。
「おい、お前ら。紹介するぜ。新入りのジェフリーだってよ」
ドワイトが言うと、二人を囲んだ十数人の男女が冷やかすように声を上げたり口笛を吹いたりする。どれも本国でそれなりの罪を犯して追放されてきた流刑囚ばかりである。自分も決して品行方正な人間ではないとはいえ、こういう種類の輩と共に暮らしていかなければならないのは大いに難儀しそうだとジェフリーは憂鬱になった。この島ではかなり自由な生活が許されている分、他の囚人たちとの付き合いの幅も普通の牢獄よりもずっと広いだろう。
「よう。俺はマシュー・ハンコックってんだ。よろしくな」
痩せた銀髪の若者が、そう名乗ってジェフリーの肩に馴れ馴れしく手を乗せる。その軽薄そうな笑顔を厭うように、ジェフリーは小さく舌打ちしながらマシューの手を払いのけた。
「ジェフリー・ウォルコットだ。よろしく」
こんな連中によろしくお願いしたい気持ちなどは微塵もないものの、ひとまず形通りの挨拶をしてそっぽを向くジェフリーであった。
「よう。お前が新入りか。ちょっと顔貸せや」
掘っ立て小屋のような木造の粗末な家と、そのすぐ前にある小さな野菜畑。専用の生活空間として町の片隅に与えられた自分の敷地を見渡してこんなものかと溜息をついたジェフリーに、いきなり殴りかかるかと思うような勢いで近づいてきたのは隣の家に住む囚人のドワイト・アグースという男である。
「シケた面してんなあ。名前は何て言うんだ。どこから来た?」
片手でジェフリーの下顎を乱暴に掴み、息がかかるほど顔を近づけてそう訊ねてきたドワイトは、茶色の髪と髭を無造作に伸ばした大柄で筋骨隆々とした中年男性だった。いかにも犯罪者という厳つく野性味のある風貌だが、ジェフリーはそんな彼にも怯むことなく素っ気ない態度で答える。
「ジェフリー・ウォルコット。ロッドウェル島の出身だ」
「おお、俺と同じだな。で、何でこの島に送られてきた? 俺みたいに人でもぶっ殺したか」
「そういうことになっている」
「なっている……? 何だそりゃ」
なるほど冤罪ということか、と、少し考えてから納得したドワイトはジェフリーの顎から手を放すと肩を揺らして愉快げに笑った。こっちにとっては笑い事じゃない、とジェフリーは顔をしかめたが、彼にはそれがますます面白いらしく大声を上げて爆笑する。
「言っとくがな、俺様はお前と違って本物だぜ。元は料理人やってたんだが、仕事で同僚と揉めちまってな。ムカついたんで殴り殺してやったんだ。お陰で捕まっちまってこんな世界の果てに島流しさ」
「そんなとんでもない話を楽しそうに語れるのは狂ってるな」
「ああ。そいつはよく言われる。褒め言葉として受け取っておくぜ」
「誰が褒めるかって」
話がまるで噛み合わなくて疲れる。呆れたように顔を背けたジェフリーの元に、他の囚人たちも物珍しそうにぞろぞろと集まってきた。
「おい、お前ら。紹介するぜ。新入りのジェフリーだってよ」
ドワイトが言うと、二人を囲んだ十数人の男女が冷やかすように声を上げたり口笛を吹いたりする。どれも本国でそれなりの罪を犯して追放されてきた流刑囚ばかりである。自分も決して品行方正な人間ではないとはいえ、こういう種類の輩と共に暮らしていかなければならないのは大いに難儀しそうだとジェフリーは憂鬱になった。この島ではかなり自由な生活が許されている分、他の囚人たちとの付き合いの幅も普通の牢獄よりもずっと広いだろう。
「よう。俺はマシュー・ハンコックってんだ。よろしくな」
痩せた銀髪の若者が、そう名乗ってジェフリーの肩に馴れ馴れしく手を乗せる。その軽薄そうな笑顔を厭うように、ジェフリーは小さく舌打ちしながらマシューの手を払いのけた。
「ジェフリー・ウォルコットだ。よろしく」
こんな連中によろしくお願いしたい気持ちなどは微塵もないものの、ひとまず形通りの挨拶をしてそっぽを向くジェフリーであった。
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